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2009年6月22日 (月)

クリスチャン・ツィメルマン ピアノリサイタル in 所沢

クリスチャン・ツィメルマン ピアノ・リサイタル
2009年6月20日(土)17:00開演 所沢市民文化センター ミューズ アークホール

J.S.バッハ:パルティータ 第2番 ハ短調 BWV826
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 第32番 ハ短調 作品111
休憩
ブラームス:4つの小品 作品119
シマノフスキ:ポーランド民謡の主題による変奏曲 作品10
※プログラムA

2009年のツィメルマンのジャパンツアーが終了いたしました。
この日は、蒸し暑かったですがお天気はまずまずで、ホッ(ツィメルマンさん、今ツアーで雨男の汚名返上?)。


所沢ミューズ、個人的には、大変良いホールだと思います。ピアノにはちょっと残響が長いかもしれませんが、飽和して何を弾いてるか分からなくなる感じではなくて、響き方自体はきれいではないかと。
この日は、ツィメルマンの音の響きの余韻(音の減衰)をバッチリ聴き取れて、満足満足。

今回、2階席、3階席はちょっと空席がありました。
所沢は安いから完売というイメージがあったのですが、うーん、世界同時不況とか新型インフルとかプログラムにショパンが入ってないとかツィメルマンが毎年2回(も)来るようになったとか、チケットがはけにくい要素が重なった感じでしょうかね。。。


さて、バッハのパルティータ2番。
ここしばらく、結構あれこれ聴いて、浮気心を出したりもしていたんですが、やっぱり私はツィメルマンが好き、という結論に達しました(今更…?)。
所沢のバッハは、とても自然で、あるべきところにあるべき音符がある、といった感じに聴こえました。しかるべきメリハリはついてましたし、声部の強調なんかも「ふーん、この音を前に出すのね」っていうところはあるんですが(変という意味ではなく)、全体的に気持ちの良い収まり方をしており、(短調だというのに)なにやら幸福感が漂っておりました。
綿密に設計してはいるんでしょうが、懲り過ぎ感はなく、それでいて奏者の人間性・キャラクターがしっかり反映されているという意味において、非常に個性的。
端正ではあるけれど、人間味や人肌の温もりといったものが感じられるバッハだと思いました。
ロンドーは冒頭の音の置き方が実に丁寧ですが、そこからカプリッチョへの持って行き方、うねるような盛り上がり方が大変ナチュラルで、本当にゾクゾクさせられました。また、カプリッチョの、背筋のびっと伸びたような、毅然としたカッコ良さは、ツィメルマンならではではないでしょうか。
あ、この日もカプリッチョの後にシンフォニアに戻ってました。シメの和音は長調。
確かに、カプリッチョって、カプリッチョ単品の終わらせ方と、組曲全体としての収束の付け方との兼ね合いがちょっと難しいかな?と思うことはあったのですよね。
シンフォニアに戻ることで、より一層スケールアップして、なおかつ最後にバッと光がさしたような印象でした。

ベートーヴェンは、ディナーミクの振は大きく、雄雄しさと透明感の対比は十分にありましたが、アコーギクはやや控えめだったかなぁ。別にそのせいだけとも思いませんが、どこに連れてかれるか分からない乗り物に同乗しているような、もしくは遠心力で前後左右にブンブンと振り回されるような感覚や、ドス黒さみたいなものは希薄で、今までに無く聴き易い印象を持ちました。まぁ最終日だし少しまとめに入ったのかな、、、という気がした、んですけどね。
この日はお嬢さんがおみえだったので(それにしてもキレイになったな~)、もしや家族モード入ってやや丸くなったか?とも思ったりもしたんですが……。

聴きながら、今ツアーで聴いた32番を色々思い出していました。
なぜに彼が、あんな、突如として何かが噴出するような、そして、ある意味いびつともいえる、全体の構築を危うくするような表現をとっていたのか、興味があるところです。
一過性のものなのか、それとも新境地なのか、結論は来年のショパン待ちでしょうかね。。。


ブラームスは、どんなんだったかな、、、いや普通にどの曲も素晴らしかったんだと思いますが、なんかすでに脳内にツィメルマンのop.119のイメージがかなりはっきりでき上がってしまってまして、ただ、それが果たして所沢の記憶なのか、大分アヤシイという……。
次のシマノフスキのせいで、記憶が吹っ飛んだようなところもなきにしもあらず。
えーと(記憶を一生懸命たぐりよせてみる)、ブラームスの孤独、焦燥、苦悩といった、ネガティヴな要素はあまり感じなかったような気がするんですが(ただこれは所沢に限りませんが)、ロマンチックに流れ過ぎない透明度の高い美しさ、軽妙さ、品の良さ、ダイナミックな華麗さ等々、一曲一曲の弾き分けは見事でした。
私はやっぱり最終曲のラプソディの大伽藍な感じが好きです。

で、ブラームスを吹っ飛ばしたシマノフスキですが、本当に最後の最後ということもあったのでしょう、文字通り、渾身の、ド迫力の演奏でした。今回、バツェヴィチは1回しか聴いてないので比較してよいのか分かりませんが、同じお国物ではあっても、シマノフスキの方がより、安全運転を放棄しているようなところがあったように思います。なんとも壮絶、でありましたことよ。
最後の和音を弾き終わったツィメルマンが、大きくふーっと息を吐き出しすのが見えました。
もう、本当にお疲れ様でした、としか言い様がありません。

カーテンコールはものすごい拍手で、最終日にふさわしい盛り上がりでした。
ツィメルマンさんは、恒例のピアノに拍手をの仕草に、投げキスも。サントリーより1回増えて2回でした(わーい)。


は~~、とうとう終わっちゃった……。
秋のガーシュウィンのことも考えなきゃって思うんですが、今はまだそんな気持ちになれません。
っていうか、しばらく何も聴かなくても良いくらいの気分なんすけど。。。

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Pianist: Krystian Zimerman」カテゴリの記事

コメント

青猫さま

私は所沢に行けなかったので、青猫さまの所沢のリポート心待ちしておりました。ありがとうございます。
アップロードに少し時間がかかったのは、投げキッスのせいではないかと思ってました。(2回の投げキッス情報は某巨大掲示板にて目にしていましたので。)

今シーズンの演奏は、ある意味彼のターニングポイントになったかもしれないと思っています。(偉そう!ですみません。)
彼の尋常でない弾け方(貶していません)は、私には単なる音楽表現に止まらない、インスタレーション的表現に思えました。これでクラシック音楽愛好者の高齢化と減少に歯止めをかけて、新しい層を開拓できるといいなと思います。
普段ブルースを聴いている家人は(6/10 サントリーホール)度肝を抜かれたようで、「いろいろな感情を表現をするんだね。今日のできはどれくらい?」と興味を持ったようでした。本当、まるで我がことのように「いーでしょ?いーでしょ?」と勝ち誇りたくなりますね。

私は今回2回しか聴いていないのに、心のどこかがまだ壊れたままで、大好きなポリーニの演奏の記憶すら脅かされている気がします。こんな衝撃に耐えられる青猫さまはすごいです!”愛は強し”ですね。来年、もしまた同時期に二人の演奏会があって、曲目が重なったりしたらどうしようと、今から本気で心配しています。


投稿: pomodoro | 2009年6月22日 (月) 21:54

臨場感溢れるコメントありがとうございます。
こんな壮絶なピアノを聴くと他はもう聴きたくないと思います。改めてツィメルマンさんて凄い!!その影にはものすごい研鑽を摘まれたのでしょう。ピアノという楽器の演奏ではなくて心にまた内臓六腑に突きささる魂を今回のコンサートで感じることができ、息も詰めながら聴いたのは初めてでした。忘れることのできない本当に記憶に残るコンサートでした。
また、お嬢さんも来ておられたのですね。お嬢さんも壮絶演奏を聴いて「パパって凄い」と誇らしかったのではと思います。
投げキッス2回も受けられたのですね。羨ましいわ~ 今度兵庫でもしてくれないかなあ。これって聴衆の「のり」も左右しますね。

投稿: バイエル | 2009年6月22日 (月) 23:53

青猫さま、こんばんは!そしてお疲れさまでした。

>なにやら幸福感が漂っておりました。

今回の演奏、すべてに、隅から隅まで・・・幸福感があったなぁと思います。

なんていうのか、後悔しないで、今を生きているというか、明日の希望を
信じるというか、苦しさの次に幸せが来ます・・・とか・・・。
上手く言えないのだけれど、暗いだけじゃない、とか
辛いだけじゃない・・・とかね。
幸せをいっぱい分けていただけて、私たちもまた幸せですね。

しばらく何も聴かなくても良いっていう気分、本当にそうです!そうです!
何も、入ってこないんですよ。

投稿: Melody | 2009年6月23日 (火) 00:18

ああ。。。所沢もやはり素晴らしかったのですね。
最終日は、他とは違った雰囲気のようですね。
疲れた体を引きずってでも行けば良かったかなあ。。。

私も、皆さんと同じように、ツィメルマンの演奏、息を呑んで聴いていました。

バッハも、ベートーベンも、ブラームスも、シマノフスキも、すべてツィメルマンの演奏が一番好きです。
バッハやブラームス、なにかこう天井から柔らかい光がさして、神を見ている感じがしていました。
ベートーベンは、人生を見ているような。。。

ツィメルマンって、やさしい人間味が溢れる方ですね(^^)
演奏の素晴らしさ、人としての素晴らしさ、だから惚れてしまうんですね。

投稿: yuki | 2009年6月23日 (火) 02:00

コメントいただいた皆様、お返事遅くなり申し訳ありませんでした!!所沢が終わるなり激務の海に放り込まれておりましたので、、、。今更な感じもありますが(ううう)、お返事させていただきます。

pomodoroさん
レポをお待たせした挙句にコメントのお返事も満足にできず、失礼いたしました。pomodoroさんのお宅も拝見させていただいてまして、ツィメルマンのお話ももうちょっとさせていただかったのですが、とてもコメントを残せる状況にはなく。。。
投げキッスは、素敵でしたよ(は~~~←思い出し溜息)。

こういう言い方はまことに僭越ですが、今シーズンは何かがべりっとむけたのかな、なんて思いました。さらに僭越なことを言えば、今までご本人が目指すところと演奏が必ずしも一致しないところがあるのでは?と思う部分があったのですが、そろそろ演奏の方が合ってきたのかな、、、などと思ったり。ものすごく単純化していうと、ご本人は美しいばかりじゃない世界を目指していたけれど、実際はとってもとっても美しくて、美しさのあまりその他の要素がなかなか見え難かったのではないか、、、とかそういうことなんですが(いやでも勘違いかも……)。

今回は5回行きましたけれど、実際は2回くらいでも良かったかも、、、いやいや、休みが工面できたらもう2回くらいは行きたかった、とか、いろいろ思ってしまいました。
愛は強い、んですが、演奏会のたびに、かなりダメージ(?)を受けてヨレヨレでしたよ、私。。。

私はツィメルマンとアンデルシェフスキの日程が重ならないことをお祈りしてます……(来年は多分アンデルさんは来ませんが)。

投稿: 青猫 | 2009年7月 3日 (金) 19:45

バイエルさん

こんばんは!

壮絶でしたね~、色々と。。。
私もそちらの方のコンサートに一回くらい行ければ良かったなぁ、、、なんて思います。

お嬢様、大変雰囲気のある方で、お綺麗でした♪
えーと、どうでもいいですが、私はお嬢様を見て「ううむ、あの32番を延々と(?)聴かされてきたであろうご家族はたまったものではないだろうなぁ、、、」などとヒドイことを考えてしまいました。。。(褒めてるんです、一応……)

投げキス2回は、最終日特典でしょうか(笑)。何かあるかもって期待して、ついつい所沢のチケットを取ってしまうんですよねぇ。。。(いえ別に、大したことを期待しているわけではないです~~)
所沢のお客さんも、とても良い盛り上がり方をしていたように思います。やっぱりコアなファンが結構いたのかも。。。

投稿: 青猫 | 2009年7月 3日 (金) 20:07

Melodyさん

ツィメルマンのコンサート終演後に知人・友人に会うとつい「お疲れ様でした」って言ってしまうのは何故なんでしょう。。。

あの、今回、ものすごく現世的だなって思いました。
なんていうか、地に足がついているのですよね。
うまくいえませんが、現実の中にきちんと幸福を見出せる人であろうし、それを我々にも見せてくれるんですよね。
月並みですが、色々頑張ろうという気にさせられます。

コンサート後一週間くらいはほとんど何も聴きませんでしたが、ここしばらくは、ラトルとのブラームスを聴いています。
最近の録音だけに、今の気分にとても近くて良いです。

投稿: 青猫 | 2009年7月 3日 (金) 20:17

yukiさん

今回は、会場ごと、公演ごとに結構雰囲気が違いました。ムラといえばムラなんでしょうけれど、何回も行く分にはこういうのも良いなって思いました。

私もなんだかんだいってツィメルマン至上主義なんですよね~……。バッハのパルティータ2番はアンデルさんの方が、、、なんて言ってたこともあるのですが、ツィメルマンのバッハも、回数を重ねるごとにどんどん好きになっていきました。

ツィメルマンさんは、ものすごく人間的な人だと思いますデス。喜怒哀楽も分かり易いんじゃないかなぁ。。。本当、演奏ってその人を表わすよなってつくづく思う今日この頃です。
演奏ってどんどん変わっていきますから、もしかしたら音楽性が合わないって思う日が来るかも知れませんけど、でもお人柄への尊敬の念は変わらないだろうなぁなんて思います。

投稿: 青猫 | 2009年7月 3日 (金) 20:26

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