ピョートル・アンデルシェフスキ ピアノ・リサイタル
2009年6月6日 (土) 19:00 開演
サントリーホール
プログラム
シューマン 暁の歌 op.133
バッハ パルティータ第6番 ホ短調 BWV830
ヤナーチェク 霧の中で
ベートーヴェン ピアノ・ソナタ第31番 変イ短調 op.110
カーネギーCD→協奏曲(すみだ)→DVDと来て、最後にリサイタルでしっかりトドメを刺された気が……(あ、間にサイン会も挟まってます)。
これはもはや単なる浮気ではすまない、かも。
まぁ、愛と恋は違いますからねー(なんかホント浮気者の言い訳みたいですが……)。
音楽は人なり、演奏には人間性が現れるというのは、概ねというかほとんど真実だと思っていますので、その人の演奏を聴けば結構色々分かるつもりでいるのですが、アンデルさんに関してはちょっと一筋縄ではいかない。
というのも、演奏を聴いても、「アンデルさんはこんな人」という像がきれいに結ばれないんです。
伝わってくるものが乏しくてなんだかよく分からない、ということでは決してなくて、逆にいろんな要素が色んな風に現れていて、総体としては捉えきれないというか。
ただ、実はそれ(総体としての像がうまく結ばれないこと)こそが、アンデルシェフスキという人そのものを象徴しているのではないか、という気もするのですが。
うーん、ちょっと分かりにくいですかね。
要は、いろんな面を持ってて、複雑で多層的な人であるというのが、そのまま音楽になって現れている、ということではないかってことなんですけどね。
とりあえず、オネストな人だとは思います。
基本的な音楽性としてはまず内省的であると思うのですが、曲にとことん向き合って、同時に自身の非常に深いところに降りていって、そこにあるもの、そこで感じたことを、飾ることなく表に出せる人なのではないかと。
そういう意味でオネスト。
でもそれは、自分の内面を顕示する、という押し付けがましいものではなく。
ベクトルは内に向かっていても、聴き手不在というわけでもなく。
結構トリップする瞬間がないわけではないんですが、でもまぁ、基本的に、アンデルさんはちゃんとそこにいて。
それでまぁ、時々ふっとこちらを向いてくれるような、そんな温度でしょうか。
すみません、前置きが長いですね。
私も実際のところ、よく分からないんですよね。
一曲目、シューマンの「暁の歌」で始まりました。
シューマンが精神を病む直前に作曲された曲、だそうです。
組曲としては、あまりまとまりがないような気がするし、一曲一曲とってみてもそれぞれ心象風景的というか、いやちょっと待て、これはもう「風景」というような具体的なものではなくて、感情の「軌跡」でしかないのではないか、、、と思わせる部分もあったりして。
で、アンデルさんは、そういうある種のまとまらなさを無理にまとめに入ることなしに、一瞬一瞬の心の動き、襞みたいなものを、誰ともなくボソボソと独り言をつぶやくかの如く弾いたのだと思います。
すごくこじんまりとした個人の内面世界の発露であると同時に、「暁の歌」というタイトルが想像させる、人生の最後の局面で眺める神々しいような情景のようでもありました。
アンデルさん、シューマン好きなんですよね。
「シューマンは自分にとても近い。詩的で不完全、こわれもののように純粋ではかなく、危険な音楽で、心に触れる」 ショパン 2009年5月号
私にとってはシューマンってシンパシーを感じられない作曲家の一人なんですが、アンデルさんがシューマンに惹かれる気持ちは、演奏を聴いてると、なんか分かるような気がしてきます。
で、このヒトは、この「暁の歌」の後にバッハなんか弾いちゃうわけなんですけどね。
音の広がり、いや世界観の規模というのかな、一気に拡大しまして、小部屋から小宇宙へ、みたいな豹変ぶり。よくもまぁ、ここまで切り替えられるものだと感心してしまいました。
シューマンの(ヤナーチェクもそうかな)とりとめのなさや唐突さ、不完全性を愛してて、しかもバッハ的な構築性とフォルムに対する志向みたいなものもすごく強くて、そういう意味では相当なカメレオン。
レパートリーは狭いのであまりオールマイティとはいいたくないけど。
ヤナーチェク、最近ピアノリサイタルを聴きにいくとなぜかプログラミングされていることが多くて、でも私はあまり得意ではないのでついつい「なにもみんな揃ってやらんでも……」などと思ってしまうんですが。でも、アンデルさんにはこういう不安定さのある曲想は合ってると思います。
ベートーヴェンの31番。
以前の録音を聴いて、爽やかで線の細いベートーヴェンっていう印象があり、ちょっとナメてかかっていたんですが。これがもう、とんでもなく良かったです。
はー、美しかったー。。。
ピアノが鳴っているというよりも、音楽が空間に広がっていく様が目に見えるような錯覚を覚えました。
アンデルさん、結構この曲を弾きこんでるのではないかと思うのですが、さすがにすっぽり手の内に入っていて余裕がある感じ。だからといって軽く弾いてるというわけではなくて、大変真摯で、何よりも愛情と親密さが感じられる演奏でした。
彼は音楽に相対する際に、おそらくはかなり身を削るタイプではないかと思うのですが、31番に関しては、真摯ゆえに生じる悲壮感みたいなものは完全に超越しちゃっていて、なんかすごい高いところに到達しちゃってるな、と思わせる名演でした。
アンコールはバルトークの「チーク地方の4つのハンガリー民謡」より第1曲、バッハのパルティータ2番のサラバンドの2曲。
お客さんの反応も良くて、サービスしてくれたかな?
終演後のサイン会は、さすがにサントリーだけあって、長蛇の列でした。
アンデルさんお疲れのところゴメンネ、と思いましたが、「こんにちは~」ってしてきましたよ。
とっても気さくでカワイくて優しかったです。
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コメント
こんにちは。とうとう恋に落ちてしまったのですね、隠しても無駄ですよ(フフフ)これで青猫さんと私はよき恋のライバル、じゃなくて同士ですね!!!
私、シロトなものでうまくいえないんですが、アンデルジェフスキはきっと中身はすごく熱い人なんじゃないかと思うんです。でも見た目とかスマートだし演奏も知的でクールな印象があるので、たまに現れる熱いものを感じたりするとそれに引き込まれてしまうような気がします。音色が美しく、それに油断してるとガツンとやられちゃうんですよね・・・
シューマンはあまりお好きでないようですね。私も若い頃はちょっときれいなだけでじゃまくさいな、とか思ってたんですけど(ひどいですね)年を取ってきて何となくやさしさを感じるようになってきました。アンデルさんの美しく、優しく、悲しいシューマン、もっと聴きたいな、と思っています。
次回の来日のときもぜひ行きたいなあ・・私の家から日帰りで行けるとこでやって欲しいです(切望)次はブラームス聴きたいです!
投稿: yuko | 2009年6月11日 (木) 10:08
yukoさん
こんばんは♪
ドキドキ具合が、まさに恋です…。
アンデルさんは、、、そうですねー、内面に確固とした強いものを持ってる人だと思います。
静かな情熱というか。
見た目はソフトで人当たりも良いですが、こだわりが強そうだし、言い出したらきかなさそう。。。
そうなんです、私、シューマン、苦手なんです。
多分、何も考えないで聴けば良いんでしょうけれど、とにかく弾き難いという印象があって、敬遠しがちです。
でもアンデルさんのシューマンは楽しく聴けますし、アンデルさんの演奏を聴き続けたら、もしかしたらシューマンも好きになれるかも?って思います。
多分、アンデルさんのキャラクターに共感する部分が多いんでしょうし、アンデルさんの生き生きした演奏スタイルにも合ってるんでしょうね。
次の来日は2年後くらいなんでしょうか?(すみません、全然チェックをしてませんが)
ツィメルマンが毎年来てくれるようになってしまったので、隔年くらいでもものすごく間隔があいてしまうような感じがして哀しいです。
次はもう少し回数や場所が増えてくれると良いですね。
私はシマノフスキが聴きたいです。
あとは、DVDで見た、ブラームスのピアノ協奏曲も聴きたいなぁ…!(ドゥダメルが指揮なんて美味し過ぎます)
生ではなかなか厳しいでしょうけれど、せめて録音してくれないものかしら。。。
投稿: 青猫 | 2009年6月12日 (金) 23:12
そうですね、最近は2年に1回ほどの割合で来日してますかね・・(ファンのくせに私もこの辺はぜんぜんチェック甘いです^^;)私のように地方に住んでいると公演場所ってすごく重要でして、特に最近はどんな人も関西に来てくれないことが多く、悲しいです。せめて大阪なら電車で2時間ほどで行けるんですけどね・・・
ブラームスといえば、ムローヴァとのコンビでのCDがありますね。私には思い出の一枚です。
ところで、青猫さんは東京近辺にお住まいだと勝手に思っていますが、ツィメ様を聴きに福島まで行かれるって、すごいですね!!(遠いですよね?)恋から逃れて愛を追いかけるんですね!!(って、何のこっちゃ)
投稿: yuko | 2009年6月13日 (土) 10:10
yukoさん
私は休みの工面がちょっと面倒なので、行ける時に行けるところへ、、、になりがちです。たとえ家の近くで公演があっても仕事で行けないこともままあり、なんだかんだと遠征しがちです。
そうですね、ブラームスはムローヴァとのデュオだけでしょうか。ご本人、好きではあるようなので、そのうち何か別の曲もやってくれるかな?と期待しておりますが。。。(小品も素敵ではないかと……)
愛を追いかけて福島まで行って来ましたよ~。福島は近いような遠いような、、、ですね。あ、ちなみに私の住まいも東京に近いような遠いような、、、です。
財布の問題さえ解決できれば、電車は好きなので、新幹線2時間くらいだったら楽チンって感覚も無きにしもあらずなんですけど。
投稿: 青猫 | 2009年6月15日 (月) 13:06
Piotr は、シューマンの「暁の歌」を弾いたんですか。あの曲ってあまり演奏されないんですよね、とてもいい曲なのに。「暁の歌」は Pollini のCDでたまに聴いています。
ところで、Piotr って髪型によってだいぶ雰囲気が変わりますよね。どれも素敵!
"Unquiet Traveller" のDVDですが、店頭に出ました!来週買います!ワクワク
投稿: Ken | 2009年6月21日 (日) 07:58
Kenさん
「暁の歌」、じっくり聴くと好きになれそうな気がしてます。
ポリーニの演奏は確かYoutubeにあったかな?
アンデルシェフスキは髪型も結構変わりますね。
私は今の髪型が短すぎず長すぎずで好きです。
"Unquiet Traveller" はもう買われましたでしょうか。
盛りだくさんで、すごーくおススメです。
どうぞ楽しまれてくださいね♪
投稿: 青猫 | 2009年6月28日 (日) 01:01