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2006年3月23日 (木)

ツィメルマン ショパンのピアノ協奏曲第1番聴き比べ #1

①カルロ・マリア・ジュリーニ+ロサンゼルス・フィルハーモニー管弦楽団版(1978) ライヴ録音 
カップリングにジュリーニ+ロサンゼルス・フィルのP協奏曲第2番(1979)

B000060N7Rショパン:ピアノ協奏曲第1番・第2番
ツィマーマン(クリスティアン) ジュリーニ(カルロ・マリア) ロサンゼルス・フィルハーモニー管弦楽団
ユニバーサルクラシック 2002-03-21

by G-Tools

これ、デビューアルバムだったかな。ショパン・コンクール優勝の3年後のライヴ録音で、ケレン味の無い、大変丁寧できちんとした演奏である。

とにかく文句無く上手い。安定感抜群で、しっかりと地に足がついた感じは、とても21歳とは思えない。音の粒も完璧なまでに揃ってて、どんなピアニッシモの音であっても一つ一つの音がくっきり聴こえてくる。ツィメルマン特有の完璧な技巧とその類稀なコントロールが、既にこの時点で出来上がっていたということが分かる。
ちなみに、私がこれがライヴ版だということに気が付いたのはつい最近のことで、ずっとスタジオ録音だと思っていた。それくらい完成度が高いし、いかにも余裕綽々という感じで堂々たる風情である。

音色は非常に端正なのだが、同時に、青春の煌きそのままの明るさに満ちている。もう、一楽章の冒頭の和音からして“きらんきらん”である。それでいて、端から端まで品が感じられるのは、いくら若くてもさすがはツィメルマンといったところか。「品」といっても、線の細さはあまり無くて、「上品」「気品」よりもむしろ「品格」といった方が似つかわしい。
そして、とにかく颯爽としてて、迷いや曇りが感じられない。根暗いところや屈折したところがまるで無いし、育ちが良さを窺わせるというか、さぞや良い家庭で育ったんだろうなぁ、などと思わず想像してしまうような雰囲気がある。姿勢が良くて、涼やかな目でまっすぐに前を見ているような、そういう好男子のイメージである。

正直、ショパンの協奏曲第1番については、もっと良い演奏が世の中にあると思う。腕が立って、しかも個性的でインパクトのある演奏という意味で。ツィメルマンの演奏は決して強烈な個性を感じさせるものではないし、楷書的で教科書的に過ぎるという人がいるであろうことも、理解できる。

それでもやはり、このピアノ協奏曲を「ショパン若き日の青春の調べ」と捉えるのであれば(作曲当時、ショパンは20歳くらい)、この溢れんばかりの瑞々しさ、清冽さ、リリシズムは何にも代え難い資質である。総じて楷書的であるとはいっても、ツィメルマンの演奏は繊細な詩情に満ちていて、随所にしみじみとした切なさや甘さも垣間見える。そういう意味では、若手技巧派にありがちなスポーティに過ぎて情緒に欠ける演奏や、個性を主張するあまり「ショパンらしさ」とは離れてしまっている演奏などとは完全に一線を画している。ショパンのピアノ協奏曲の本来あるべき姿に極めて近いといえるだろう。

ただし、これの一年後に録音したカップリングの2番の方が音楽的に良い演奏かな、という気はする。この2番、要するにショパンが初恋(片想い)の苦悩を綿々と綴った曲なんだけど(何かこう書くだけで恥ずかしいな)、ツィメルマンの演奏は、聴いてると小っ恥ずかしさのあまり、頭を抱えて転げまわりたくなるような、そういう雰囲気がものすごくある。曲の方向性として、完全に正解ということなんだと思う。

2番の方が良いのは、単に相性の問題なのか、それともツィメルマンが一年の間にメキメキっと成長したのか。多分後者だろうと私は思っている。

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コメント

初めまして。
kyaneronです。
若き日のツィーマーマンの演奏の特色を大変的確に把握されていて、驚きました。
プロの評論家など足元にも及びませんよ。
ツィーマーマン君のDGデビュー盤はモーツァルトのピアノソナタ集だったと思います。
また訪問いたします。

投稿: kyaneron | 2006年5月 6日 (土) 00:00

kyaneronさん、はじめまして。ようこそいらっしゃいました。

お褒めいただき、ありがとうございます(なんか照れますね(^^;))。「愛」あるレビューを心がけておりますが、盲目的でもまずいと思っておりますので、その辺のバランスを取りつつ(取れてるかな?)、日々書いております。

ツィメルマンのデビュー盤はモーツァルトでしたか。若い頃の録音は廃盤も多いですが、CD化して欲しいものです。

また遊びにいらして下さいね(^^)。

投稿: 青猫 | 2006年5月 8日 (月) 16:08

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