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2010年3月16日 (火)

フィギュア雑感4

フィギュアネタ、いつまで続くかって感じですが、まだ続きます。
もーいいだろってくらい時間がたってしまってますが、コレをいいたいがためにフィギュア雑感、だったんで最後まで叫ばせてください。。。
そうじゃないと、私も前に進めんのよ。

いやー、私は本当に本当にショックでした。
つーか、いまだにショックです。
よもや、宇宙人・皇帝・絶対王者のプルシェンコが(大きなミスも無いのに)、4回転を1回も跳ばない選手に負ける日が来ようとは、夢にも思いませんでしたよ。
私は非国民なので、高橋大輔君の4回転転倒も、織田君の靴紐事件も、そして真央ちゃんが負けたことすら、(胸は痛みましたが)実はたいしてショックではなかったのですよね。まぁそういうこともある、くらいにとらえていたというか。
でも、今回のプルシェンコの一件については、本当になんていったら良いのか、、、私の理解を超えていました。

別に、プルシェンコのファンだからプルシェンコが負けるのは受け入れられない、とかそういうことではありません。
納得のいく負け方だったら全然構わないのですよ。
プルシェンコだって正視に耐えられない演技をしたことがあるし、特に不敗信仰があるわけでもありません。

そもそも、競技お休み中の時に、アイスショーかなんかの動画を何回か見ましたけど、(ケガのせいもあるでしょうが)あまりの緩みっぷりに、こりゃー復帰は絶対無理だろう、アマチュアをナメんな、とまで思ってましたからね。正直、私はプルシェンコの五輪2連覇なんて、露ほども信じておりませんでしたよ。2009年の秋までは。

実際は、ナメてたのは私の方でして、宇宙人プルシェンコは腐っても宇宙人プルシェンコだったのでした。
まぁ、全盛期に比べて「ちょっと人間になったな……」という印象を受けたのは否定しませんが、グランプリシリーズではロシア・ロステレコム杯でぶっちぎりの優勝を果たし、古傷の膝を故障しつつもロシア国内選手権を制し、1月の欧州選手権も完勝。
特筆すべきは、今季全てのショートとフリーの両方で、4T-3Tと3Aをおりていること。特に4T-3Tはオリンピックも含めて一回の失敗も無く、文字通り百発百中、完璧な精度だったといって良いでしょう。満身創痍でだましだまし、のはずなのに、転倒も回転不足もステッピングアウトもお手つきもすっぽ抜けもエッジエラーも無し(バケモノ過ぎる……)。
そして、おそらくは膝に負担がかかるであろうスピンなんかも、ちゃんとレベル3、4をもらっていましたし、ステップもほぼ同様です。PSCの「つなぎ」の点数はやや低めではあったけれど、あの豪快な演技にチマチマした「つなぎ」なんて必要なのか?逆にスケールダウンになるのでは?とすら思わせたのは、やはり貫禄の4T-3Tあったればこそ、でしょう。
誰が言い始めたか分かりませんが、「男は黙って4回転」って言い得て妙だよなぁ、、、としみじみ感じさせてくれた今季のプルシェンコだったのでした。

だから、1月、欧州選手権が終わった段階では、高橋大輔君に4回転が戻ればガチンコでプルシェンコとの金争いになるだろうなぁ、とか、ジェレミー・アボットがノーミスでくればアボット対プルシェンコかもなぁ(今季のアボットは4回転の入った、素晴らしく芸術的なプログラムだったので)、、、とか、今にして思えば幸せな予想をしていたのですよね。もちろん、プルシェンコがコケれば大混戦だろう、とも思ってはいましたが、実はこの頃には、2連覇はかたいかも、などと思っていたのですよね。

さて、オリンピックの蓋が開いてみれば、SPが終わった段階で、プルシェンコは90.85でトップ。2位のライサチェクは90.30、3位の大輔君は、90.25でした。このお三方はノーミスで、ほぼ団子状態。
SPプロトコル
最初は喜んでいたんですよね、高橋君が良い位置に付けた!って。
でも、よく考えてみたら、これ、大分おかしくないか?

プルシェンコ:ジャンプ構成は4T-3T、3A、3Lz、スピンはレベル4×2、ステップはレベル3×2。
ライサチェク:ジャンプ構成は3Lz-3T、3A、3F、スピンはレベル4×2、ステップはレベル4と3。
高橋大輔君:ジャンプ構成は3F-3T、3A、3Lz、スピンはレベル4×2、ステップはレベル4と3。

3回転の中ではルッツの難易度が高い。だから、ぱっと要素を見比べた場合、順番的にはなんとなくこれで妥当な気がします。
でも、プルシェンコのジャンプ構成は別格。4T-3T、3A、3Lzという組み合わせで、今も昔もこれ以上のジャンプ構成はほぼあり得ない(あとはもう、4回転の種類を別の難しいものに変えるか、コンビネーションのセカンドジャンプを3Loにするしかない)という最高難度の異次元ジャンプをもってきて、GOEもちゃんと付きました。
でも、最終的なSPの結果は、2位、3位とコンマ以下の差しか付かない超僅差。
プルシェンコの場合、ステップのレベルが他の2人よりも若干劣るっていうのは確かにあったんですが、それを考慮しても、3点くらいは点差が付いても誰も文句はいわなかったんじゃないかなぁ。
この辺が、PCSマジックだったな、と思うのですよね(ジャンプで劣る分をPCSで救済してしまうというアレだ)。
私は高橋大輔君のことは大好きだし、応援もしてきたし、彼のスケーティングスキルの素晴らしさは言うに及ばず、ステップのクオリティやダンスのセンスを含めた芸術性についても間違いなく世界一だと思っているので、PCSが高く出ることについては全く異論がありません。ただ、それがここまで、ジャンプ構成の圧倒的なレベルの違いをチャラにできるものになってしまっては、やはりマズイのではないかと思うのですよね。しかも、ライサチェクのPCSはといえば、大輔君よりも高いのですよね~~~。あり得ん。

……まぁ、2人の点数が不当に高いというよりも、むしろプルシェンコの点数の出方が押さえられた、というべきなのかもしれません。その辺は、私がどうのこうのいうよりも、こちらを読んでいただく方が早いです。
田村明子さんの記事「プルシェンコの連覇を妨害した!?米国人ジャッジ、疑惑のEメール。~五輪でのロビー活動の真実~」
田村明子さんは長くフィギュアの取材をされてきたジャーナリストで、フィギュアへの愛情も深く、表の事情・裏の事情にかなり踏み込みつつも、フェアでバランス感覚の取れた記事を書く方ではないかとお見受けしています。ジャッジについても、そりゃぁいろいろあるけれど安易に非難するべきではない、というスタンスで、いたずらに採点に関して批判めいたことを書くようなことをする方ではないように思います。それでも今回の一件については「プルシェンコは、完全に北米勢にはめられたのだという印象だけは、私はどうしても拭うことができなかった。」と書いているのですよね(まぁこの記事のメインは採点に関するアレコレとは若干話が違うのですが、ハメられた挙句のあの点数だったわけで)。
この手の話は、別に珍しいことではないのかもしれない、とは思います。フィギュアに政治が必要である、ということも、別に今に始まったことではないでしょうし。
ただ、現実にプルシェンコにとっては大変アウェーな状況であったことは間違いがないだろうし、SPの点数もかなり低めに出たのは確かなんだろうな、とは思います(この辺は、プルシェンコ本人も抗議していている部分です)。

フリーの日のプルシェンコが決してベストの状態ではなかったことは、否定できません。おそらく、かなり不調だったのでしょう、ジャンプの着氷に乱れがあったし、若干精彩を欠いてもいました(体調不良だったのか、最終滑走のせいか、はたまたSPの点差の無さがメンタルに影響したのか、その辺は分かりませんが。あるいは全部だったかも)。
もし、プルシェンコがあの日万全で、誰からも文句のつけようのない完璧な演技をしていたら、どんなロビー活動があったにせよ、問題なく優勝していたかもしれない、とも思います。
そういう意味では、プルシェンコのフリーの演技は、ぐうの音が出ないほどの圧倒的な演技ではなかったし、最終的には、2人のPCSは同スコアで、スピンとステップのレベル認定とGOEの部分で明暗が分かれたな、という感じ。仮にプルシェンコが勝っても異論は出たかもしれない、と思わないではありません。
FSプロトコル

それでも、私はこの結果には理不尽さを感じます。
ショートとフリーで2回の4T-3Tをきれいに降りて、他のジャンプも転倒やDG等の大きなミスは無く、スピンやステップもレベル3と4を得てて、ダンスの才能は言うに及ばず、きちんと自分の世界観を作っていた(最後のストレートラインステップなんか、足だけではなく腕と頭の動きの見事さはさすがにプルシェンコでしたよ、本当)。それでも最高難度のジャンプが3A-2Tで、しかもそれにGOEでマイナスが付いた選手に負けるって、それは果たしてスポーツとして正しい姿なのだろうか、と。
※プルシェンコは子供の頃に、ダンス教師だかバレエ教師(確かマリインスキーの教師ではなかったかなー)とスケート教師との間で取り合いになったとか。確かに彼はバレエダンサーになっても一流になれたであろうと、私は思います。それくらい、ダンスの才能や音楽性は並外れたものがあると思うのですが、最近はどうもジャンプだけ、という誤解をされているような気がして、きわめて心外です。

百歩譲って、FSは、高難度だけどキズがあったプルシェンコと、難易度を下げて完成度を上げたライサチェクが拮抗した、といえるかもしれない。だけど、SPはテクニカルな要素をきっちりこなすという意味合いが強いはずだし、そうであればSPでこそきちんと点差を付けるべきであったと思うのですよね(タラソワさんなんかも、プルシェンコはSPの点差で逃げ切って勝てる勝負であった、みたいな言い方をしている)。

ついでにいえば、ジャッジ抽選運もあっただろうなぁ。最終的にここまで僅差(1.31点差)だと、抽選次第で順位が変わったかもなぁ、最後は結局くじ引きかよ、、、などと思うと本当に脱力過ぎる顛末です。


私はライサチェクが4回転を回避したこと自体については、正しい選択だったと思うのですよね。彼は今まで4回転で散々回転不足を取られてきたし、順位を一つでも上げるには4回転回避は必須であったろうと思います。なので、そのこと自体を非難しようとは思いません。

でもそれとルール・ジャッジングの問題は全く別です。

今回のオリンピックで、ジャッジは、高難度の技に挑戦するのは無意味であると、はっきりと審判を下してしまいました。
(タラソワさんではありませんが)より高く、より速く、より強い者が勝つ、という、ごくごくシンプルなスポーツの真理を、完成度と芸術性の名の元に否定するフィギュアスケートとは、一体なんなのでしょうか。
この際だから言わせてもらいますが、芸術そのものであるバレエだって、30年前、20年前と比べたら技術レベルは相当に進化しています。特に天才が一人現れれば(ギエムとかね)、技術的なスタンダードの有り様がガラっと変わることだってあります。昔はギエムみたいに180度の高さまで足を上げる人はいなかったけれど、今は別に珍しくもないし、グラン・フェッテだって昔はシングル×32回転で十分だったんでしょうけれど、今やダブルやトリプルを入れるのは当たり前、下手すれば4回転もありでしょう。バレエですらそうだというのに、スポーツであるところフィギュアが、進化を(意図的に)やめて良い理由はどこにも見当たりません。

「4回転は、3回転の延長戦上にあるものではない。あれはまったく別な次元のもの。別なレベルのものなのです」とは、プルシェンコのコーチで、ウルマノフ、ヤグディンなどを育てたアレクセイ・ミーシンの言葉ですが、天から特別な才能を授かったスケーターが、血を吐くような努力と度重なるケガの末に習得する4回転が、地上から姿を消す日もそう遠くないのではないか、、、そんな危惧を抱く今日この頃です。

ISU(国際スケート連盟)は、先人たちが積み上げてきたものを、そして現役の選手が高みを目指そうとするその精神を、何故、そんなに躍起になって否定しようとするのでしょうか?
私には全く理解できません。

オマケ。
私がプルシェンコのことを尊敬してやまないのは、一つには、その天上知らずのチャレンジ精神ゆえなんですよね。人類で最初で最後かもしれない4T-3T-3Loのコンボもそうなんですが、プルシェンコという人は、文字通り前人未到の地を、誰も見たことがない風景を見せてくれるのですよ。
こちら、驚愕の3A-4Tの映像(まぁ4Tは完全に回転不足ですが)。

感心を通り越して呆れ果てました。あんた膝が悪いくせに、一体何をやらかしとるんだ……。3Aのコンボのセカンドジャンプ、オリンピックでは上位選手はみんな2回転だったよな~(意外と6位以下の選手の方が3回転つけてましたが)。4回転なんか、助走スピードMAXで跳べるかどうか、という世界だろうに、セカンドジャンプにつけるって発想自体がもう非常識すぎる。。。

まぁ、天才プルシェンコだって、楽々とこの手のことをやっているわけではないのですよね。事実、こんなことを練習していたせいで古傷の膝を痛めて、昨年末はかなり深刻な状況だったとも聞いています。
でも、それでも目の前に山があったらのぼりたくなるんでしょうね。真のアスリートとはそういうものなんじゃないでしょうか。

とはいうものの、プルシェンコさんの場合は、チャレンジ精神はほどほどにして欲しい、というのが、私の正直な気持ちだったりもします。くれぐれも、4T-4Tとか4Lzを跳ぶとか無茶をいわずに、ソチまで体を大事にしてください。お願い。

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