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2006年1月23日 (月)

ちょっとロンドン 3日目 その2

機嫌良く大英を後にしたは良いが、この時点で既に、当初に立てた予定は遅れに遅れている。
次の目的地Tate Modern(テート・モダン)は、テムズ南岸にあって大英からは乗り換えが数回必要な上に、地下鉄駅から多少離れていて、道に迷いそうな気配が濃厚だった。基本的に私は、国内外問わずよほどのことが無いとタクシーなんぞ乗らないし、ましてやあれだけ地下鉄&バスが発達してて、なおかつ英語が通じる大都市でタクシーに頼るのはあまりにも楽をし過ぎなんじゃないか、という気分があったりもする。とはいえ、地下鉄を使ったらおそらくはほぼ倍近く時間がかかるだろうことを思うと背に腹は変えられず、ちょっとばかし贅沢をすることにする。
さて、ガイドブックを見ると必ずといって良いほど、「ロンドンのタクシー(ブラック・キャブ)の優秀さは世界一」とある。タクシーに乗ったのはこれ一回きりなのでそれだけでどうのこうのいうのもナンだが、確かに非常に快適であった。運転はキビキビきっちりで、確実に最短距離を走ってくれ、加えて運転手のガラも大変良く、Tate Modernに着いたら「入口はあの奥の方だから、そこから入ってね」と教えてくれるオマケ付き。

というわけで、午後2時過ぎに無事Tate Modernに入った。もちろん、昼ごはんなんか食べてませんともさ。

TateModern
正面。右手にはブラック・キャブ。

TateModern2
広いエントランス。左のガラスの向こうにはミュージアム・ショップ兼書店が入っている。ミュージアム・ショップは2階にもある。

ここはTate Gallery(テート・ギャラリー)の別館である。2000年にオープンした比較的新しい美術館で、20世紀以降の現代美術をフィーチャーしている。建物は発電所を改築したとのことなので、煙突はその名残なんだろう。
企画展はアンリ・ルソーの回顧展をやってるのだが(またフランス物だ)、まずは上階の常設展示室へ。ここの常設は他とちょっと違ってて、編年順(時代順)、地域別ではなくて、裸体、アクション、肉体、歴史、記憶、社会などのテーマ別になっている。テーマはその時々で多少変わるようだ。

それにしても、なんで平日の常設展示でこんなに人がいるのかすごい謎。しかもどう見ても観光客よりも地元の人間が多く、ほとんど英語しか聞こえてこない。イギリスに来て英語が聞こえるのは当たり前というなかれ、普通観光地ではラテン語系はじめ、英語以外の言語の占める割合が意外と高いのである。
特徴的なのは、10代~20代の若者が非常に多いこと。うじゃうじゃいる、といっても良いくらい。10代の多くはどうやら学校の宿題で来ているようで、大判のノートやスケッチブックに解説パネルの内容をメモしたり、色鉛筆を駆使して一生懸命模写していたり。中には寝転がってお絵かきしているツワモノや、フラッシュを焚いて写真とって怒られている高校生もいたけれど。それでも、モンドリアンの抽象作品を前に、たくさんの子供たちが真剣に作品を眺めて、自分なりのレポートをこさえている様子を見ると、文化・芸術を大事にする土壌ということは、こういう所から生まれてくるのかな、などと思ったりもするのである。

なお、このTate Modern、オープン6週間で入館者100万人を突破したというお化け美術館だったりする。ちなみに世界有数の観光地である大英博物館の年間入館者数が700万人くらいなのだが、Tate Modernがいかに常設は無料といったところで、基本的に現代美術専門の美術館であるということを考えるとちょっと恐ろしい数字である。何しろTate Modernの場合、ロンドンの観光地としては皆が「必ず」行く場所ではなくて、せいぜいTop10には入るかもしれないというくらいの位置付けだと思うので、上記の数字はやっぱりスゴイな、と思うのである。
イギリスは保守的で、古いものや伝統を重視するというイメージが強いけれど、決してそれだけではなくて、アヴァンギャルドで新しいものに対してもとてもオープンで、多種多様な価値観を認めようとする部分がすごくあるのだなぁ、と感心した次第。何しろ、芸術作品というのは完全に「個人の個性」に拠って立つものであり、それ故に、特に前衛的といわれる作品を見るということは、この世界の数多ある「個」の存在を認識することだったりする。そして、「この世には、自分とは違う感性、価値観の人間が一杯いるのだなぁ」という事実を否応無く認めた上で、自分との何らかの接点を探ることでもあるのだから。

さて、色々と感心しながらスタバのようなカフェでマフィンなどをお腹に入れて、アンリ・ルソー展の会場へ向かう。
展覧会タイトルは「Henri Rousseau Jungles in Paris」(会期:2005年11月3日~2006年2月5日)。
企画者はCourtauld Institute of Art(コートールド美術研究所)の教授Christopher Green、Tate ModernのキュレーターFrances Morris、オルセー美術館のキュレーターClaire Freches-Thoryの三者。なので、オルセーにも2006年3月13日~6月19日の会期で巡回する。

企画展チケットは10ポンドとやや高額だけれど、20頁程度の解説小冊子がもれなく付いてくる。なお、展覧会にタイアップしている出版物は数種類に渡り、入口で配られる無料の小冊子をはじめ、80頁前後の小ぶりの画集(解説付き)タイプ、ハードカバーのミニ絵本のようなもの(ギフト用に良さそうな感じ)、専門論文を収録した展覧会図録まで、各ニーズに合わせて何でも来い!という充実のラインナップ。さすがはTateといったところだけれど、展覧会オープンに向けてTateの出版部門は多忙を極めたことだろう、と勝手に想像して勝手に同情モードに入ってしまうのは、LotR他のPJ関連作品のメイキング映像を見過ぎですか、私。

1854376128Henri Rousseau
Christopher Green Frances Morris
Tate Publishing 2005-11-30

by G-Tools
0810956993Henri Rousseau: Jungles in Paris
Frances Morris Christopher Green Nancy Ireson
Harry N Abrams 2006-04

by G-Tools
1854376152Interpreting Henri Rousseau
Nancy Ireson
Tate Gallery Pubn 2005-10-31

by G-Tools

欧米では、この手の展覧会図録の類は一般流通してて、結構アマゾンでも買えるのが便利。

実をいえばアンリ・ルソーは特に興味のある画家ではなくて、あまり期待していたわけでもなかったのだが、大変面白かった。個人的にはルソーの作品は、単発で見るとどってこと無いように思えてしまうのだが、今回みたいにまとめて見ると、個々の作品の完成度の高さとか、牧歌的・楽園的であると同時に非常にシュールレアリスティックでもある独特な世界観やヴィジョンに浸ることができて大変よろしい。
ところでルソーはしばしばジャングルをモティーフに描いていて、もちろんそれが「Jungles in Paris」という展覧会タイトルの所以でもあるのだけれど、ここで大事なのは、ルソーは近場の自然史博物館や植物園に取材をしているとはいえ、実際に現地取材をしているわけではないという点。要するに彼のジャングルを描いた作品というのは、決して実際の風景ではあり得ず、基本的には彼の類稀ともいうべきイマジネーションの産物なのである。そういう点を踏まえると、この「Jungles in Paris」というタイトルは、実際にはジャングルに行ったことのないルソーが都会の真ん中で材料をコツコツと収集しながら空想のジャングルを構築していく様子を想像させて、なかなか秀逸なタイトルであるように思われる。
そんな訳で、彼のイメージ・ソース=彼が想像のジャングルを作り上げる過程で参考にしたであろう雑誌や写真などの資料展示が大変充実していた。リアルで現実的な資料を提示することで、逆にルソーの作り出す世界がいかに現実から離れているのかということがよく分かるし、そのイメージの豊穣さが強調されるような感じもあった。
展覧会のスペース、作品の量などは多すぎず少なすぎず、程よい感じ。さほど混雑もしておらず、快適な鑑賞環境であった。

展覧会を見終わってから、美術館付属の本屋を軽く物色。ここは美術史関係だったら、ヨーロッパ最大級の規模を誇るとか。

TateModern3
細長い店舗。

閉館時間までびっちりいて、夜はいよいよ「Guys and Dolls」である。さて、地下鉄駅はどっちだ。。。

ちょっとロンドン 3日目 その3に続く。

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コメント

しばらく行ってませんが、私はテイトモダンが結構好きです モダンアートって興味が無かったのですが、(勿論今でもものによりますが)テイトモダンを訪れてから、ちょっと見方が変わりました。 近くのパブには良く行くんですが、中に入ってませんね~☆

投稿: ukmari | 2006年1月24日 (火) 06:38

ukmariさん、ようこそいらっしゃいませ!ロンドン在住でいらっしゃるんですね。

Tate Modern、従来的な分類を無視したテーマ別展示というのは、意外ととっつき易くて面白かったです。館内の、新しいんだか古いんだか微妙によく分からない雰囲気も気に入りました。次回ロンドン行ったら、また行きたい美術館の一つです。

パブは今回行きそびれました。ちょっと一人では入り難いですね(^^;)。

投稿: 青猫 | 2006年1月24日 (火) 21:55

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