クリスチャン・ツィメルマン ピアノリサイタル 2006年公演 in 盛岡市民文化ホール
今回(も?)、北から南へ文字通り日本を縦断するツィメルマン。
関東に来るまでジリジリ待ち続けるのが嫌なのと、たまたまスケジュールが上手いこと空いたので、5月7日(日)の盛岡公演に行ってきた。今回のツアーの初日である。しかも、実は私にとっては初めての生ツィメルマンである。
<プログラム>
モーツァルト ピアノ・ソナタ第10番ハ長調 K.330
ベートーヴェン ピアノ・ソナタ第8番ハ短調 op.13 「悲愴」
休憩
ショパン バラード第4番へ短調op.52
ラヴェル 高雅で感傷的なワルツ
バツェヴィチ ピアノ・ソナタ第2番
席は一階、縦も横もほぼど真ん中の席。
全体としては約8割くらいの入り。超ビッグネームであっても、地方であればチケットは取り易い模様。
初めて目の当たりにしたツィメルマンは、まさに思い描いていた通りのツィメルマンだった。
実は、今回の来日をワクワクと心待ちにしながらも、実際に聴く前はあれこれ心配事が脳内を駆け巡っていた。
①ピアノが来なくてキャンセル
②本人事情によるキャンセル
③天気が悪くてピアノが不調(ピアノの機嫌が悪いと必然的にお髭氏のご機嫌も斜めになると思われる)
④本人体調不良
⑤実はライヴは大したことがない
⑥「大したことはない」ことはないまでも、CDの方が圧倒的に良い(これは結構本気で心配していた。何しろCDのクオリティが高過ぎるので)
⑦年齢による技術の衰え(実は、これもかなり真剣に不安だった。ちょっとくらい衰えたところで、その辺のピアニストなんか足元にも及ばないだろうとは思うのだが…)
全て杞憂であった。全て。行って良かった、ホント。。。
以下、各曲雑感等。
モーツァルト ピアノ・ソナタ第10番ハ長調 K.330
登場して椅子に座るなり、お客さんの拍手が止まない内に、あっという間に弾き始めてびっくり。
軽やかである。弾いているツィメルマンはどこか飄々としていて、楽し気でもある。右手で弾きながら左手で指揮をするような所もあって、良い具合に肩の力が抜けている感じ。なんかお茶目で可愛げのある印象。
何となく腕慣らし、準備体操的でもあるけれど、私などはドキドキし過ぎてガチガチ状態だったので、これくらいで始まるくらいがありがたい。事実、聴いてて(私の)緊張がするすると解けてくのが自分でも分かった。弾き手も聴き手もノーストレスという感じは、やっぱりモーツァルトである。
とても素直なモーツァルトだけれど、ため方や間(ま)の取り方は非常にたっぷりとしてしたところがあって、さすが独特の味わい。
このモーツァルトだけではなく、今回の演奏全般にわたって物凄く印象的だったのは、この「間」。全ての音が消え去り、完全なる静寂が現れる、その霊妙なる一瞬。無音の妙。これはツィメルマンならではである。
ベートーヴェン ピアノ・ソナタ第8番ハ短調 op.13 「悲愴」
冒頭の和音を聴くだけで、ただ事ではないということが分かる。まさに心臓を鷲掴みされるようで、あっという間に引き込まれる。重厚さは無いけれど、尋常ならざる緊迫感の漂う、シリアスで引き締まった演奏だった。
休憩
ショパン バラード第4番へ短調op.52
日本人はショパンが好きだから、ツィメルマンも一種のサービスで入れたんじゃないだろうか。
この曲に関しては、何しろ本人による1987年の超絶名盤があるものだから、どうしても比較しながら聴いてしまう。
やはりCDとは違う演奏だった。全く別物というわけではないし、確かにツィメルマンのバラードだ、と思うけれど、やっぱり20年近い月日は流れているのだなぁ、という印象(まぁ、20年前と同じでは逆にオカシイのだが)。
繊細な弱音と、パショネイトな部分とのコントラストが見事。
ラヴェル 高雅で感傷的なワルツ
またもや弾き出しが早い。
ラヴェルのP協奏曲のように、かっちり精緻に、もしくは小奇麗に弾いてくるんじゃないかと予想をしていたのだけれど、なんだかやりたい放題、好き放題じゃないか?これ。豪快で奔放、テンション高め。真面目で端正?嘘つけって感じ。大変オモシロかった。
バツェヴィチ ピアノ・ソナタ第2番
今回、予習が間に合わず、ぶっつけ本番で聴いたバツェヴィチ。
いやー、これがもう何というか。曲自体は現代曲なので、メロディを捕まえうとするとなかなか難しくて、ちょっとどう聴いたらいいか悩むような曲ではあるのだけれど、とにかく圧倒的な演奏であった。素晴らしい。ツィメルマンの気合の入り方がとにかく違ってて、まさに渾身の大熱演であった。前半でモーツァルトを弾いた人と同一人物とはとても思えない。。。
ピアノとフォルテのレインジが驚くほど広くて、特にフォルテが圧倒的に強靭。前半の「悲愴」なんかはかなり抑制した表現だったのだなぁと、バツェヴィチを聴いて認識を新たにする。
かなり超絶系の曲ということもあり、「ああ、確かにあのリスト(1990年のリスト・アルバム)を弾いた人がここにいる…」とため息をついた。
ご一緒させていただいたSさんと終演後に話していて、お髭氏のマイピアノ(ツィメルマン仕様の特注スタンウェイ)、ピアノの調律・調整は、トリのバツェヴィチに合わせてきたのかな?という話になった。確かに、それくらバツェヴィチは本人とピアノとの一体感があった。一方で、ベートーヴェンをやるピアノとしてはちょっと違うかもなぁという気がしなくもない。単に解釈の問題かもしれないけれど。
さて、このバツェヴィチのソナタ、ツィメルマン本人も会心の出来だったのだろう。来日して一発目の公演のトリで、満足のいく演奏ができれば、さすがのお髭氏も嬉しいに違いない。ご機嫌も大層麗しかったようで、なんとアンコールを弾いてくれたのである。自分の演奏に満足しない場合はどんなに客席が盛り上がってもアンコールはしない、と以前のインタビューで言っていたので、かなり嬉しかった。
ちょっとアンニュイなジャズっぽい雰囲気の曲で、浜離宮でやるガーシュインかな?と思いながら聴いていたのだが、洒脱な感じで意外性もあってとても良かった。弾き終わって客席も拍手、拍手だったのだが、再登場したツィメルマン、なんとまたピアノに向かうではないか。バッと座るなり弾き始めて死ぬほどビックリ(っていうか、お髭氏、なんでこんなに落ち着き無く弾き始めるんでしょうかね…)。まさかまさかアンコールを2曲もやるとは思わなかった。お髭氏、不意打ちが好きなのかー???
この2曲目、アンコールの気軽さなど微塵も感じさせない物凄い演奏で、なんかえらい得をしてしまった気分である。
結局アンコール曲は、別プログラムで演奏予定のガーシュインの「3つのプレリュード」から第二曲と第三曲だった。
なんとも引き出しの多い人だなぁ。まさに最強のオールラウンダー・ピアニストである。心底、感服。堪能。
最後に一言だけ。
来日してくれてありがとう。
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コメント
いやはや、大興奮な感じが伝わってきますわ。マエストロもマエストロ特注ピアノも共にご機嫌麗しくて何より何より。(折角遠征したのにご機嫌ナナメでは、何のために来たんだか、になっちゃいますし。)
日本初演でこれだけ気分よく聴いて頂いたのであれば、さて、これからどう変化するか。
投稿: パインツリー | 2006年5月 8日 (月) 21:55
こんばんは
7日はお世話になりました。
今日はなんだかふと気が付くと彼のピアノ音がアタマの中で鳴っていて、シアワセというのか、浸りすぎというべきか。まあでもシアワセです(^^)勢いで家人にバラード集とラフマニノフのCDを押しつけるように持たせてみました。
投稿: すなみ | 2006年5月 9日 (火) 02:40
パインツリーさん
初日というのはいろいろと「手探り状態」であることが多いと思うのですが、後半に向けてお髭氏のテンションがぐんぐん上がっていくのが分かって、かなり面白かったです(^^)。どの曲も聴き応えがあって、本当に遠征した甲斐がありました。今回の北上は、お髭氏以外もテンコ盛りで、近年稀に見る充実したGWでした(^^)。お世話になりました。ぺこり。
すなみさん
コンサートご一緒できて本当に良かったです(^^)。開演前、休憩、終演後にいろいろとお髭氏についてお話できて、すごーく楽しかったです。
コンサートの演奏、頭の中でエンドレスリピートできたらどんなに良いかしら…。
すなみさんのお宅も、「一家皆でツィメルマン」状態になると良いですね~(私の実家がそうなので…(笑))。
投稿: 青猫 | 2006年5月 9日 (火) 20:32