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2006年4月27日 (木)

ツィメルマン ショパンのピアノ協奏曲第1番聴き比べ #4

そろそろショパコン聴くのも飽きてきたけれど、この連載、果たしてちゃんと終わるのか?とやや不安になってきた。せめて、お髭氏来日までには何とかケリをつけたいんだけど(そうじゃないとコンサートレビューがあげられないじゃないか)。
さて、前回前書きだけ書いて放っておいた弾き振り版レビューの続きである。
前書きはこちら

③本人弾き振り+ポーランド祝祭管弦楽団版(1999)
スタジオ録音

B00005FJ6Fショパン/ピアノ協奏曲 第1番 ホ短調 作品11
ツィマーマン(クリスティアン) ポーランド祝祭管弦楽団 ショパン
ユニバーサルクラシック 2000-01-13

by G-Tools

これ、実は割と賛否両論である。歴史的名盤として大絶賛する人も非常に多いけれど、ツィメルマンのアルバムでこれだけ「否」が出てくるのも珍しいってくらい評価は割れている。

何が「否」なのかというと、良くも悪くも「濃ゆい」のである。

ショパンのピアノ協奏曲は割と清涼飲料水的な演奏が多いような気がするけれど、この新録は、清涼飲料水どころか濃縮還元100%ジュースを通り越して、どっしりボディのボルドーワインのような風情が漂うシロモノ。文字通り、デビューから20年、熟成に熟成を重ねました、という感じで、純粋純朴(?)なピアノの貴公子が20年経つとこんなになっちゃうのね、、、と感慨深くなったですよ。親戚のおばちゃんだったら間違いなく「昔はあんなに素直で可愛かったのにねぇ…」と呟くところである。

第一楽章冒頭、弦が鳴るなり、「…う゛っ」と絶句した私。とにかくオケの響きが分厚くて、やたら貫禄がある。そして、これぞロマン派!な感じで、メロメロに甘重い。これ、ロマンティックっていうか、感傷的というか、、、泣きが入ってるぞ。どことなく演歌っぽいぞ。もしかして、これはチャイコフスキーなのか?そうなのか?実はラフマニノフだったりして。
いずれにせよ、草食動物にはちょっと負荷が重い。胃もたれ・胸焼け要注意である。

ツィメルマンって(音楽的に)あまり色気が無くてストイックなタイプだと思っていたので、ある意味「やればできるんじゃん」な演奏ではある。ただ、慣れないことをしたせいなのか(ヒドイ言い草)、やや色気過剰気味で、ショパンのピアノ協奏曲でこんなにオトナの色気をムンムンさせて良いのか?という気がしなくもない。とりあえず、「ショパン20歳、爽やかな青春の息吹」とやらは、どこぞにふっ飛んでしまったですよ。

とまぁ、悪口にも似たことを書いているわけだが、私は別にこれ、嫌いじゃない。嫌いじゃないどころか、独特の酩酊感を味わえることもあって、結構好きなのよ。この「濃さ」も慣れるとクセになるんだなぁ。

今までショパンのピアノ協奏曲は、ピアノパートの充実ぶりに対しオケパートがあっさり薄味でピアノの引き立て役だといわれてきたし、指揮者もオケも伴奏モードで「適当に」(というと語弊があるけれど)演奏するのが普通である(個人的には第1番についてはそんなにオケパートが不味いとは思わないけれど、第2番については確かに「何とかならんのか」と思わないではない)。
ところがこの新録では、ツィメルマンは自身のピアノの音作りに対する姿勢をそのままオケにも転用したようで、全ての音を徹底的に吟味して磨き抜き、がっちり作り込んでいる。他の盤と比べてオケの表情の幅は桁違いに豊かで、特に弦の響きは芳醇でふくよかだし、管楽器の鳴りも非常に効果的である。
そして、ツィメルマンのピアノがこのド迫力オケとがっぷり四つに組んでしかも全然負けてない、というのが何とも立派。この辺はやっぱり40男の貫禄なんだよなぁ。

あと一つ感心したのは、昔の、というか前近代的なポーランドの匂いがして、19世紀にタイムスリップしたような雰囲気があること。そういう意味では、現代的なスマートさというものは皆無だし、多分に懐古趣味的といえるのかもしれないけれど、伝統的なポーランドの音を追求するという意味では、オケのメンバーをわざわざAllポーランド人にした甲斐があったということだろう。
特に一楽章はちょっとお化けが出てきそうな、ゾッとするような響きがある。大国の脅威に晒され続けた悲運の国・ポーランドを象徴しているようであり、国が内包する情念とか哀しみがそこかしこに漂っているかのような雰囲気がある。

第二楽章はテンポ激遅。止まるか?ってくらいググっとテンポを落とす。ひたすらゆったりのったり、甘美な夢の世界といったところ。

三楽章は、一、二楽章と打って変わって爽快感のある演奏で、ツィメルマンも技巧派の面目躍如とばかりに20年前と同じテンポでかっ飛ばしてる。ここまで余裕で弾かれると、プロアマ問わず鬱になるピアニストが大量発生するような気がしてならないのだが。
音色は、ジュリーニ版(1978)なんかよりも随分軽やかかつ煌びやかになっていて、「洗練」が服着てピアノを弾いてる感じである。しかも、ものすごく華がある。この三楽章はかなり音色が綺羅綺羅しくて、ちょっと孔雀を思わせる派手さがあったりして(ラトル版のブラームスもちょっとその気があるけど)。

それにしても、この密度の濃い演奏を聴いてると、ツィマーマンという人は本当に心の底からショパンを愛しているのだなぁと思わずにはいわれない。まぁ、ちょっと愛情過多だっていう人もいるような気はするけれど。

どうでもいいけど、ショパンへの思い入れや愛が溢れてこぼれているところとか、細部に徹底的にこだわってみじみじと積み上げていく凝り性大魔神な感じは、かの「指輪」の監督ピーター・ジャクソンを思わせる。ってそんな連想をするのは私だけか(これも髭繋がりか…?)。

これは、世紀の名演というよりかは、世紀の怪演というべきなんだろうなぁ。超一級のイロモノであり、同時に金字塔的でもあるという、まことに稀有な演奏である。

一つ思うのは、このプロジェクトはツィメルマン一世一代の、ショパンに対するラブレターみたいなものだったんだろうということ。ショパンも当代一のピアニストにこれだけ敬意の念を払われれば墓の下で喜んでいることだろう。

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Pianist: Krystian Zimerman」カテゴリの記事

コメント

 こんばんは。この記事を読んでとっても興味があったので、早速注文して手に入れました。まだ、ちゃんと集中して聴いてないのですが、「濃い」演奏なのは、第一楽章でとってもよくわかりました。ていうか、今まで聴いていた演奏が薄かった、ということが・・
 この演奏にはまってしまうと、他のは水みたいに感じちゃいそうです。
 青猫さんのブログ いつも、興味深く読ませていただいています。
 お髭さん、いよいよですね!!楽しみ・・・

投稿: プーとパディントン | 2006年5月 7日 (日) 01:36

プーとパディントンさんも買われたのですね(^^)。
これ、こってり系ですよね。好き嫌いは分かれるかとは思うのですが、嵌る人は物凄く嵌るんじゃないかなぁと思います。オケもピアノも大変充実していて、クオリティはとても高いですよね。時々ものすごーく聴きたくなる演奏です。

投稿: 青猫 | 2006年5月 8日 (月) 16:12

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