« そろそろ勉強しないとね | トップページ | The Polar Express »

2005年5月27日 (金)

[映画]キングダム・オブ・ヘブン

★★★★☆

エンタメとしては75点だけど、リドリーの志にプラス10点ってところかな。個人的には「トロイ」より好み。あれはあれで見所いっぱいだったけど(エリック・バナとか、バカな子ほど可愛い第二王子とか、ショーンBとかオデュッセウスとか智将とか)。

でも、この作品、米国で興行成績が振るわなくても、ある意味当然かも。「中世、鍛冶屋の青年が騎士となって十字軍に参加」という一行解説や予告編を見ると、一見、キリスト教対イスラム教という単純な図式による極めて好戦的な内容を想像してしまうけど、実はそうではなくて、方向性としては全く逆といっていいくらい(好戦的という意味ではLotRの方がよほど…)。
このご時勢に、イスラムの名将サラディン(サラーフ・アッディーン)のことをきっちり「英明で寛大な軍事の天才」として魅力的に描くだけでも、私としては結構ビックリなんだけど(まぁ、登場させる以上はヘタな描き方はできない人ではあるけど)、「キリスト教徒とユダヤ教徒とイスラム教徒が共存するユートピアとしてのエルサレム王国」というのをわざわざテーマに持ってくるあたりも、立派というか商売っ気が無いというか。そして、いわゆる「聖戦」の欺瞞とか「戦争の大義名分」の空虚さというものを随所でチクチク語っているあたり、戦争映画の皮をかぶってはいるものの、その実かなり「非国民」な映画という見方も可能(リドリー自身はイギリス人だけど)。したがって、一部か半分か大部分かは分からないけど、キリスト教的頑迷さに凝り固まって、対立という図式によってのみイスラムを捉えているであろうアメリカ人にそっぽ向かれるのもむべなるかな、という気がする。

ストーリー的には理想主義的に過ぎてあまりにも綺麗過ぎる気もしたけど、これ、実話がベースなのね。勉強になりました。事実は小説よりも奇なり、ということなのだろう。

以下、雑感+突っ込み+若干ネタバレ。

またもや予告編が大嘘つき。いい加減、恋愛ネタで釣ろうという姑息な手段に頼ってくれるな。禁断の恋ったって全体の5%くらいなんだけど。でも、公式HP(US)に行ったら、あちらの予告編もシビラがいっぱいだった。。。

青みがかったような、クリアーな映像は非常に美しい。特に雪がちらつくシーン。全体的にちょっと「グラディエーター」を思い出させるけど、あれよりCG臭が薄くなってよりリアルな画面作りで、独特の世界観や雰囲気を作り出す手腕は、いつもながら卓越したものを感じさせる。だけど予想通りというべきか、戦闘シーンのカメラワークが混沌としてて目まぐるしかった。バリアンは今どこで何をしているんだ…と目を皿のようにすること数回。うー、ステディカム使ってくれ。と思ってパンフを見たら、撮影スタッフが「グラディエーター」と同じ人だった。ついでに監督は違うけど「オペラ座の怪人」も同じ。「ゴチャゴチャした映像美」が共通項か。
エルサレム攻防戦のシーンはLotRのヘルム峡谷の戦い、ミナス・ティリス攻防戦にそっくり。LotRが中世の城攻めをモデルにしてて、「キングダム…」(以下KoH)も同じく中世の城攻めを忠実に考証した結果なんだろうから、同じで当然というか、むしろ同じであるべきなんだろう。KoHの戦闘シーンについては、「確かにリアルだけど目新しいところがない」という悪口も聞こえるけど、「やぐらの倒し方」とか結構描写が細かいぞ。というマニアな意見はさて置いて、投石器はどう考えても破壊力あり過ぎで、ほとんど湾岸戦争のミサイルみたいだったなぁ。

オーリにはもうちょっと削げた感じとか、影が欲しかった。妻子を亡くしたばかりなのに、ちょっと笑うと人懐こさ全開になっちゃうのは如何なものかと。ただ、妙な暗さがないからこそ、純粋な騎士道の体現者、宗教的倫理ではなくヒューマニズム的良心に従うというキャラクターに違和感が無いのだとは思うけど。
それと、全体的に心理描写が食い足りない印象で、突然現れた父に対する葛藤とか、シビラに対してももっと色々あっても良かったかなぁ、という気がする。別に恋愛映画が見たいわけではないけど。
そもそも、鍛冶屋という初期設定の必然性は何なんだろう。エルサレム攻防戦で全軍(「軍」じゃないけど)を指揮できるほどいつどこで兵法を覚えたのか?とか、勉強する時間はあったかもしれないけどそもそも鍛冶屋が文字を読めるのか?とか、剣術の稽古はあれだけで足りるのか?とか、鍛冶屋から騎士に転職という設定に対する疑問符がいっぱい。

個人的一押しはジェレミー・アイアンズ(ティベリウス)。賢明な現実主義者でちょっと強面の軍事顧問ティベリウスは、中年好みにはストレートど真ん中。彼はちょっと崩れた中年ハンサムという印象が強いんだけど、今回はいかにも百戦錬磨の武人らしい。

ボードワン4世、エドワード・ノートンだということに、最後まで気が付かなかった。エドワート・ノートンは「レッド・ドラゴン」を見た時に不憫な役が似合う俳優だなぁと思ったけど、ここまで仮面とぐるぐる巻きで顔も声も分からない役だと、俳優として不憫な気がする。知らないで見たら、ファンでも果たして認識できるかどうか。でもちゃんとぐるぐるの隙間から賢王の叡智とか風格が滲み出ていたのは、さすがというべきだろう。

サラディン。名将は無駄な戦いはしません、神頼みはしません、水と物資は確保します、という見本のような人。単なる優れた武人以上の奥行きを感じさせる描き方で、「What is Jerusalem worth?」というバリアンの問いに対して、間髪を入れずに「Nothing」と答え、また「Everything」と付け加えるシーンは、中々含蓄に富んでいる。
ところで、字幕はサラディン(欧米読み)だったけど、みんなサラーフ・アッディーン(アラブ読み)って呼んでた気がする。字数が増えるからしょうがないか。まぁ、今日のところは勘弁してやろうって感じ?

最後に出てきた獅子王リチャード、同じく一瞬でありながら、「ロビン・フッド」のリチャード(ショーン・コネリー爺)のインパクトには完全に負けている。

2時間40分と長目だけど、ダラダラした感じは無くてむしろ駆け足気味。音響の良い映画館でどうぞ。

|

« そろそろ勉強しないとね | トップページ | The Polar Express »

映画」カテゴリの記事

コメント

素晴らしいレビューをどうもです
付け加える事はなにもありませんです、はい
バタフライエフェクトのレビューも書いて頂けると
嬉しいな、、、なんちゃって

投稿: ビヨ | 2005年5月29日 (日) 02:27

ビヨさん、いらっしゃいませ!こちらでは初めましてですね。

せっかくですから、なんか付け加えてくださいよ(笑)。

バタフライ・エフェクト、鳥頭な私はあの手の目まぐるしい脚本の場合、辻褄が合ってるのかどうなのかイマイチ判断し切れず…(^^;)。細切れな感想しか書けないかも。って、KoHのレビューも細切れですけど。そういえば、「オペラ座の怪人」のレビューも書きかけだったんだわ~。ははは。

投稿: 青猫 | 2005年5月29日 (日) 21:19

>獅子王リチャード、「ロビン・フッド」のリチャード(ショーン・コネリー爺)のインパクトには完全に負けている。

そうです!あそこでコネリーさんが出てたらよかったのにー。説明なしに王様ってわかるかも。
あのコネリーさんは、立ち姿だけでイギリスらしい気品や風格が出てました。一瞬でロビン・コスナーが吹っ飛びかすんじゃいましたよね。
イスラムの首領を演じた「風とライオン」のコスナーさんも素敵でしたね。

善対悪、白か黒かではなく、勝つだけが美学ではないのよーと言ってるところがハリウッドらしくない良さのある「キングダム」でしたね。

投稿: 丸々 | 2005年5月30日 (月) 14:10

「ロビン・フッド」のケビン・コスナーは、あの場面で完全にショーン・コネリーに食われてしまってましたね。一生懸命頑張ったコスナーにはちょっと災難でしたけど、王者の風格とはこのことか、という感じでした(^^)。
KoHのリチャードは、サラディンと戦ったら負けそう・・・。

この映画のエルサレム攻防戦、戦いのための戦いではなくて、交渉するための戦いという描き方が新鮮な印象でした。

投稿: 青猫 | 2005年5月30日 (月) 21:32

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/74079/4301693

この記事へのトラックバック一覧です: [映画]キングダム・オブ・ヘブン:

» キングダム・オブ・ヘブン [シカゴ発 映画の精神医学]
日本語オフィシャルサイト   先日読者より、「炎のメモリアル」のタイトルの解読の感想とともに、次のようなご意見をいただきました。  「樺沢先生は、聖書に結び付けすぎだと思います」  私が映画と聖書を強引に結び付けているわけではなく、ハリウッド映画のほと... [続きを読む]

受信: 2005年6月22日 (水) 14:34

« そろそろ勉強しないとね | トップページ | The Polar Express »