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2007年2月25日 (日)

続 アンデルさん 

そういえば、アンデルジェフスキの記事を書きかけで放ったらかしてたんだった。
前回の記事で、ディアベッリかショパンのレビューがどうのと書いたけれど、さてどうしようか。

とりあえず、前ふりとしてリーズ国際ピアノコンクールの話。

ほとんどの若手ピアニストにとっては、コンクール歴というのはキャリア形成の上で極めて重要である。
もちろん、コンクールを経ないでスターになるケースもあるけれど、大抵は「○○コンクール優勝」が名刺代わりになるわけである。

さて、このアンデルジェフスキの場合は、「リーズ国際本選辞退」が名刺代わりである、とでもいおうか(名刺代わりというとちょっと語弊があるけれど)。アンデルジェフスキについて書かれた文章には、かなりの確率で登場するエピソードである。
事の次第はこうである。
アンデルジェフスキは、リーズ国際のセミファイナルで、ベートーヴェンのディアベッリ変奏曲とヴェーベルンのピアノのための変奏曲(op.27)を選んだ(何なんだ、この一般受けを全く考慮してないプログラムは)。
ディアベッリは1時間を超える大曲かつ内容的にも難解な曲で、若造がほいほい演奏するような曲じゃないのだが、アンデルジェフスキは無名の20歳ながらも見事な名演を繰り広げたそうだ。
しかし、彼は自分の演奏に不満なあまり、本選を棄権してしまう(っていうか、セミファイナルの途中で帰っちゃったらしい)。
本人の言葉によれば、「かなり過激に完璧主義者」だったんだそうだけれど、少なくとも、これから世に出ようとするピアニストのすることではない。

結果的には、この「自らコンクールを降りた」という“事件”は、演奏とともに大きな話題を呼んだ。
そして、彼は1年後、同じディアベッリ変奏曲でロンドン・デビューを果たし、圧倒的な成功を手にすることになる。

ディアベッリの録音を行ったのは、その10年後。
もっと早く録音する話もあったようだけれど、新人にあるまじきことながら、本人が「時期早尚」と断ったとか。
ホントこの人って、「保身」みたいなことを考えないのね。。。
私は、こういう世渡り的に何も考えていないピアノ馬鹿って大好きなんだけど(なんかどこぞの誰かさんに似てなくもない)。

そんなわけで、満を持して登場のディアベッリはこちら↓

B00005A9NIBeethoven: Diabelli Variations
Ludwig van Beethoven Piotr Anderszewski
Virgin 2001-07-03

by G-Tools

B0002FQM1Yディアベリ変奏曲
アンデルシェフスキー(ピョートル) ベートーヴェン
東芝EMI 2004-08-18

by G-Tools

演奏は、ベートーヴェンのインナーワールドへようこそ、という印象。
もしくは、弾き手が自身の深いところに入ってる感じで、非常に思索的である。
深い井戸に降りていくかのような瞑想性を感じる、というと村上春樹的に過ぎるだろうか。

でも、この人って、ものすごくストイックに、曲と対峙してるなって思う。
なにか限界に挑んだような、突き詰めた演奏というのは、こういう演奏のことではないかな。
なんだか、心身ともに骨身を削ってピアノを弾いてる感じが無いわけではないというか。。。

1時間超の長大な変奏曲だから、1つ1つのヴァリエーションの性格を明確に弾き分けないことには冗長極まりないものになりかねないと思うのだけれど、曲ごとに見事なまでにくるくると表情が変わる様は圧巻。
そういう意味では、極めて「分かりやすい」演奏である。

音色が多彩である、と書くと、なんだか月並みな褒め言葉になってしまうのだけど、とにかくコントラストとニュアンスに富んでいる。
ピアニシモフェチもフォルテシモフェチも両方いけるでしょ、これは。
特に、完璧に抑制の効いたピアニシモの深遠な響きは格別。

あと、この人って技術的にものすごーく上手い人だと思う。
リストとかショパンを弾いてわーすごい!って類の上手さとはちょっと違うかもしれないけれど。
脳味噌でイメージしたモノを、ものすごく高いレベルで再現できてるって感じがする、そういう上手さ(すみません、分かり難いですね)。
アンデルジェフスキについて「ナヨナヨしたピアニズム」という人もいるけれど、この人ってどうやら曲によってカメレオンのようにタッチが変わるようで、少なくともこれに関しては「ナヨナヨ」の欠片も無い。
瞬発力も優れてるし、リズムやテンポの妙な緩みも無く、キビキビしてて歯切れも良い。
想像だけど、ハンマークラヴィーアを物凄くきちんと弾ける人なんじゃなかろうか、なんて思う。

これは何回も聴ける演奏である。

見るたびに色々と発見があるし、映像特典も付いているので、DVDがお勧めかな。
映像作品としてもよくできている。
なお、冒頭の解説部分ではアンデルさんが英語・仏語で語っているので、日本語字幕付きの国内盤がお勧め(ブックレットもインタビューを収録してるし)。
エピソードだけ見ると一体どんなヒネクレ者で気難し屋さんかって思うけれど、喋ってるアンデルさんはよく笑うし、意外と人好きのする雰囲気もあったりする。

どうでもいいけど、私は前髪は長めの方が良いと思います。


アンデルさんについては、オフィシャルサイトもあり。
Anderszewski Official Site
いーよねー、ちゃんとしたサイトがあるヒトは…。

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Pianist: Piotr Anderszewski」カテゴリの記事

コメント

青猫さん、こにゃにゃには。
捻挫のほうは如何でしょうか。。
青猫さんの書く文章、選ぶ単語は吸引力といいますか、人を惹きつける力があるというか・・うまく説明できませぬが、アンスネスに続き、このアンデルさんのCD、早速アマゾンで頼みました・・^^ご存知かとは思いますが、アンデルさん11月にリサイタルで来日されますね。お髭氏と日にち重ならないといいけど・・11月は忙しい月になりそうな・・フフフフフ・にんまり。。このアンデルさん、「アート・オブ・ピアノ」のDVDにちょこちょことコメントしてる部分で出てまして、ほんと、どうでもいいことですが、アンデルさん・・・男前になったな~。。
それにしてもアンデルさんといい、お髭氏といい、何故に母国語以外の言葉を何ヶ国語も話せるのでしょう・・
アンデルさんの音楽、楽しみだな~^^

投稿: クレオ | 2007年2月25日 (日) 10:46

今日は。
アンデルシェフスキーさん、以前にショパンの記事を検索していてたまたまヒットしたのが彼のインタビューの記事だったのを思い出しました。で、すごい毒舌(?)でなんか変わった人だな~と思ってて、演奏を知らなかったので「ふ~ん」で終わってました。
上山真美子さんのサイトにそのインタビュー訳があります。面白いです。http://strony.aster.pl/mamiczko/biedny%20Chopin.htm 

そうかピアニッシモ・フェチにもフォルテッシモ・フェチにもいけますか(いや、そんな単純な括りじゃないですね)。

>深い井戸に降りていくかのような瞑想性を感じる
うーん聴いてみたい。

CDを持ってないと思ってたけど、ムローヴァとのデュオでブラームスのソナタがありました。ちゃんと聴こう。でもソロが聴きたい・・・(買えば?・涙)。

投稿: petit viola | 2007年2月25日 (日) 10:56

こんにちわ。
11月のリサイタルの件ですが、もう既に受付終了でした。しくしくしく・・生で聴けると思ったのに残念だな~。。CDを楽しみに待ちます・・

投稿: クレオ | 2007年2月25日 (日) 18:22

クレオさん、こんばんは。
足は、妙な力をかけたりしなければ大丈夫です。お気遣いありがとうございます。ペコリ。

ふふ、アンデルさん、注文されたんですね。何を選ばれたんでしょう。
いわれてみれば、「アート・オブ・ピアノ」で彼を初めて知ったという方も結構いらっしゃるかもしれませんね。あのアンデルさん、なかなかスマートな雰囲気でした(^^)。あれだけ見ると、そんなにオモシロイ人にも見えないんですが(笑)。

音楽家の方は、必要に迫られて外国語を勉強する方も多いでしょうけれど、一流の音楽家の方の場合、まずもれなく記憶力と集中力が並外れているような気がします。加えて耳も良いとなれば、鬼に金棒ですよね。。。羨ましい。
あ、アンデルさんは、フランスとアメリカで音楽教育を受けてるそうですよ。

11月の来日は確か曲目も未定ですし、チケット発売もこれからじゃないでしょうか。多分、半年前くらいではないかと思いますよ。

11月は、ちょっと仕事の混み具合が読めなくて、色々と気を揉んでいるところです。。。

投稿: 青猫 | 2007年2月25日 (日) 21:48

petit violaさん、こんばんは。

ご紹介の記事、実はちょっと前に読んだんですが、「あ~、結構、いやかなり扱い難いタイプかも?」って思ってしまいましたよ。大分辛口ですよね(^_^;)。あまり人にどう思われようと気にしないというか…。まぁでも、あの我が道を進んで平然としている感じは嫌いではありません(っていうかむしろ好き)。

そういえば、ムローヴァと組んでましたね。そっち方面はまだノーマークでした。

個人的には、アンデルさんのシノマフスキがとても良かったです。っていうか、お髭氏、グズグズしてるから先越されちゃったじゃないか!!!って思いましたが。お髭氏のシマノフスキは、なんでぽしゃっちゃんたんだろう。。。しくしく。

投稿: 青猫 | 2007年2月25日 (日) 22:15

今日は♪
リンクの記事、既読でしたか。失礼いたしました。

>大分辛口ですよね(^_^;)。あまり人にどう思われようと気にしないというか
昔はクラスにこういう男の子がいたような気がするなぁ。不良っぽいんだけど、筋が通ってて、先生も負かしちゃうぐらい口も達者で。で、いつもムスーっとしてるのね(笑)。

お髭氏、あんなにシマノフスキ~とやいやい言っていたのに。まだ貯蔵庫に寝かせてあるのかなぁ。それとも完全にぽしゃったのでしょうか?

それはそうと、捻挫されていたのですか?どうぞお大事になさって下さい・・・。

それから 遅ればせながら、お誕生日おめでとうございます!この1年も青猫さんにとって素晴らしい年となりますように!

投稿: petit viola | 2007年2月26日 (月) 09:22

petit violaさん、こんにちは。
リンクの記事は、面白いから紹介しようかなーと、ちらっと思ったんですが、でもいきなりアレから入ると第一印象としてはどうかしら、、、とか思ったりして(^_^;)。

お髭氏がシマノフスキを録音中って言ってたのって、もうかなり前ですよね。さすがに10年は寝かさないような気がするんですが。。。

あ、お見舞い&お祝いありがとうございました。捻挫は、少し大人しくしてろ、という啓示かもしれません(^_^;)。

投稿: 青猫 | 2007年2月26日 (月) 17:20

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