クリスチャン・ツィメルマン ピアノリサイタル 2006年公演 in 所沢市民文化センターミューズ アークホール
6月11日(日)、所沢市民文化センターミューズ アークホールにて。泣いても笑っても、お髭氏の2006年日本ツアーファイナルである。
それにしても、今回のツアーのお髭氏は、ピアノだけじゃなくて雨雲を連れて日本行脚していたような印象がある。彼の日本の印象は「雨ばっかり」だったりして…。
私はこの日の朝、ぱかっと目が覚めて「あ、雨がばさばさ降ってる…。湿度が…。ピアノが…。お髭氏のご機嫌は大丈夫か…」などと、朦朧とした頭でぐるぐるしてしまったですよ。私は凶悪な低血圧なので、目が覚めた瞬間にこれだけいろいろなことが意識に浮上してくるというのは珍しいんだけど。
<プログラム>
モーツァルト ピアノ・ソナタ第10番ハ長調 K.330
ラヴェル 高雅で感傷的なワルツ
ショパン バラード第4番へ短調op.52
休憩
ショパン 4つのマズルカop.24
ショパン ピアノ・ソナタ第2番変ロ短調op.35
開場時間5分後くらいににミューズに着いたけれど、ものすごい人の列。あ、これは開場して間も無いのかも、リハがちょっと押したのかなぁなんて思いながらロビーに入ると、ホール内の案内がまだ始まっていない。「I have a bad feeling about this」(マスター・オビ=ワン風)である。「もしかして、お髭氏&ピアノがご機嫌斜めか???」と、非常に不安になる私。あ、なんかお腹が痛くなってきた…。←バカ過ぎ。
ホール内に入れたのが開演時間の10分前である。舞台上では、お髭氏お抱えの調律師の方がウロウロウロウロ、何やら調整しては引っ込んで、また出てきて調整して、の繰り返し。むむむ。
頼むよ、お髭氏、この期に及んで「ピアノが…」とかいってキャンセルとかしないで下さいよ。ファイナルなんだしさ。。。
結局、開演は10分遅れだった。とりあえずちゃんと出てきて弾いてくれれば文句はありません、私は。
なお、座席は一階センターやや後ろ目。うーん、ど真ん中というのは顔も手も中途半端に見えないなぁ。
・モーツァルト ピアノ・ソナタ第10番ハ長調 K.330
アゴーギクが大きい。っていうか、お髭氏、完全に遊んでるよ…。最後だから、なんだろうかなぁ。第三楽章なんか、かなり押し出し良く弾いてるじゃないか。良いのか、アレ。しかもなんですかー、あのグリッサンドは。一瞬、カデンツァ(?)が始まったらどうしよう、、、なんて思ってしまったけれど、さすがにそれは無かった。いや、やってくれても良かったけれど。
今回、ピアノがやや金属的な音色の方向で調整されてるな、という印象を受けた。湿度が高いから、クリアによく響くように、という判断なんでしょうかね。
結果的には、それが気になったのはモーツァルトだけで、ラヴェルやショパンでは違和感は無かったんだけれど。モーツァルトは、音色にもう少しまろやかさが欲しいなぁという気がした。もちろん、あれはあれでキラキラとしててとても綺麗だとは思うのだけれど。
・ラヴェル 高雅で感傷的なワルツ
4回目のラヴェル。これに関しては、書き加えることはもうあまり無い。とにかく毎回、ピアニッシモの美しさに感動。あれは本当に、脳内でイメージした音を、出したい時に完璧な精度で、一分の狂いも無く鳴らせているということですね。本当に素晴らしい。ツィメルマンに限っては、「やば!音がデカすぎた!」なんてことは無いんだろうなぁ。
・ショパン バラード第4番へ短調op.52
これも4回目。今回が一番良かったと思う。もちろん、回数を重ねるごとに、49歳のツィメルマンのバラードに耳と感性が慣れてきたということはあると思うけれど。
サントリーで聴いた時よりも、しみじみとした哀愁や憂いを感じた。迫力はサントリーの方があったと思うし、重量感もあまり感じなかったけれど、今回はむしょうにやるせない気持ちになって、涙が出そうだった(私が感傷的な気分でいたせいかもしれないけれど)。全体的には非常にゆったりとしたイメージで、スケールの大きな流れを感じた。物語のような、というか、どこか滔々とした大河のような、壮大な叙事詩を思わせる演奏であった。
休憩
・ショパン 4つのマズルカop.24
不純物ゼロ、本当に美しくてピュアな世界。あえて作りこみ過ぎていないところが良かった。第一曲と第四曲の物悲しい雰囲気がすごく好きだなぁ。でも、気持ちはすっかりトリの「葬送ソナタ」にいっちゃってる私。ゴメン、マスター…。
・ショパン ピアノ・ソナタ第2番変ロ短調op.35
サントリーの葬送レビューで書き尽くしたような感もあるので、あまりグタグタ書きません。
とりあえず、やっぱり凄かった。コンサート三連続などということは微塵も想像させない、強靭そのものの演奏であった。スケルツォなんかは、とにかく左手、低音が圧倒的だなぁ。黄金の左手である。いやでも、右手も黄金だしな…。
繰り返しになっちゃうけれど、第三楽章「葬送行進曲」の終盤、楽譜上はフォルテッシモだけれど、あえてソフトペダルを踏んでピアノで演奏した箇所はもう圧巻だった。あそこはもう、「葬送行進曲」という一つの物語の中で、異空間が形成されていたように感じた。中間部が完全に天国的な天上の調べだとすれば、あの部分は半此岸、半彼岸(それって結局どこなのよ?)という感じ。ある種の境界線上というかなぁ。サントリーより、もっとくぐもった音色で、ソフトフォーカスな印象だったかな。
そして、第四楽章の演奏も素晴らしかった。あれは葬列が去った後の墓場に吹き荒れる風を表しているのだろうか。あれだけ音の粒立ちのはっきり・くっきりしている人が、ああいう得体の知れない物が蠢いているかのような、不気味な表現をするというのがビックリ。しかも、非常にモニョモニョした印象を醸し出してはいるのだが、技術的には本当に正確無比というのが恐ろしい限りである。だけど、ものすごい説得力があった。目から鱗である。
今まで、ピアノソナタ2番というのは各楽章の曲想がバラバラでよく分からんな、と思っていたのだけれど(特に第四楽章…)、四楽章のソナタとしてちゃんとまとまって聴こえるよ。すごい。ここでも「お髭氏が弾くと何でも名曲に聴こえる」というツィメルマン・マジックは健在だった(ショパンのソナタつかまえてこういうのも何ですが)。
弾き終わったお髭氏はなかなか立ち上がらなかった。さすがに疲労困憊かな。何せ大曲だものね。それとも、18公演分の疲れがいきなりドッときた、ということかもしれない。
拍手、拍手、拍手だったけれど、アンコールは無し。最後だからもしかしたら?とも思ったけれど、やっぱり無し。まぁ、あの「葬送ソナタ」の後に一体何を弾けというのか、という気もするから良いのだけれど。
カーテンコールの最中に、お髭氏はピアノにも拍手をしてやって、というというような仕草をしていた。ええ、そりゃもう、もちろん。日本列島を北に南に行ったり来たりのお髭氏と、お髭氏のマイピアノ、本当にお疲れ様でした。ゆっくりお休み下さい。
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コメント
青猫さん♪初めまして。
先日、TBさせていただきました。
こちらに所沢のコンサートの感想が載っていましたね。アンダンテさんのサイトから来たので、気づかずに、サントリーの記事のほうにTBしてしまいました(すみません)。
また、私のブログにもコメント&TBしていただき、どうもありがとうございました。
ツィメルマンの素晴らしい演奏の感想をシェアできて、とてもうれしく思いました。
青猫さん、ツィメルマンの演奏、たくさん聴いていらっしゃるんですね、録音も!私も素晴らしいピアニストの一人だと思っています。
先日、初めてこちらのブログを拝見したばかりなので、また後日ゆっくり読ませていただきたいと思います。どうもありがとうございました☆
投稿: Yoko | 2006年6月14日 (水) 15:08
Yokoさん、はじめまして♪ようこそいらっしゃいました。TBの件はどうぞお気になさらないで下さい。
所沢公演、日本ツアーの最後に相応しい、素晴らしいコンサートでしたね。開場時間が遅れて怒ってる方もいたようですが、あれはどうやら、ツィメルマン自身が、開場時間遅らせてまでピアノをいじってたからみたいですね。最後の最後まで…(笑)。
また是非遊びにいらしてくださいね(^^)。
投稿: 青猫 | 2006年6月14日 (水) 22:19
青猫さん、こんばんわ。
ついに、最後の公演が終わってしまったんですね~。おお、ピアノに拍手をって仕草出ましたか!他にお茶目な行動はありませんでしたか~?
ソナタの4楽章、ショパン曰く葬儀の後で葬列に参加した人達のおしゃべりがぺちゃくちゃ聞える様子・・・等と言ってるそうですが、ツィメさんのは違って聞えますね。戦争なんかやったって、何も残らないんだよ・・・ってメッセージにも聞えてしまう。
今日は青猫さん、東大にも行かれたのでしょうか?ツィメさんがどんな事をどんな風に話すのか、興味あります。いいなぁ、東京は~(笑)。
投稿: petit viola | 2006年6月16日 (金) 22:45
> ピアノに拍手をって仕草
あれ、お髭氏自らピアノに拍手してたんだったかな?両方だったかも(笑)。
カーテンコールで何回目かに呼び出された時には、貰った花束を抱えて出てきて、「バイバイ」という感じで聴衆に手を振ってました。「今日はもう弾かないよ~」ってことですよね(^^;)。
> ソナタの4楽章、ショパン曰く葬儀の後で葬列に参加した人達のおしゃべりがぺちゃくちゃ聞える様子・・・等と言ってるそうですが、ツィメさんのは違って聞えますね。戦争なんかやったって、何も残らないんだよ・・・ってメッセージにも聞えてしまう。
四楽章は結構理解に苦しむ楽章だと思うのですが、彼の葬送行進曲から四楽章への持って行き方は、本当に無理なく聴けたというか、これしかない!という感じで素晴らしいと思いました。
葬送行進曲が、今現在起きている悲劇的事象に対する鎮魂の歌だとすれば(この辺はサントリーのスピーチの内容含めて議論がありそうですが(^^;))、四楽章は彼の内面に渦巻いていていまだ表面化していない怒りや、いかんともしがたいやるせなさみたいなものがああいう形になって現れているのかしら、とも思われてきます。ちょっと深読みし過ぎでしょうか(^^;)。っていうか、的外れかも。。。
投稿: 青猫 | 2006年6月17日 (土) 09:53