[映画]チェ 28歳の革命
「チェ 28歳の革命」「チェ 39歳別れの手紙」、二部作のうち、現在前編公開中です。
アルゼンチン生まれの医師・革命家・政治家であるチェ・ゲバラ(1928-1967)の伝記映画です。
ゲバラ役はベニシオ・デル・トロ。
今まで色んなところで、デル・トロ=ゲバラについてぶーぶー文句を垂れてた私ですが、見ないであーだこーだいうのもなんなんで、別にそんなに見たくないけどちゃんと見に行ってきましたよ(偉い?)。
「20世紀最大のカリスマ」ことゲバラですが、まぁなんだ、容姿一つとっても、そこいらの俳優が束になっても敵わんであろうオトコマエなわけですよ。もちろん、ゲバラのカリスマ性というのはその生き様によるところが大だと思いますが、とても良い顔をしていると思うんですよね。曇りや澱みがなくて、健全でお日様の下が似合うイメージ。「革命とは?」ときかれて「愛だ」と答えられるのは一種の精神の明るさであると思うし、それが顔にも現れていると思うのです。
で、デル・トロ。
別にデル・トロの演技の才能について云々いうつもりはさらさら無いんですが、彼はどちらかっていうと悪役とかちょっとクセのある役の方が似合いませんかね。見るからにアヤシさ漂うというか、お腹の中になんか色々ありそうだし、なーんか夜のイメージなんですよね。。。
むー……。
(気を取り直して)
今回の「28歳の革命」ですが、一言でいうと、キューバ革命はこういう風にやりましたって映画です。ゲリラ戦の進捗状況(←この表現もどうかと思うけど、本当に「進捗状況」と書きたくなるような客観的な描写なんですよ)を映す合間に、1964年のニューヨークにおけるゲバラ(36歳)のインタビューや国連での演説の映像などを挿入して、ゲバラの言葉で革命当時の状況を補足説明していく感じでしょうか。時系列がちょっと入り乱れているので、分かり難いといえば分かり難いです。
どうもですねー、ソバーダーグはゲバラをカッコよく描こうという気がないんじゃないかという気がするんですよね(そういう意味ではデル・トロで正解なのかも)。理想化されたアイコン=偶像としてのゲバラではなく、ということなんだと思いますが、何もここまで「カリスマ」の部分を落とさなくてもねぇ、、、と思ってしまいます。そのくせ、ゲバラの生々しい内面に迫るってわけでも全くないので、見てて何をよりどころにすればよいやら、ちょっと困っちゃうんですよね。ちなみに、ゲバラの「カリスマ」同様に、「映画的面白さ」もあえて追求していない感じで、潔いまでに盛り上がりません。今日日、ゲバラや革命・武力闘争を賛美することの危険性みたいなものを考慮したであろうことはまぁ理解できなくはないんですが、見てる方はあんま楽しくないです。。。
元々アルゼンチン人(キューバ人にとっては外国人)の医師であるゲバラが2年間のゲリラ戦の中で、革命軍のNo.2になり、民衆からも支持されるようになるわけですが、彼が人心を掴んでいく過程というのがも一つよく分からない、んです。いえね、脚本・演出上はちゃんと、おそらくは史実に忠実に表現をしているんですよ。例えば、医師として献身的に治療をしたり、軍紀に厳格で略奪・強姦した兵を厳しく罰したり、ジャングルの中でも暇さえあれば本を読んでるとか、無学な兵士に「文字を覚えなさい、文字を読めない国民は支配者に騙されるから」と諭したりと、ゲバラの人となりをうかがわせるエピソードや描写は色々入ってて、ゲバラが自他共に厳しくて何事にも献身的だったっていうのはよく分かります。ただ、果たしてそれだけで、あれだけ人の心を掴むことが可能なんだろうか?と訝しく思わせてしまうのは、、この映画からあえてヒロイズムを完全にそぎ落としたソダーバーグのせいなのか、はたまたデル・トロの醸し出すやや陰性の雰囲気のせいなのか(おそらく両方)。
要するに、一個の映画としても、ゲバラの伝記映画としても、何かが決定的に物足りない気がしてしまうんです。
って、私、なんかボロクソに書いてますか?
えーと、良いところもあります。
NYのシーンは白黒で研ぎ澄まされた雰囲気があって、デル・トロも結構ゲバラっぽく見えます(白黒は七難隠す?)。まぁ、ここのシーンはゲバラも36歳なんで、40台のデル・トロでもそんなに違和感がないってこともありますが。国連での演説や各国代表とのディベートのシーンは迫力があって、数ある戦闘シーンよりも何よりも、ここが一番盛り上がるかもしれません。
あと、これだけ文句を言っててなんですが、不思議と続きは見たい、と思わせるものはあります。
後編、挫折したゲバラの方がデル・トロに合ってるんじゃないかと思うんですよね。話としては相当シンドイと思いますが。。。
★★★
正直、面白いという意味では、こっちの方がずっと面白いと思います。
チェ・ゲバラ伝 三好 徹 原書房 2001-01 by G-Tools |
小説家ならではのツボを押さえた描写とか、多少なりともロマンチックに書いている部分が無いわけではないと思いますが、「物語」として読むのであれば良い匙加減だと思います。といっても、あくまでも「伝記」なので、基本的にはドキュメンタリー調ですが。
本当は本人の著述を読むのが一番なんだと思いますけれどね。
映画であれば、若き日の医学生ゲバラを描いた「モーターサイクル・ダイアリーズ」が良かったです。
モーターサイクル・ダイアリーズ 通常版 [DVD] ホセ・リベラ アミューズソフトエンタテインメント 2005-05-27 by G-Tools |
別にゲバラじゃなくても良いというと語弊がありますが、普遍的な青春映画として立派に成立している作品だと思います。
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コメント
盛り上がりに欠ける造りだったですね、外国人の彼が信頼を得ていく過程もとりあえず触れてみました、程度だけでしたし。
何より作戦の場所や目的とか兵力差とかまったく触れてないので
退屈極まりない演出でした。
せっかくの素材が勿体無いと思ってみてました。
この監督は正直合わない気がするので続編見ないかも
投稿: くまんちゅう | 2009年1月24日 (土) 00:58
昨夜、ニュースステーションでゲバラを扱ってましたね。当時、誰とはわからず「男前だなあ」と、日本の写真家さんが思わず撮ったゲバラのハンサムな事ったら。広島を訪れ原爆の悲惨さを理解し、「これからは広島の人を愛してゆこう」と言ったとも。このオーラと愛を、デルトロでって、、やっぱり無理ですよね。二作目だけ見るかもです。
投稿: 丸々 | 2009年1月24日 (土) 10:26
くまんちゅうさん
思い入れがないとちょっと辛いですかねー。
真面目に作ってそうな感じではあるんですけどね。
この手の映画はあまり好戦的な感じに盛り上げ過ぎてもマズイですし、でも今回みたいな作りだとエンタメとしてはちょっと厳しいですし、バランスのとり方が難しいですね。
>外国人の彼が信頼を得ていく過程もとりあえず触れてみました、程度だけでしたし。
これはですねー、ゲバラ本人で同じものを見せられたら、あれくらいのちょっとしたエピソードでもかなり感動的なんじゃないかって思ったりして(^_^;)。って言っても詮無いことですが。
私はなんだかんだ言いつつも、結構あとを引いてるので、続編も見に行きます。あーでもなんかちょっと憂鬱…。
投稿: 青猫 | 2009年1月25日 (日) 22:32
丸々さん
報道ステーション、私も見ました!
一緒に見てた母は「さすが写真家ね、良い写真だわ~」と感心してました。そしてちょこちょこ挿入されていた映画の映像を見て、デル・トロは汚いカッコをさせるとまんま汚く見えちゃうのがアカン、ということで意見が一致しました(笑)。
キューバでは広島のことを学校でしっかり教えているときいて、アメリカにちょっと見習って欲しいぞ…と思ってしまいました(^_^;)。
投稿: 青猫 | 2009年1月25日 (日) 23:07