[映画]魍魎の匣
ストーリー省略、ネタバレ無し。
前作があまりにもあまりだったので、今回、期待値は限りなくゼロに近かった。むしろ、どれだけトンデモSF映画もしくはB級ホラー映画になるか、逆に楽しみだったっていうか。全く、原作ファンってのは意地が悪いもんです。
そんなわけで、やる気ゼロもしくは手ぐすねを引くような、アンビバレントな気分で鑑賞したんだけど、オープニング、ハコハコハコハコ、画面全部ハコなシーンで、「お、もしやこれはいけるかも」と、思わず座りなおした。ハコがね、どれも綺麗だったんですよ。これはおそらく小道具さんが頑張ったな、と(こういうところが判断基準な私…)。
それにしても、監督が変われば変わるもんだなぁ。原田眞人、ちょっと他の作品も見たくなった。
今回、適当にお茶を濁した感が無くて、それが好印象の一番大きな原因。「火サスに毛が生えただけ」みたいな安っぽさが無くて、細部までよく考えて作りこんである感じ。映像のクオリティは非常に高いと思う。おそらくは、美術さんが良い仕事をしてるし、中国ロケも上手くハマってるし、良い具合に「昭和20年代の日本」という世界を生み出している。「昭和20年代の日本」といっても、いわゆるリアリズムや「再現」とはちょっと違ってて、ある世界観があって、それを目指してかっちり構築し切った場合に生じる「真実味」が存在するとでもいおうか。
脚本も、台詞の量は通常の3時間分と破格に多いわけだけれど、よくもまぁあそこまで詰めたな(短くした&詰め込んだ、両方の意味で)と感心した。あの厚さの本をちょん切るワケだから、何をどうカットしても足りない部分は出てくると思うけれど、よく健闘したのではないかと思う。敢闘賞ってところだろうか。後半、憑き物が落ちたんだか落ちてないんだか、ちょっと釈然としないというか、多少カタルシスに欠ける気はするけれど。
原田監督は、演出が上手いと思う。役者同士の掛け合いのノリや間合いの取り方が良いし、小漫才的なシーンも楽しい。長台詞があるからいろいろ難しいだろうに、全体のテンポも間延びすることなく、軽快。関口、榎木津、京極堂が一度にうわーっと喋って何が何やらよく分からないシーンなんかも、分からないからこそ可笑し味が出てたりして、こういう見せ方があるのかと感心したりして。多かれ少なかれ原作のキャラ造形とは隔たりがあるけれど、「芝居」として見てて楽しいからこれはこれでアリか、という気にさせられる。
堤@京極も、今回の方がグッと印象が良くて、彼はじっとしてるよりも少し動いた方が魅力的なのかもしれない(ってそれは京極堂としてはアレなのだが)。祝詞を唱えながらステップを踏むシーンは所作が一々決まってて、かなり見直した。椎名@関口、宮迫@木場は、基本的に両方ともイメージが違うんだけど、関口が勝手に延々と喋ってるシーンとか、木場の映画館のシーンなんかは、役者の動かし方が上手だなと思ったところ。
今回、原作の、「彼岸」や「闇」を思わせるような雰囲気はほとんど感じられない。役者の演技が比較的コミカルだとか、画面が明るかったり、あとは久保の小説の扱い方とか、色々要因はあると思うけれど、とにかく、画面からあの異様さが漂ってこないのが残念といえば残念。おそらく、それを許し難いと思う原作ファンはいると思う。というのは、原作の何がすごいかって、やっぱり、あの「見てはならないものを見てしまった…」と背筋が寒くなるような、独特の凄みだろうと思うから。
ただ、私としては、これは映画だから、小説とは表現言語も表現するモノも違うわけだし、これはこれでまぁ良いか、という気分もあったりする。映画は映画なりの取り柄が何かあれば良いかな、と。あと、原作付きの場合は、原作に対する愛と敬意を忘れずに、お金と時間をかけてきちんとした仕事をしてくれさえすれば、別個の作品として認めましょう、ってところだろうか。
そんなわけで、自分でも驚くほど文句の少ない映画版「魍魎の匣」だった。
DVD、出たら買うよ。
ちなみに、原作は傑作なので、未読の方は是非。エグイといえばエグイけれど、本当に大傑作です。
魍魎の匣―文庫版 (講談社文庫) 京極 夏彦 講談社 1999-09 by G-Tools |
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コメント
早速の感想アップ読ませていただきました。
当然TBも
楽しんだようで何よりですね、思ったより文句少なかったですか(笑)期待度低かったのが幸いしましたでしょうか?
まあ明るい京極、関口は微妙でしたけど、許容範囲ですかね。
ただおらとしては「ほう」の映像がアレだったのが残念でした。
投稿: くまんちゅう | 2008年1月 4日 (金) 01:26
くまんちゅうさん
前作を考えれば、立派なものではないかと(笑)。前作は、あの原作を普通にやったらそりゃ失敗するよねって感じでしたが、今回は色々工夫&苦労のあとが見えて、頑張ったなぁと思います。
京極堂はですね、前作の堤氏の役作りがあまり好きになれなかったので(ちょっとネチネチした感じで)、今回の方がしっくりきました。確かに、少し大らかで明るい感じだったかもしれませんね。関口は随分すっきりしちゃって、もう別人っていうか(^_^;)。でも、堤、椎名、安部の相性は良かったと思います。
「ほう」はねー、うーん、まぁ良いか悪いかってきかれたら「良くは無い」ですね。原作どおりにやっちゃうと、映像的に表現し難いんでしょうかね。。。
投稿: 青猫 | 2008年1月 5日 (土) 14:28