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2010年3月

2010年3月22日 (月)

フィギュア雑感5、というかプルシェンコ

Knee problems force Plushenko out of Worlds
ということで、プルシェンコは今週の世界フィギュアを欠場です。ドクターストップ(2週間安静)がかかったそうですが、古傷の膝でしょうかね、やっぱり。
もともと、どこがいつ壊れてもおかしくない状態だろうとは思っていましたから(膝が一番の爆弾でしょうけど、背中も腰も股関節もアキレス腱も太ももも足首も(以下略)。悪くないのって、首から上と腕くらいじゃないの?)、いつ最後の試合になるとも分からないし、ワールドは正座して見るつもりだったんだけどな。。。
ソチに出るって報道されてますけど、本人は「ソチにはいる。選手かコーチかボランティアか分からないけど。選手が一番だけどね」という内容のコメントをしてますんで(プルシェンコ バンクーバー五輪 EX後?インタビュー(日本字幕))、ケガの経過次第でしょうね。また帰ってきてくれ、とは簡単にはいえませんが、(2つするかもしれないという)手術、成功しますように。



……とりあえず、大輔君よ、あとは頼んだ。


さてさて、バンクーバー以来、プルシェンコの「ニジンスキーに捧ぐ」の動画が人気のようで。バンクーバーでプルシェンコを初めて知って、という人も多いんでしょうが、五輪でストレスのたまったファンが昔の演技を見まくってるんでしょうね。。。(かくいう私もそうなので、みんな考えることは一緒だな、と)
バンクーバー後、一連の抗議のこともあってか、プルシェンコの評価が不当に貶められているような気がするので、「ジェーニャがどれだけ偉大かってことは、ずっとフィギュアを見てる人はきっと分かってるよ……」という気持ちを込めての動画紹介。


2004年のロシア国内戦の、芸術点オール6.0の伝説プロ「ニジンスキーに捧ぐ」です。不世出の天才と謳われたバレエダンサー、ヴァツラフ・ニジンスキー(1890-1950)が降りてきている、と思わせる名演技ですね。
ニジンスキーは、ディアギレフ率いるバレエ・リュスで活躍した天才ダンサーで、人間離れした跳躍力とともに、「春の祭典」や「牧神の午後」など、超前衛的な振付(今見てもビックリする)でも、バレエ史にその名を刻んでいます。脚光を浴びたのはわずか10年と短く、後年は精神を病んで60歳で波乱に満ちた生涯を終えたニジンスキーは、まさに20世紀バレエにおける伝説そのもの。

この時のプルシェンコって、20歳そこそこなんですよね。少年の面影を残してはいるものの子供っぽいというわけではなく、髪の長さのせいか中性的な感じや、男性離れした柔軟性もあった時期。色んなものの境界線上にあって、独特な何かを生み出しすことができた稀有な瞬間であったよなぁと思います。これより若かったりすると「解釈」の部分が浅くなるであろうし、ちょうどヘルニアだか背中の故障だかでビールマンスピンを封印する前で、4回転からの3連続コンボも普通に(!)跳んでて、技術的にはほぼ全盛期。ニジンスキーを演じる上では、本当に奇跡的なタイミングだったんじゃないでしょうか。
最初見た時は、ちょっとバレエ臭が強すぎるか?という印象もあったのですが、ここまでバレエ的な動きや振りをきちんと消化してスケーティングと融合させた例って、近年ではほとんど無いような。「牧神の午後」(2分21秒)とか「薔薇の精」(4分21秒)とか、ポーズがイチイチ決まり過ぎてるし、足元をみなければスケーターだとは思わないんじゃないかな。「薔薇の精」のところで浮かべた微笑みは天才ニジンスキーの無垢なる狂気か、はたまた狂気からの開放か……。ちょっとゾクゾクする部分です。

Photo_2
これはニジンスキー@牧神の午後。


しかし、私はつくづくと、バレエダンサー・プルシェンコを見てみたかったな、と思うんですよね。この身体能力(鬼のような脚力)にして、何かを降ろしてしまえる表現力と、底無しのエンターテイメント精神、そして強靭過ぎる精神力。一体、どれだけ素晴らしい、個性的なダンサーになったことか、と想像するのはかなり楽しいです。ダンサーだったらスケーターよりは寿命が長くて、上手くすれば40代くらいまで一線で働けるし、スカウトされるままにマリインスキー(ワガノワ・バレエ学校)に入っちゃえば良かったのになぁ……。

ちなみに、「ニジンスキーに捧ぐ」の振付をしたのはダンサー兼振付師のユーリ・スメカロフ(Yuri Smekalov)。元エイフマン・バレエ(サンクトペテルブルク本拠)のソリストで、今はマリインスキー・バレエに在籍しているそうです。Youtubeでスメカロフの映像を探したら、ヴィクトリア・テリョーシキナ(超上手)と踊ってました。スメカロフ、ブノワ賞(バレエ界のアカデミー賞ともいわれる)もとっているし、いまやビックネームなのかな??


さて、ニジンスキー絶賛モードですが、実は私が一番好きなのは↑ではなくてですね、こっち。ニジンスキーよりも、も少し男っぽいかな。

2006年の欧州選手権のフリーで、プログラム自体はトリノ・オリンピックと同じゴッドファーザーなんですが、こっちの方が断然、鬼気迫っていて迫力があります。何でも風邪を引いてて(39度発熱中だったってマジすか?)、途中からは呼吸困難状態だったとか。さすがにスピンはヨロヨロしてますが、ステップや踊りの部分は気迫がこもりすぎていて、どっか別の星にいっちゃってます。。。なんかねぇ、この人って、競技中のアドレナリンの量が人と違うんじゃないかって気がするんですよね。あと、さすがに旧ソ連の最後の遺産といわれるだけあって、根性の据わり方が普通と違いすぎるのではないかと。

オマケ。

金ピカのマイケル・ジャクソンメドレー(2002年グランプリファイナルのSP)、King of IceとKing of Pop(宇宙人同士?)がなにやら交信中???
これがエキシビジョンじゃないってのがにわかには信じがたいんですけど。
ステップでは腰振ってるし、SPで良いのか、ソレ……。
ちなみにソルトレイク・オリンピックでは同プロで4回転をコケてますが、これくらいステップがキレキレならば、4回転なんかどっちでも良い、という気すらしてきます(今の採点方式ではこの手のステップは全然評価されませんが)。

それにしても、曲のつなぎがテキトー過ぎ。マイケル、ごめんよ(ってなぜ私が謝る?)。

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2010年3月16日 (火)

フィギュア雑感4

フィギュアネタ、いつまで続くかって感じですが、まだ続きます。
もーいいだろってくらい時間がたってしまってますが、コレをいいたいがためにフィギュア雑感、だったんで最後まで叫ばせてください。。。
そうじゃないと、私も前に進めんのよ。

いやー、私は本当に本当にショックでした。
つーか、いまだにショックです。
よもや、宇宙人・皇帝・絶対王者のプルシェンコが(大きなミスも無いのに)、4回転を1回も跳ばない選手に負ける日が来ようとは、夢にも思いませんでしたよ。
私は非国民なので、高橋大輔君の4回転転倒も、織田君の靴紐事件も、そして真央ちゃんが負けたことすら、(胸は痛みましたが)実はたいしてショックではなかったのですよね。まぁそういうこともある、くらいにとらえていたというか。
でも、今回のプルシェンコの一件については、本当になんていったら良いのか、、、私の理解を超えていました。

別に、プルシェンコのファンだからプルシェンコが負けるのは受け入れられない、とかそういうことではありません。
納得のいく負け方だったら全然構わないのですよ。
プルシェンコだって正視に耐えられない演技をしたことがあるし、特に不敗信仰があるわけでもありません。

そもそも、競技お休み中の時に、アイスショーかなんかの動画を何回か見ましたけど、(ケガのせいもあるでしょうが)あまりの緩みっぷりに、こりゃー復帰は絶対無理だろう、アマチュアをナメんな、とまで思ってましたからね。正直、私はプルシェンコの五輪2連覇なんて、露ほども信じておりませんでしたよ。2009年の秋までは。

実際は、ナメてたのは私の方でして、宇宙人プルシェンコは腐っても宇宙人プルシェンコだったのでした。
まぁ、全盛期に比べて「ちょっと人間になったな……」という印象を受けたのは否定しませんが、グランプリシリーズではロシア・ロステレコム杯でぶっちぎりの優勝を果たし、古傷の膝を故障しつつもロシア国内選手権を制し、1月の欧州選手権も完勝。
特筆すべきは、今季全てのショートとフリーの両方で、4T-3Tと3Aをおりていること。特に4T-3Tはオリンピックも含めて一回の失敗も無く、文字通り百発百中、完璧な精度だったといって良いでしょう。満身創痍でだましだまし、のはずなのに、転倒も回転不足もステッピングアウトもお手つきもすっぽ抜けもエッジエラーも無し(バケモノ過ぎる……)。
そして、おそらくは膝に負担がかかるであろうスピンなんかも、ちゃんとレベル3、4をもらっていましたし、ステップもほぼ同様です。PSCの「つなぎ」の点数はやや低めではあったけれど、あの豪快な演技にチマチマした「つなぎ」なんて必要なのか?逆にスケールダウンになるのでは?とすら思わせたのは、やはり貫禄の4T-3Tあったればこそ、でしょう。
誰が言い始めたか分かりませんが、「男は黙って4回転」って言い得て妙だよなぁ、、、としみじみ感じさせてくれた今季のプルシェンコだったのでした。

だから、1月、欧州選手権が終わった段階では、高橋大輔君に4回転が戻ればガチンコでプルシェンコとの金争いになるだろうなぁ、とか、ジェレミー・アボットがノーミスでくればアボット対プルシェンコかもなぁ(今季のアボットは4回転の入った、素晴らしく芸術的なプログラムだったので)、、、とか、今にして思えば幸せな予想をしていたのですよね。もちろん、プルシェンコがコケれば大混戦だろう、とも思ってはいましたが、実はこの頃には、2連覇はかたいかも、などと思っていたのですよね。

さて、オリンピックの蓋が開いてみれば、SPが終わった段階で、プルシェンコは90.85でトップ。2位のライサチェクは90.30、3位の大輔君は、90.25でした。このお三方はノーミスで、ほぼ団子状態。
SPプロトコル
最初は喜んでいたんですよね、高橋君が良い位置に付けた!って。
でも、よく考えてみたら、これ、大分おかしくないか?

プルシェンコ:ジャンプ構成は4T-3T、3A、3Lz、スピンはレベル4×2、ステップはレベル3×2。
ライサチェク:ジャンプ構成は3Lz-3T、3A、3F、スピンはレベル4×2、ステップはレベル4と3。
高橋大輔君:ジャンプ構成は3F-3T、3A、3Lz、スピンはレベル4×2、ステップはレベル4と3。

3回転の中ではルッツの難易度が高い。だから、ぱっと要素を見比べた場合、順番的にはなんとなくこれで妥当な気がします。
でも、プルシェンコのジャンプ構成は別格。4T-3T、3A、3Lzという組み合わせで、今も昔もこれ以上のジャンプ構成はほぼあり得ない(あとはもう、4回転の種類を別の難しいものに変えるか、コンビネーションのセカンドジャンプを3Loにするしかない)という最高難度の異次元ジャンプをもってきて、GOEもちゃんと付きました。
でも、最終的なSPの結果は、2位、3位とコンマ以下の差しか付かない超僅差。
プルシェンコの場合、ステップのレベルが他の2人よりも若干劣るっていうのは確かにあったんですが、それを考慮しても、3点くらいは点差が付いても誰も文句はいわなかったんじゃないかなぁ。
この辺が、PCSマジックだったな、と思うのですよね(ジャンプで劣る分をPCSで救済してしまうというアレだ)。
私は高橋大輔君のことは大好きだし、応援もしてきたし、彼のスケーティングスキルの素晴らしさは言うに及ばず、ステップのクオリティやダンスのセンスを含めた芸術性についても間違いなく世界一だと思っているので、PCSが高く出ることについては全く異論がありません。ただ、それがここまで、ジャンプ構成の圧倒的なレベルの違いをチャラにできるものになってしまっては、やはりマズイのではないかと思うのですよね。しかも、ライサチェクのPCSはといえば、大輔君よりも高いのですよね~~~。あり得ん。

……まぁ、2人の点数が不当に高いというよりも、むしろプルシェンコの点数の出方が押さえられた、というべきなのかもしれません。その辺は、私がどうのこうのいうよりも、こちらを読んでいただく方が早いです。
田村明子さんの記事「プルシェンコの連覇を妨害した!?米国人ジャッジ、疑惑のEメール。~五輪でのロビー活動の真実~」
田村明子さんは長くフィギュアの取材をされてきたジャーナリストで、フィギュアへの愛情も深く、表の事情・裏の事情にかなり踏み込みつつも、フェアでバランス感覚の取れた記事を書く方ではないかとお見受けしています。ジャッジについても、そりゃぁいろいろあるけれど安易に非難するべきではない、というスタンスで、いたずらに採点に関して批判めいたことを書くようなことをする方ではないように思います。それでも今回の一件については「プルシェンコは、完全に北米勢にはめられたのだという印象だけは、私はどうしても拭うことができなかった。」と書いているのですよね(まぁこの記事のメインは採点に関するアレコレとは若干話が違うのですが、ハメられた挙句のあの点数だったわけで)。
この手の話は、別に珍しいことではないのかもしれない、とは思います。フィギュアに政治が必要である、ということも、別に今に始まったことではないでしょうし。
ただ、現実にプルシェンコにとっては大変アウェーな状況であったことは間違いがないだろうし、SPの点数もかなり低めに出たのは確かなんだろうな、とは思います(この辺は、プルシェンコ本人も抗議していている部分です)。

フリーの日のプルシェンコが決してベストの状態ではなかったことは、否定できません。おそらく、かなり不調だったのでしょう、ジャンプの着氷に乱れがあったし、若干精彩を欠いてもいました(体調不良だったのか、最終滑走のせいか、はたまたSPの点差の無さがメンタルに影響したのか、その辺は分かりませんが。あるいは全部だったかも)。
もし、プルシェンコがあの日万全で、誰からも文句のつけようのない完璧な演技をしていたら、どんなロビー活動があったにせよ、問題なく優勝していたかもしれない、とも思います。
そういう意味では、プルシェンコのフリーの演技は、ぐうの音が出ないほどの圧倒的な演技ではなかったし、最終的には、2人のPCSは同スコアで、スピンとステップのレベル認定とGOEの部分で明暗が分かれたな、という感じ。仮にプルシェンコが勝っても異論は出たかもしれない、と思わないではありません。
FSプロトコル

それでも、私はこの結果には理不尽さを感じます。
ショートとフリーで2回の4T-3Tをきれいに降りて、他のジャンプも転倒やDG等の大きなミスは無く、スピンやステップもレベル3と4を得てて、ダンスの才能は言うに及ばず、きちんと自分の世界観を作っていた(最後のストレートラインステップなんか、足だけではなく腕と頭の動きの見事さはさすがにプルシェンコでしたよ、本当)。それでも最高難度のジャンプが3A-2Tで、しかもそれにGOEでマイナスが付いた選手に負けるって、それは果たしてスポーツとして正しい姿なのだろうか、と。
※プルシェンコは子供の頃に、ダンス教師だかバレエ教師(確かマリインスキーの教師ではなかったかなー)とスケート教師との間で取り合いになったとか。確かに彼はバレエダンサーになっても一流になれたであろうと、私は思います。それくらい、ダンスの才能や音楽性は並外れたものがあると思うのですが、最近はどうもジャンプだけ、という誤解をされているような気がして、きわめて心外です。

百歩譲って、FSは、高難度だけどキズがあったプルシェンコと、難易度を下げて完成度を上げたライサチェクが拮抗した、といえるかもしれない。だけど、SPはテクニカルな要素をきっちりこなすという意味合いが強いはずだし、そうであればSPでこそきちんと点差を付けるべきであったと思うのですよね(タラソワさんなんかも、プルシェンコはSPの点差で逃げ切って勝てる勝負であった、みたいな言い方をしている)。

ついでにいえば、ジャッジ抽選運もあっただろうなぁ。最終的にここまで僅差(1.31点差)だと、抽選次第で順位が変わったかもなぁ、最後は結局くじ引きかよ、、、などと思うと本当に脱力過ぎる顛末です。


私はライサチェクが4回転を回避したこと自体については、正しい選択だったと思うのですよね。彼は今まで4回転で散々回転不足を取られてきたし、順位を一つでも上げるには4回転回避は必須であったろうと思います。なので、そのこと自体を非難しようとは思いません。

でもそれとルール・ジャッジングの問題は全く別です。

今回のオリンピックで、ジャッジは、高難度の技に挑戦するのは無意味であると、はっきりと審判を下してしまいました。
(タラソワさんではありませんが)より高く、より速く、より強い者が勝つ、という、ごくごくシンプルなスポーツの真理を、完成度と芸術性の名の元に否定するフィギュアスケートとは、一体なんなのでしょうか。
この際だから言わせてもらいますが、芸術そのものであるバレエだって、30年前、20年前と比べたら技術レベルは相当に進化しています。特に天才が一人現れれば(ギエムとかね)、技術的なスタンダードの有り様がガラっと変わることだってあります。昔はギエムみたいに180度の高さまで足を上げる人はいなかったけれど、今は別に珍しくもないし、グラン・フェッテだって昔はシングル×32回転で十分だったんでしょうけれど、今やダブルやトリプルを入れるのは当たり前、下手すれば4回転もありでしょう。バレエですらそうだというのに、スポーツであるところフィギュアが、進化を(意図的に)やめて良い理由はどこにも見当たりません。

「4回転は、3回転の延長戦上にあるものではない。あれはまったく別な次元のもの。別なレベルのものなのです」とは、プルシェンコのコーチで、ウルマノフ、ヤグディンなどを育てたアレクセイ・ミーシンの言葉ですが、天から特別な才能を授かったスケーターが、血を吐くような努力と度重なるケガの末に習得する4回転が、地上から姿を消す日もそう遠くないのではないか、、、そんな危惧を抱く今日この頃です。

ISU(国際スケート連盟)は、先人たちが積み上げてきたものを、そして現役の選手が高みを目指そうとするその精神を、何故、そんなに躍起になって否定しようとするのでしょうか?
私には全く理解できません。

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2010年3月10日 (水)

フィギュア雑感3

先月放送された、NHK特集「ミラクルボディー 第3回 フィギュアスケート 4回転ジャンプ “0.7秒”の美しき支配者」を見ておりました。

4回転ジャンパー、ブライアン・ジュベールの特集でした。
ふーむ、4回転を跳ぶと、遠心力が57kgもかかるんですか。瞬間的に想像を絶する集中力が必要でしょうし、わずかな狂いが命取りになる。そりゃー精神的にも肉体的にも負担が大きいわー。フリーの4分半のプログラムは3000メートルを全力疾走するのと同じ体力が必要だそうだし、その中に4回転を入れるというのは本当に過酷なことなんだなーと改めて思いました。実際、ジュベールも、4回転をクリーンに決めても後半の簡単な2アクセルで転倒したりするわけで、なんでこんなんで転ぶ?!とか思うんですけど、大技はそれだけ消耗が激しいってことなんですよね(えーと、これ私はなんとなく想像できる気がするんですけど、ピアノなんかでも、一か八かでクリアしなくてはいけない技術的難所があったりすると、ものすごくストレスフルだし、そこでエネルギーを使い果たしてなんでも無いところで指がもつれたり、とかありますよね。低レベルな例えでアレですが)。

私はジュベールって、4回転以外は別に面白いって思わないんですけど(まぁ好みの問題ですが)、最高難度の技を入れてこそ真のチャンピオンである、という考えを貫く姿勢は本当に立派だと思います。バンクーバーでは大乱調で残念でしたが。。。


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それだけ大変なジャンプ、4回転ですが、タラソワさんは4回転がスコア上は子供でも跳べる3-3-2のコンビネーションに逆転されてしまう、と嘆いていました。
そうなんですよね、コンボの配点も難易度を考慮して比較してみるとバランスが悪いところが散見されるんですよね。
3-2-2なんかは、多分そんなに難しくは無いんだろうと思うのですが、特に後半に跳ぶとお得に高得点を稼げるので、男子もバンバン跳んでますね。おかげでなーんかセコくてチマチマした印象になってしまってますが。

余談ですが、プルシェンコには今回、3連続ジャンプが無かったとジャンプ構成を批判している人がいましたが、プルシェンコにとって3連続ジャンプは4-3-3か4-3-2(3A-3-2って跳んでましたっけ?)でしょうから、まぁ3-2-2なんか、王者のプライドにかけて、死んでも入れないだろうと思うんですよね。結果的には、どっかにオマケで2回転くっつけとけば勝ってたかも、、、っていうのはあるんですが。


さて、話を戻しますが、4回転トウループの基礎点は9.8です。
3-3-2、種類にもよりますが、そうだなぁ、3F-3T-2Tで計算すると基礎点10.8で、確かに逆転されてしまいます。一つ目が易しい3Sでも、基礎点9.8ですね。
というか、それ以前に、3Lz-3Tでも10.0で逆転されちゃうんですけどね。やっぱり安いな、4回転。。。

ここでGOEの話を蒸し返すのもしつこいですが、再び。
3Lz-3T(基礎点10.0)といえばキム・ヨナの得点源コンボですが、彼女の場合、GOEが2点ついて12.0なんてハイスコアを叩き出すわけですよ。確かにキム・ヨナのジャンプは幅も高さも流れも安定感もあるし、3Lz-3T自体も難易度の高いコンボではありますが、3A-2T(基礎点9.5)や4T(基礎点9.8)どころか、男子でも本当に希少価値になってしまった4T-2T(基礎点11.1)よりも高い点数をつけるというのは、あまりにもあまりではないか、、、と私は思うのですよね。

<参考:ジャンプの配点表>
           前半 後半
2T 2トウループ 1.30 1.43
2S 2サルコウ 1.30 1.43
2Lo 2ループ 1.50 1.65
2F 2フリップ 1.70 1.87
2Lz 2ルッツ 1.90 2.09
2A 2アクセル 3.50 3.85
3T 3トウループ 4.00 4.40
3S 3サルコウ 4.50 4.95
3Lo 3ループ 5.00 5.50
3F 3フリップ 5.50 6.05
3Lz 3ルッツ 6.00 6.60
3A 3アクセル 8.20 9.02
4T 4トウループ 9.80 10.78
4S 4サルコウ 10.30 11.33
4Lo 4ループ 10.80 11.88
4F 4フリップ 11.30 12.43
4Lz 4ルッツ 11.80 12.98


GOEもいい加減不可解ですが、5コンポーネンツ(スケート技術、要素のつなぎ、演技力、振付け・構成、曲の解釈)、PCSなどとも呼ばれている、いわゆる演技構成点(昔は芸術点なんて言われてた部分)の出方も、素人には釈然としないものがあります。
「曲の解釈」とかねぇ、、、007とかアメリで曲の解釈って言われても……って思ってしまうんですけど(映画音楽が悪いとはいいませんが)。まぁ、ここに音楽性みたいなものも含まれるようですが、必ずしも音楽性の豊かな選手がきちんと評価されているとは思えないし。
踊りが上手いという意味では、のきなみ7点台の鈴木明子選手なんかはもっと点が出て良いと思ったし、演技力なんかももうちょっと評価して欲しかったです(彼女はジャンプのGOEも1点以内で、解説の八木沼さんが褒めるほどにはもらえてなかったし)。

私はキム・ヨナ選手のPCSは、全体の完成度の高さなどをかんがみても、高く出すぎたと思います。男女通じてただ一人、スケート技術、演技力、曲の解釈の3項目で9点台が出ていましたが、スケート技術なんかは他にも上手い選手が何人もいるし(高橋選手、チャン選手、小塚選手なんか見るからに上手いですよね)、演技力なんかはもう圧倒的に高橋選手だろうとか、ガーシュウィンなのに無駄に妖艶(曲の解釈って一体?)とか、まぁとにかく突っ込みどころが満載なんですよね。
キム・ヨナ選手と浅田選手を比べてどうのってやりだすと話がまた面倒になるのでやりませんけど、これだけは言いたい!のは、バレエ的な動きの優雅さや柔軟性、ラインやポジショニングの美しさ、ワルツのリズムを難なくものにする抜群の音楽性やダンスのセンスなんかは、現役の女子選手中では、間違いなく浅田選手がトップではないかと思います。

PCSについては、(キム・ヨナ選手に限ったことではありませんが)どうも首を傾げざるを得ないことが多いのですが、唯一納得できる説明があるとすれば、既に相場ありきだ、ということではないかと思うのですよね。PCSは実績点だって人もいますが、要するに各選手に大して大体これくらいって点数が既にあって、あとは選手のその日の出来不出来とその他の事情で微調整ということではないかと、私は(勝手に)解釈してます。
「その他の事情」というのは、この際だから虎の威を借りますけど、カナダ人スケーターでオリンピック銀メダリスト(×2)のエルヴィス・ストイコさんいうところの、誰を勝たせて誰を負けにするか、といういわゆる一つの「大人の事情」かなぁと。

以下、男子シングル直後のコラム(The night they killed figure skating)より。
I don’t want to rain on anybody’s parade because it’s not the skaters’ fault. It’s the system. And the figure skating community wants to control who wins and who loses. And what it does is it makes the component score more valid than the jumps so it can control whatever it wants. And that’s exactly what happened Thursday night at Pacific Coliseum. 
選手が悪いわけではないから、誰かのお祝いを台無しにしたいわけじゃない。システムの問題なんだ。そして、figure skating community(※ISU(国際スケート連盟)のことでしょう)は誰を勝たせて誰を負けにするかコントロールしたがっている。そして、コンポーネンツスコアをジャンプの採点より高く出せば、彼らのやりたいように何でもできる。そしてそれはまさに木曜日(※男子シングルフリーの日)にパシフィック・コロセウムで起きたんだ。

自国でオリンピック開催だというのに、ここまでいうか?普通、って思いましたけど、よほど腹に据えかねたのかな。
でも、女子の結果についてのコメントでは、銅のロシェット以外完全スルー。うーん、なんなんでしょうねって感じです(日本では史上最高の闘いとかいわれてたのにねー)。

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2010年3月 8日 (月)

フィギュア雑感2

近況にちょこっと動画のせるだけのつもりが長文になってしまったので、加筆訂正の上、独立させます。。。

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このところ、昔は良かった的なことばかし言っていて自分でも嫌になるんですが、やっぱり良いものは良い、です。

ヤグディンのソルトレイクオリンピック(2002)のフリー。超高画質が嬉しい。
素直に良いなぁ、素晴らしいなぁって心から感嘆できる、王者のすべりです。フィギュアの神様が降りてきたって感じの演技でしたね。

冒頭の4T-3T-2Loのダイナミックな美しさといったら!
どうせ3連続ジャンプやるんだったら、これくらいやってくれ(男子の3-2-2とか別に見たくないです、私)。
3Aも、さすが、世界で一番美しいとうたわれただけのことはありますね。
スケーティング(エッジング)もものすごくキレイだし、動きも隅から隅まで美しく、本当に絵になりますね。情感豊かでドラマティックだし、演技力も申し分なし。表現力があるっていうのはこういうのをいうんだと思うんだけどなぁ。違うのかなぁ。

あ、ジャッジングもすんごい分かり易いです。超明朗会計。3フリップの着氷でよろけた分マイナス1ってところでしょうね。

さてさてヤグディンといえばプルシェンコ。プルシェンコといえばヤグディンってくらいの宿命のライバルの2人ですが、この時プルシェンコはといえば。
SPでコケてまさかの4位発進、最終的には銀メダルだったんですが、よく追い上げたというべきでしょうかね。

プルシェンコ、この時19歳ですが、もんのすごい負けず嫌いっぷりを発揮しています。冒頭の4T-3T-3Lo、こりゃ死ぬ気で跳んできたな、というか、とにかく意地で最後の3Loを付けたな、という感じ(あれでコケないんだからすごい)。ヤグディンが4T-3T-2Loなら俺は4T-3T-3Loを跳んでやる!みたいな意地も感じさせますね。結果的には、若干自爆したわけですが(3Loの軸がゆがんでステッピングアプト)、4T-3T-3Loという異次元ジャンプをオリンピックの舞台で跳んでくるんですから、まぁすごい度胸というかなんというか。あ、ちなみに、4-3-3を競技で成功させているのはフィギュア史上プルシェンコだけで、それも数えるほどじゃないでしょうかね。※2007年にケヴィン・レイノルズが成功させてるようです。すみません。
ジャンプもすごいですが、全編、執念が服着て滑ってるって感じですね。SP4位で自力優勝が無いシチュエーションですが、なんでしょう、この諦めの悪さは……。あちこち荒い部分もありますが、気迫と闘志で強引に持ってってる感じ。


こういうギリギリの局面でのバチバチした緊張感、今は無いですからね~。どいつもこいつも守りに入りやがって…・・・(と、年寄りの愚痴みたくなる)。

それにしても、ソルトレイクの時は、男子メダリストは全員4回転を複数回跳んで、コンビネーションは4-3以上だったんだなぁ(遠い目)。3位のティモシー・ゲーブルも美しい4回転ジャンパーでございましたよ。
なんとも良い時代というか、恐ろしい時代でありました。

なーんて、昔の映像をいろいろ見ててつくづく思いましたけどさ、やっぱりですね、4回転をショート、フリー通して1回も跳ばず、しかも3Aですら真央ちゃんに負けてる男子金メダリストってどーなのよ?とそこに戻るわけですよ。
真央ちゃんは、3A-2Tのコンボを2回と単独の3Aをキレイに降りてますけどさー、以下自粛。
あ、でもこれだけは言わせてください。3Aが最高難度のジャンプ構成であれば、せめてせめて3A-3くらいはトライして欲しかったな、男子なら。

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2010年3月 7日 (日)

フィギュア雑感

近年、仕事以外でこんなに怒り心頭に達したことってあっただろうか???
なんのことかって、フィギュアですよ。
別にここ数週間のことではなくてですね、私は年単位でずーーーーーっと怒ってるんですけどね。
やっと落ち着いて文章が書けるくらいには頭が冷えてきましたが、気持ちがおさまることはないでしょう。

「彼らがフィギュアを殺した夜」とは、カナダのオリンピック銀メダリストのエルヴィス・ストイコ氏のコラム(The night they killed figure skating)のタイトル(和訳は個人のブログ様がアップして下さってますので、興味のある方はお探し下さい)ですが、実際、「彼ら」は完膚なまでに、しかもご丁寧に2回きっちり殺したわけです(あ、ペアとかアイスダンスは見てないので、ことによったらもっと回数が増えるのかも?)。
今回のオリンピックでは、「スポーツとしてのフィギュア」には、文字通り引導が渡されたのではないかと思います。

ただし、基本的には、選手に罪があるとは(さほど)思っていません。どの選手だって、勝つために、順位を上げるために、自分のやれること、やるべきことを精一杯頑張っているんでしょうから。

問題はルール、ジャッジ、採点方法等々、要するにシステム自体にあります。ストイコ氏いうところの、「彼ら」ですね。

現行のルール・採点方法は、大技(男子は4回転、女子は3回転半)潰しの傾向が強いですが、私は「凡人が天才に勝つためのシステム」であると解釈しています。もっとはっきりいえば、「大技を持たない凡人を天才に勝たせるためのシステム」であると。

男子の4回転(クワド)だの、女子の3回転半(トリプルアクセル)だの、いわゆる大技は、色んなリスクが伴います。転倒はもちろんですが、着氷が乱れたり回転不足になり易く、いざ回転不足と判断されたら苛烈な減点が待っています。どのくらい苛烈かって、これはもう、最初からトライしない方がマシってくらいに点数を引かれます。もう皆さんご存知かもしれませんが、例えば3回転半が回転不足判定を受けて減点された時の点数は、たとえ回転不足が肉眼では判断がつかないような微細なものであっても、普通に2回転半(ダブルアクセル)を跳んだ時の得点よりもずっと低いのです。はっきりいって、体力を消耗するだけ損って話です。そして、仮に成功したとしても、リスクに見合うだけの十分な加点(GOE)を得ることは至難の業です(少なくともバンクーバーでは、浅田選手の3アクセルはそれぞれ0.8、0.6、0.2と、1点も加点が付かなかった)。一方で、ジュニアの選手、いや小学生でもできるような2回転半なんかに山モリの加点を与えたりします。
最初から2回転半をかっちり跳べば易しいジャンプだからキズ無く跳べて、かなりのGOEがもらえるかもしれない。でも3回転半に挑戦したら、GOEがつくどころか、些細なキズで通常の2回転半分のスコアすら望めないかもしれない。これでは、大勢の選手がより安全な方に流れるのも無理はないでしょう。

そして、このGOEがクセモノすぎます。もちろん、ジャンプ(スピン、ステップもですが)の質の良し悪しを云々するのは良いでしょう。転倒した、ステップアウトした、着氷でぐらついた等々で減点っていうのも正しい。でも、いくら質が良いからといって、GOEを気前良く2点もふるまっていたら、元の基礎点の意味が崩壊してしまいます。一応、ジャンプの基礎点って難易度に応じて細かく点数が振られてるんですが、GOEでいくらでも点数が上下するので、難易度なんて今やほとんど意味がないのでは?という状況になっています。

基礎点   前半 後半
2アクセル 3.50 3.85
3トウループ 4.00 4.40
3サルコウ 4.50 4.95
3ループ 5.00 5.50
3フリップ 5.50 6.05
3ルッツ 6.00 6.60
3アクセル 8.20 9.02
4トウループ 9.80 10.78
(以下略)

まずは、誰でも跳べる2アクセルで見てみましょう。2アクセルにGOEが2点がついたら、跳んだのが前半であれば3フリップと同等のスコア。後半に飛ぶとご褒美で基礎点が上がるので、GOEが2点つけば5.85、ほとんどの3回転ジャンプを跳ぶよりもお得に点数を稼げます。
3ルッツの場合、例えば、後半に跳んで2点のGOEが付けば8.60で、基礎点8.20の3アクセルを逆転してしまいます。同様に、3アクセルに加点がいっぱい付けば4トウループを逆転し得るわけですね。女子の場合は3回転と3アクセルの間、男子の場合、3アクセルと4回転の間には、難易度的にはほとんど別次元ってくらい差があるといいますが、GOEというマジックによって、スコア的には異次元ワープが可能になってしまっているのです(そもそも高難度ジャンプの基礎点自体が低い、という問題もありますが)。

バンクーバーのショートで浅田選手とキム選手に5点近く点差が開いた時に、最初私は演技構成点(PCS)のせいか?と思ったのですが、実際はこのGOE部分が大きかったのでした。


あれ、長いな。
まだ全然書きたい部分に到達していないような気がするのだけれど……。

気が向いたら続きます。

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