ツィメルマン ショパンのピアノ協奏曲第2番聴き比べ #2
![]() | ショパン/ピアノ協奏曲 第1番 ホ短調 作品11 ツィマーマン(クリスティアン) ポーランド祝祭管弦楽団 ショパン ユニバーサルクラシック 2000-01-13 by G-Tools |
お髭氏の弾き振りプロジェクトについては、1番の聴き比べの際に色々書いたので省略。大まかな印象も1番と共通する部分が多いので、あまり繰り返しては書きません。
なお、Polish Festival Orchestraのサイトは以下リンク先。ポーランド語と英語で、リハ風景なんかもあって見応え有り。
Polish Fstival Orchestra
ショパンに限らず、ここまでオケパートが面白いピアノ協奏曲の録音というのはそうそうお目にかかれないんじゃなかろうか。とにかく、全員が本当に一生懸命に、一丸となって弾いている感じ。かなりガリガリ弾いてるし、要所要所でグワァーっと盛り上げてくるので、一歩間違えたら阿鼻叫喚の世界だったろうと思うのだけれど、本当によくまとまってる。本職の指揮者でもないのに(しかも弾き振りで)、ここまで求心力をもってオケを引っ張れるのは本当に凄いことだと思う。最敬礼。
ちなみに私が、ショパンのP協奏曲で導入部分のオケパートをまともに聴こうという気になるのは、この盤だけである(大抵早送りしてしまう…。←良い子はマネをしないように)。
肝心のピアノについては、まずはツィメルマン自身の言葉を紹介しときましょうか。
「今回の新録音では、なにもとくに新しいことはありません。解釈はこの25年のあいだに徐々に熟成されてきたのです。(中略)現在、私の見方は当然ながら変化しています。いまでは、以前より豊かな経験にもとづいたアプローチができます。多くの素晴らしい指揮者と演奏してきましたから。でも、若々しいショパンを演奏することは、いまのほうがむずかしくなっています」(ライナーノーツのインタビューより)
最後の一文、さすがご本人が一番よく分かってらっしゃる。
そっち方面(若々しいショパン)は諦めたのかどうなのか分からないが、煌びやかで、実に堂々としたピアノである。一楽章のピアノソロの入りの部分、何もあんなにバーン!と入ってこなくても、、、と思ったのって私だけか。
ただ、凝りまくってこねくり回したという印象は1番の方が強くて、こちらの方がまだ流れが良く比較的すんなり聴けるのではないだろうか。そう思うのは単に1番を聴き続けてあの「濃さ」に耐性がついただけかもしれないけれど。
若ツィメルマンもいい加減しっかりしていたが、こちらはそれよりもさらに可愛気が無い。可愛気どころか、全楽章に渡って漂うのは王者の風格である。素のお髭氏はPrinceだけど、演奏時はやっぱりKingもしくはEmperorなんである。2番はショパンの初恋の女性への叶わぬ思いが反映され云々とよくいわれるので、甘く密やかなデリカシーとか、ためらいがちでナイーヴな風情が欲しいところなのだが、この演奏は「あなた恐い物なんか何も無いでしょう」と突っ込みを入れたくなる感じなので、その辺、説得力が全く感じられない。本当に立派な演奏だし、情緒たっぷりに歌ってもいるんだけど、仮にも「初恋」(しかも片思い)であるならば、もう少し切なく痛々しい雰囲気があっても良いんじゃないかな。ちょっと、問答無用といわんばかりに確固とし過ぎ。かなりウェットで甘やかな雰囲気十分だし、下品にならない程度に色気もあって大変魅力的ではあるんだけど…。
さらにいえば、憧れの女性を遠巻きに眺めてグズグズと懊悩するのではなく、理路整然と悩んだ後に(思慮が深いので、一応、悩むことは悩む)、しっかり告白しに行きそうな雰囲気がある。しかも、フラれるような気配が全く感じられない。誠実で意外と押しが強くて、しかも大人の余裕と落ち着きが感じられる男性というイメージなんだけど、これはまずフラれないだろ…。そして、万が一フラれたとしても、笑って「君の幸せを願うよ」って本気でいえるタイプですかね。
というわけで、結論としては、何とも素敵な、しっかりとしたオトナの男性という感じのショパンということでよろしいですか(そんなのショパンじゃない、という突っ込みはとりあえず無しで)。要するにほとんど演奏者本人そのままってことか?(まぁ勝手なイメージだけど)
ちなみに、散々あーだこーだ難癖ばかりつけてるようですが、私はもちろん大好きですよ、この演奏(演奏者本人そのままで、嫌いな訳があろうハズがない)。ジュリーニ版とどっちが好きかって訊かれると悩ましいけれど。実は意外と(?)こっちかも。私は基本的に昔のツィメルマンよりも"お髭氏"の方が好きなんだと思います。
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コメント
また聴き比べをしたくなるレビューありがとうございます。聴き比べをしているとエンドレスになっていくのが楽しくもあり、恐ろしくもありですね。
ところで青猫さんの引き振り版ピアノコンチェルト2番のレビューを読んで、「...エオウィンを口説きに行く時のファラミアみたいだ(但し原作版大将)」と思いましたよ。思慮深く一応悩んだ後にしっかり告白、全然振られる気配がない、なんてところが(^^;)
投稿: すなみ | 2006年10月22日 (日) 17:27
どうぞ、ご存分に聴き比べなさって下さいませ♪旧録・新録ともに、ファンの贔屓目を抜きにしても、飛び抜けた名盤だと思います(^^)。良い演奏というのは、聴き飽きませんからエンドレスに楽しめますよ~。弾き振り盤は特に、聴くたびに色々な発見があって本当に面白いです。
ファラミア卿、理知的かつ高潔な男前(?)ですが、ここはやはり、究極のハンサム声で怒涛の如く押しまくるBBCファラミアのイメージでしょうか。アレで落ちない女性はほとんどいないんじゃないかって思っちゃいますよね(笑)。
投稿: 青猫 | 2006年10月23日 (月) 21:02
BBCの大将はラジオドラマ中一番の二枚目声ですからねぇ。あの勢いで口説かれたらやはり落ちない女性はいない??
私はBBCアラゴルンの渋い雰囲気の声も好きです。映画のアラゴルンを見てしまった後では年輪というか歳月というかを感じさせる声ですが、またそれはそれで(^^)
投稿: すなみ | 2006年10月25日 (水) 11:00
やはりあのクインズ・イングリッシュで畳み掛けられると迫力があります(笑)。
Viggoさんの王様は色んな意味で"若い"ですものね。私はあれはあれでOKなんですが(パランティア放り投げ事件以外は(笑))、ラジオドラマの王様は色々と苦労して年齢を重ねてる感じが濃厚で、原作のイラストのイメージとぴったり重なる感じでした。
ラジオドラマ、久々に聴きましたが、やっぱりすごく良いです。ガン爺なんかもすごくらしいですよね(^^)。
投稿: 青猫 | 2006年10月25日 (水) 23:58
青猫さん、こんばんは。
この記事を読んでから、このCDを早く聴き直してみたいと思っていましたが、今日やっと、聴くことができました。今回は、恋愛に悩む青年像という観点からじっくり聴いてみました。なるほど、こんな聴き方もあったのね、と新しい発見です。
確かに、ツィメルマンのピアノからは、初々しさとか、青年期にありがちな恋愛の妄想とか、不安定な感情はほとんど感じられませんでしたね。もしかして、彼自身、片思いしたり、振られたりっていう経験はないのでは?(笑)と思えてしまうくらい、とても美しく 迷いなく堂々とした演奏でした。
他のピアニストはどんな風に弾いているのか、とても興味がわいてきました。
投稿: プーとパディントン | 2006年10月31日 (火) 22:38
プーとパディントンさん、こんばんは。
>彼自身、片思いしたり、振られたりっていう経験はないのでは?
あははは。私もそう思っちゃいましたよ(あながち間違いでもないような気がしてならない私…(笑))。
お髭の君って、もともと不安定な感じは無い方ですが、このショパンは本当に堂々としてますよね。思わず、ははーっと平伏したくなるモノがあります(笑)。
他のピアニストのは誰のが良いのかしら。どなたかお勧めを教えて下さいませ。
投稿: 青猫 | 2006年11月 1日 (水) 00:50
青猫さん、こんにちは。
Piano Concerto No. 2 in F minor, Op. 21 - Artur Rubinstein with Philadelphia Orchestra / Eugene Ormandy
あとは、マルタ・アルゲリチか、ポリーニの若い頃の演奏が好きですね。
加来永茂
11/02/2006
04:28 EST
投稿: 加来永茂 | 2006年11月 2日 (木) 18:28
>そして、万が一フラれたとしても、笑って「君の幸せを願うよ」って本気でいえるタイプですかね。
すっごい、ポイント突いてますねっ。爆笑致しました!
この方はホント理路整然とされてますよね、演奏(なんとなく、お部屋は散らかっていそうな気がしますが・笑)。
導入部の弦の「泣き」も、感情に押し流された泣きじゃなくて、せーの、で泣いてる感じですし・・・しゃくりあげるタイミングとか整然としすぎてて、初めて聴いた時は、なんだかわざとらしいな~なんて思ったんですが、聴いてるうちに嵌るんですよね不思議と。
いつも家では家事をしながらCDを何枚かランダム演奏させてるんですけど、他の部屋から「これ」が聞こえると、はっとしてしばらく聞き込んでしまいます。ジュリーニの方はさらっとBGMにもなるのに(もちろん、こちらも大好きですが)。コンドラシン版・・・まだ聴いてません。ヤ○オクでは結構値が上がってます。またeの付く所へ行ってみようかしらん・・・。
投稿: petit viola | 2006年11月 4日 (土) 04:30
加来永茂さん、こんばんは。
ルービンシュタインの2番は家にあったなぁと思って見たら、オーマンディ指揮ではありませんでした。Witold Rowicki指揮です。大らかな2番という印象です。
アルゲリッチとポリーニの聴き比べも面白そうですね。全然違いそうです。アルゲリッチはキラキラと元気が良さそうなイメージですが、ポリーニはちょっと想像がつかないかも…。
petit violaさん、こんばんは。
お部屋はどうなんでしょう。物は多そうです(笑)。
弾き振り盤については「演出過剰」という意見もありますが、まぁ私も30%くらいは賛成です。30%くらいだったら、それこそ「慣れ」でどうとでもなるレベルですが(笑)。
ところで、コンドラシン盤、見つかりませんか?ヤ○オク値上がり中ですか…。
Z氏だけじゃなくて色々入ってる2枚組だったらまだ入手し易いですが(水色のケースの物)、あれ、カップリングがジュリーニ指揮の2番なので、ジュリーニ盤の1番&2番を持ってらっしゃる場合は音源がダブっちゃうんですよね。でも、ジュリーニ指揮のアンダンテ・スピアナートと大ポロネーズが入ってて、実はこちらも良かったりします。
投稿: 青猫 | 2006年11月 4日 (土) 20:58