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2006年4月 4日 (火)

ブレハッチ君のことなど

なぜ君付けなのか、よく分かりませんが。

ラファウ・ブレハッチ。2005年のショパン・コンクールの優勝者。1985年生まれの20歳。ポーランド人。

といっても、去年のショパン・コンクール自体は全然追いかけてなくて、むしろお髭氏絡みというか、「1975年のツィマーマン以来、30年ぶりの地元ポーランド人優勝者」ということで引っかかったという感じ。
それでも、コンクール時のライヴCDの発売時に、町のCD屋でちょっとだけ試聴をしたことがある。聴いた瞬間に、「うわぉ、いかにもショパンだぁ~。それにしても、今回は随分王道路線できたもんねぇ」とそのあまりの正統派ぶりに驚いたんだよね。でも、その時はそのままスルー。

ところが、ここのところピアノを一生懸命聴いていたり、ブレハッチの「尊敬してるのはツィマーマン」発言とかもあって、ついつい2枚出てるコンクール時ライヴCDの本選の協奏曲第1番の方をぽちっとな。

B000CIXKH0ラファウ・ブレハッチII
ブレハッチ(ラファウ) ショパン
ビクターエンタテインメント 2006-01-21

by G-Tools

感想。
一見(聴)、没個性的である。インパクトに欠けるというか、少し地味かな、と思った。
全体的に、とつとつというか、えらく一生懸命弾いている感じがある。ただそれはあっぷあっぷしてるとか危なっかしいということではなくて、とにかく誠実に生真面目に弾いてるって感じで、思わず「がんばれ~」と応援したくなるような雰囲気があるということ。技術的には非常に安定していて破綻が無いし(っていうか、ものすごく上手い)、一つ一つの音色のクオリティは非常に高い。硬質で濁りの無い美音で、とにかく品が良くて端正である。
技巧によって聴き手を圧倒するような、自己顕示的なところは全く無くて、高い技術力に比してやや控え目でクラシカルな印象である。うーん、今時こういうタイプはちょっと珍しいかもなぁ。

なお、ショパン・コンクールというのは5年に1度の開催で、言ってみればピアノのオリンピックみたいなものである。そのオリンピックで、地元ポーランド国民の期待を一身に背負うというのはそれはそれは大変なことらしく、ブレハッチ君、コンクール期間中はあまりのプレッシャーの大きさに目の下クマクマ、頬はコケコケだったそうだ。

だけど、演奏自体は実に落ち着いている。むしろちょっと落ち着き過ぎというか、慎重過ぎたような感もあるけれど、コンクールという異常な状況下でこれだけきっちりと弾けるのは凄いと思うし、とにかく立派にショパンしてて、「ショパンの協奏曲っていうのはこういう風に弾くんですよ」というお手本のような演奏になっている。

今のままでも十分大したものだけど、数年後に大化けしたりするかなぁ。ちょっと楽しみではある。ただ、ツィメルマンくらい化けちゃうとそれはそれで反則という気がしなくもない(アレはどう考えても化け過ぎだろう…)。


というのは、ちょっと前に書いてた文章である。
色々あって、ダラダラと続きがある。

その後、お髭氏のP協奏曲の聴き比べレビューを書くにあたって(まだ未完だよ…)、少し他のショパンも聴こうと思って、2005年のショパンコンクールの模様をダイジェストで見ていた。これはネットで現在でも公開中の映像で、予選から本選までのコンクールの模様が、20個くらいクリップになっている(コチラ。ただしポーランド語)。全部見るとかなりのボリュームになるけれど、予選から本選まで、とにかく色々な出場者の演奏を聴くことができる。ただ、さすがに端から端までショパンなのでよほど好きでない限り飽きてくるし、コンクールなものだからつい耳もあら探しモードになってきて、段々トゲトゲした気分になりつつあった時。

ブレハッチ君登場。いきなり耳が覚醒する。はっきり、他の出場者とは音のレベルが違う。音色のクオリティだけで、完全に頭一個飛び出てる感じである。あと、品と落ち着きかな、やっぱり。他を寄せ付けないダントツ優勝だったというのも納得である。没個性とか地味だとかいってごめんよ。懺悔。

そんなこんなで、ついつい予選の方のDVDなんていう物も買ってしまった(内容はあまり変わらないからCD(「ラファウ・ブレハッチI」)でも別に良かったんだけど、とりあえずどんな手をしてるのかを見たいし)。もしかしてハマってるのか?

B000ECY370ショパン・コンクール・ライヴ2005 ラファウ・ブレハッチ 1
ブレハッチ(ラファウ)
ビクターエンタテインメント 2006-03-24

by G-Tools

これ、実に素敵なショパンです。って、なんか手の平返してるな。ごくごく真っ当でフツーな演奏だけれど、気品があって薫り高くて、久し振りに良いショパンを聴いたなぁ、という感じ。コンクール時には「ショパン本人が弾いてるみたい」などと大分騒がれたみたいだけれど、それもむべなるかな、という気がする。ショパンというと、どうも「俺様!」な演奏が多いから、こういう演奏は貴重だと思う。

前奏曲28-11や、ワルツ8番なんかはもう本当に絶品。優美かつ典雅。たまらん。なんかリパッティのワルツを彷彿とさせる(って褒め過ぎか?)。ホントうっとりだぁ。。。

ちなみにリパッティのワルツはこれ。名盤。

B0000896NBショパン:ワルツ集
リパッティ(ディヌ) ショパン
東芝EMI 2003-03-19

by G-Tools

で、ラファウ君。
この人の演奏で何が良いかって、聴いてると思わず頬が緩んでくるような、そういう心温まる雰囲気があるところ。ピアノを聴いてて、こんなに温かい気分になったのは久し振りである。聴いてると沈殿している心の滓がするすると溶けていくような感じがある。この人、もしかしたら究極の癒し系ピアニストかもしれない。コンクールの演奏を聴いてこんなに幸せな気分になるなんて、ちょっと有り得ないんだけどなぁ(コンクールって大体弾き手がピリピリしてて演奏に余裕が無いものだし)。
これはピアノの腕がどうのというより、演奏に滲み出る人間性の問題なんだろうか。大変生真面目で誠実な、しかも可愛気のある人柄と想像するのだが(これで素顔のブレハッチ君が傲岸不遜だったりした日には、私も大概人間不信に陥りそうなものだが、どうやらそんなことは全く無くて、演奏そのまんまの謙虚な好青年らしい)。

フレーズの流し方は極めて自然で、旋律の一番美しい姿をしっかり捕まえている。ある意味、センスの塊(ある意味、というのは「才気煥発」というような類のセンスではないので)。

線が細くてこじんまりと思いきや、「スケルツォ第4番」「英雄ポロネーズ」はしっかり鍵盤を掴んでいて、意外と芯がしっかりしている印象。まずまずスケール感もあるし、とにかく凛としてるのが良い。まぁ、ある部分、タッチがちょっと丁寧過ぎるし、もうちょっとフォルテを踏ん張って欲しい気はするけれど。ピアニストなんて体力・腕力勝負なんだから、少し筋トレでもしたら良いかもなぁ、などと思ったら、実際やってるらしい。頑張れ。お兄さん、ちょっと痩せ過ぎだよ。

ショパンらしい、という意味ではツィメルマンよりもショパンらしいかもしれない。まぁ、若い頃のツィメルマンとブレハッチって、系統的に似てる気がするけれど。ケレン味が無くて素直、硬質の音色で粒が揃ってる、弾き飛ばさない等々。ただ、ブレハッチの方がツィメルマンよりも音色に(というか音楽自体に)温かみやまろやかさがあって、それがショパンによく合っているような気がする。

ちなみに、18歳のツィメルマンより20歳のブレハッチの方が格段に上手です。ええ。

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Pianist: Rafał Blechacz」カテゴリの記事

コメント

 とても興味深く読ませていただきました。

 ピアノは(音楽は)センスと人柄、私もそう思います。ツィマーマンの演奏を聴いていつもそう感じていることです。センスって、持って生まれたセンスももちろんあるだろうし、演奏者がその作品とどう向き合うか、人柄とセンスが、テクニックという裏づけで表れてくるんだろうな・・・と、ツィマーマンの演奏から感じています。

 まだまだ若いブレハッチ「君」、これからその人柄とセンスをどんな作品でどう伸ばしていくか、楽しみですね。青猫さんの文章を読んでいて、私も彼の演奏をとても聴いてみたくなりました。
 
 それに、青猫さんの文章のセンスも私はとても気に入っています。私は音楽を文章で表すのはとてもむずかしいと感じていますが、青猫さんの文からは、ブレハッチ君のピアノの音色が聴こえてくるようです。

投稿: プーとパディントン | 2006年4月 4日 (火) 05:01

ツィメルマンって、技術的に恐ろしく上手い人ですが、絶対にそれ(技術)だけじゃないんですよね。彼の場合、知性とセンス(感性)と技術が、本当に高いレベルでバランス良く調和していると思います。加えて、あの音楽に対する真摯な姿勢は本当に尊敬してしまいます。

ブレハッチ君は今のままでも本当に素晴らしいショパン弾きですが、これから一体どんな成長の仕方をするか楽しみです。ピアノだけじゃなくて、色々な経験を積んで欲しいなぁなどとも思います(あー、なんか親戚のおばちゃんモードになってきたかも(笑))。

あ、拙文をお褒めいただき、とても嬉しいです。日々、語彙の貧困にのたうちつつ作文していますが、少しなりとも楽しんで読んでくださる方がいらっしゃると思うととても励みになります。今後ともよろしくお願いします。m(__)m

投稿: 青猫 | 2006年4月 4日 (火) 21:36

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