[映画]ベルベット・ゴールドマイン②
というわけで、少々ネタバレ感想。世間的に賛否両論というか、むしろボロクソにいわれててちょっとかわいそうなので、割と真面目に書いてみた。
ストーリーは、新聞記者アーサーのブライアン関係者へのインタビュー取材によってブライアン・スレイドという人物が語られ、そこにアーサーの記憶がオーバーラップするという重層的、多面的な形で展開する。
基本的に複数人物の回想形式なので、過去のシーンと現在のシーンが入り乱れ、なおかつ、PVシーンとライブシーンではストーリーがちっとも前に進まないということもあり、時間経過の把握がかなり難しい。また、伏線のはり方があまり巧妙ではないし、編集的にもちょっと難アリだったりする。おまけに登場人物の髪型・メイクがコロコロ変わって誰が誰やら分からなくなるので、「ワケ分からん」「意味不明」と評されがちなのも分かるのだが、ストーリー自体は別に複雑ではない。
大雑把にいってしまえば、バイセクシャルであるブライアン・スレイドとカート・ワイルドの愛憎劇に、アーサーの彼らに対する同性愛的な憧憬が絡むという感じ。恋愛映画といえば恋愛映画かな。
まずは、アーサーが取材する元マネージャー・セシル、元妻マンディの証言を通して、ブライアンの生い立ち、マンディとの出会いと結婚、メジャーデビューとスターダム、カートとの恋愛関係と破綻、狂言射殺事件、離婚などが語られる。
第三者であるマンディ視点ということもあるんだろうけど、ブライアンとカートの内面描写はやや表層的な印象である。さらに、ブライアンの容姿が超美麗なせいもあって、カートとの関係の描写も少女漫画じみててかなりファンタジーが入ってるようにも見える。ただ、マンディが散々、ブライアンやカートのことを実態とは異なる「フィクション」「イメージ」「幻想」と形容していたことを思い出せば、敢えて薄っぺらい表現方法をとったのかな、という気もしてくるのだが。
そういう意味では、アーサーのブライアン、カートに対する想いの方がはるかに丁寧でリアリティがある描写になっている。しかも、クリスチャン・ベールは表情の細かな変化が絶妙で、「寡黙の雄弁」とでも呼びたいような上手さがある。彼のこの芸達者ぶりもあり、狂言回したるアーサーは、実は影の主役なのかもしれないという気すらしてくる。全体的にゴチャついた構成も、アーサーの物語として完全アーサー視点で見れば、比較的すっきりと見られるのではなかろうか。
さて、マンディが、離婚後にブライアンを見かけたライブ「グラムロックの死」に言及するに至り、マンディの記憶と、当時現場にいたアーサーの記憶が見事にシンクロし、これを起点として視点を完全にアーサー中心にシフトさせる辺りはなかなか上手い。そして、これ以降、ブライアンの物語は10年前から現在=1984年に収束し、狂言事件以降の彼の末路(言い過ぎか?)が明らかになる。
アーサーにとってブライアンに関する一連の取材は、自らの過去の古傷に塩を塗るようなものであり、彼はそこで得た真相になんら安らぎを見出せなかったはずである。アーサーの救いとなったのはむしろ、思いもかけないカートとの遭遇だったといえるだろう。2人は、最初から最後までいわばフィクションの塊であり、いまや見事なまでに「墜ちた偶像」でもあるブライアンに対する喪失感と哀惜の念を共有することになる。このアーサーとカートの語らいのシーンは、この映画で唯一といっていい、現実感と温かみを伴う内面の交流が仄見えるシーンでもある。カートのアーサーに対するあからさまに刺々しい雰囲気が、すっと柔和なものに変わる様が、何ともいえない。
アーサーが冒頭で「過去の亡霊」と呼んだもの、すなわち自らの奥深くに沈めることになった青春の思い出は、この時点である種の突破口を見出し、清算されたような気がする。最後のアーサーの表情にはなんともホッとさせられるし、清々しさもあって後味の良いラストである。
そんなこんなで、グラムロックってどんなもんかな、という興味も沸いてきたりして。なるべくCDを増殖させないように自重しているけれど、とりあえずサントラはぽち済み。
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