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2010年5月17日 (月)

クリスチャン・ツィメルマン ピアノ・リサイタル 2010年 日本公演 よこすか芸術劇場

クリスチャン・ツィメルマン ピアノ・リサイタル 2010年 日本公演 よこすか芸術劇場

プログラム
ショパン:ノクターン第5番 嬰ヘ長調 Op.15-2
ショパン:ピアノ・ソナタ第2番 変ロ短調 Op.35 「葬送」 
ショパン:スケルツォ第2番 変ロ短調 Op.31
休憩
ショパン:ピアノ・ソナタ 第3番 ロ短調 Op.58 
ショパン:舟歌 嬰ヘ長調 Op.60

アンコール無し。


武蔵野に引き続き、2公演目の横須賀に行ってきました。
武蔵野ではピアノ直下でしたが、この日はもう少し距離があったので(それでも近かったけど)、少し客観的に聴けたような気がします。

ノクターンop.15-2は、今回のプログラム中、いわゆる技術的な聴かせ所が一番少ない曲ですが、いやぁ、本当に上手いなぁと。
装飾音ひとつとっても、あんなに豊かかつ微妙なニュアンスが出せるものなんですね。
半音階下降のところの、入りのタイミングやキュッとスピードをあげるところとか(しかもウナコルダふんでるんじゃなかろうか)、本当に心憎いです。
月光よりはもう少し明るい光が、刻々と表情を変えていくような繊細さと、凛としたたたずまいを感じさせる演奏。
とにかく絶品です。


そしてソナタ2番。きたきたきた、超名演、きました!

本当にぶっちゃけちゃいますが、私は2006年にソナタの2番を聴いた時に、これを超える2番はもう一生聴けないだろうって思ったのですよね。
なので、今回、2番については感動できなかったらどうしよう、、、という懸念も無いわけでは無かったし、実際、武蔵野では「やりたいことはわかるような気がするけど、私はやっぱり2006年の方が好きだなぁ」とチラと思ってしまった。
この辺は演奏の良し悪しというよりは、思い入れの問題なんだと思うのですが。

そんなこんなで横須賀2公演目。
武蔵野は初日のせいか、ミスも多く、なんとなく弾きにくいのかな?と思わせる部分があったりしたのですが、この日はいろいろな歯車が上手くバチっとかみ合ったような印象で、非常に完成度の高い演奏でした。
ピアノの音、高音部の響きなんかも前回よりも良いように感じました。

いやー、本当に泣くかと思った。。。
2006年の2番再び、ということではなくて、2010年バージョンの2番に感動を新たにした、という感じ。
2006年の演奏は非常に鋭利な印象を受けたのですが、今回はより骨太な演奏といえるでしょうか。
まずは、1楽章の疾走感と、重量感溢れる表現が圧倒的。
葬送行進曲の荘厳で重々しい空気感は、まるで「死」そのものを目の前にしているかのようであるし、中間部の天国的な、在りし日のことを思い出して祈りを捧げるような演奏との対比には、もう言葉を失わんばかり、でした。
3楽章の最後はだんだんデクレッシェンドしていくのですが、ここも本当に見事で、葬列が去っていく情景が見えるようでした。
4楽章は葬列が去った後の、無人の墓場に風が吹き荒れる、という感じで、これまた映像が浮かびました。
3番はともかく、2番をここまで有無を言わせぬ説得力を持って弾き切るというのはものすごいことではないかと思うのですよね。。。

スケルツォ2番は、体育会系パワーと、ある程度の技術があれば「聴かせる」ことができてしまう曲だと思うのですが、ツィメルマンの演奏は、男性的なパワー、重厚さ、疾走するスピード感に加え、細かいタッチやフレージング、アーティキュレーションにいたるまでとことん考え抜かれていて、目からうろこがボロボロ落ちましたー。
しかも、その練り上げの部分が全然恣意的に響かないのが凄いところではないかと。
とかなんとか冷静に書いておりますが、後半の大爆発にただただ圧倒された、というのが正直なところだったりします。。。


ここで前半が終了し、この段階で今日はものすごいコンサートになるのではないかという予感がビシバシとしたのですよね。
2公演目にして、今回のツアーのベストを聴いちゃうことになったら、どうしてくれよう、、、みたいな。


後半の3番。
3番の完成形、というよりも、なんだかピアノという楽器の域を超えているような印象すら受けました。
ピアノの粋を極めたような演奏を聴きながら、ついつい、「表現したいこと、ピアノで足りてる?足りてる?ああ~、指揮に行かないでくれ~」などと思ってしまった。。。
1楽章だけでもお腹いっぱいになるくらい、充実した演奏です。
2楽章のスケルツォらしい軽やかさも良い。
そして、なんといっても、3楽章がすばらしかったです。
緊張感が途切れることなく、甘くもなり過ぎず、それでいてどこか夢幻的で。
瞑想的で、遠い日々を懐かしむような、美しい歌。
わずかに諦念のようなものも感じさせるのが、なんというか、大人のショパンであるよなぁと。
最終楽章は、勇壮かつ情熱的で、最後まで推進力を失わない見事なフィナーレでありました。


なんかもう、これで終わりでも良いやって気分もあったりして、「舟歌」をオマケ的に聴いてしまったバチあたりな私。。。

それにしても、ショパンのソナタ2曲、いずれも名曲中の名曲ですが、その内容をここまで余すところなく伝えきるには、一体どれだけの練習と勉強、そして音楽以外の経験が必要なんでしょうか。
演奏とは人となりである、そして演奏家の人生そのものを映し出す鏡でもある、ということをつくづくと思い知らされたコンサートでありました。


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Pianist: Krystian Zimerman」カテゴリの記事

コメント

こんにちは♪
わー超名演をツアー2日目にして聴いちゃったんですね!聴けただけでもいいじゃな~いと思いますが、出来る事ならしり上がりに良い演奏になった方が気分も盛り上がるでしょうね
>「表現したいこと、ピアノで足りてる?足りてる?ああ~、指揮に行かないでくれ~」などと思ってしまった。。。
わかります、その気持ち!でもきっと指揮には行かないと思います。ピアノが大好きだから~。指揮に行くならもっと早く行ってたような気がします(ベートーヴェンの弾き振りの頃に)。
お忙しい所、びわ湖では運良くお目にかかれて良かったです
良いリサイタルだったと思うのですが、私、細かい所が思い出せなくて
青猫さんの記事、楽しみにしていま~す♪

投稿: petit viola | 2010年5月18日 (火) 21:07

青猫さん、こんばんは。そして、お久しぶりです。ちょくちょく、こちらにはおじゃまして、フィギュアスケートについてのコメントに関心していました。本当にすごいですね。私もフィギュアスケートのファンです。
 さてさて、本題に。私も横須賀に行ってきました。私は、今年初めてのツィメ様のコンサートだったので、冷静ではなかったかも。本当に青猫さんのコンサートレビューはまさにその通り。ノクターンは音色の美しさを聴いているうちに終わってしまいました。はー。そして、お客さんも最後の音が消えるまで拍手を待っていたのには感心しました。ソナタの2番。葬送の列が近づいて、そして去ってゆく。深く重く、ここで、本当に泣きそうになりました。スケルツォに、ぐいっと気持ちをつかまれ、感動。完璧というか、すべてを表現しているように満足感が・・・。ソナタの3番。音楽があふれ、とても丁寧に歌われ、心が伝わるようで、感動と共に涙が。一人でぐしゅぐしゅしていましたら、ななめ前の席の方も。こんなにすごいコンサートは久しぶり。こんなに心動かす演奏をするピアニストはなかなかいないです。青猫さんもおっしゃるくらいのよいコンサートに行くことができてよかった。また、いろいろ情報を教えてください。

投稿: ふくしまpeach | 2010年5月18日 (火) 22:16

尊敬する青猫さんが、びわ湖ホール、しかも、近くに居やはったとはっ!
私は、「悟りが欲しい。」と、禅寺で、茶道を学んでおります。
が、いまだに、煩悩だらけです。
コンサートの度に、ツィメルマンさんは、見えへん「ほうき」と「雑巾」を持って、
ちりで曇った私の心を、きっきと、磨いてくれはります。
次は、倉敷と、西宮に座禅(コンサート)しに行きます。

投稿: たま | 2010年5月20日 (木) 13:36

はじめまして。
サインとか貰えるんですか?

投稿: 茜 | 2010年5月20日 (木) 19:34

petit viola さん

先日はお世話になりました。
ありがとうございました。
久しぶりにお会いできて、大変嬉しかったです。
関西の皆様にもお目にかかれて、とーっても楽しかったです。

ツィメルマンさんもいつ調子が良いのか、なかなか読めないので(笑)、これはもう、マメに行くしかないのか、、、などと馬鹿なことを考えている今日この頃です。

ええ、ええ、私もあの方は一生ピアニストなんだろうと思います。
でも、あの方の音楽的な才能というのは、ピアノに納まり切らないものなのではないのか、、、なんて風にも思うのですよね。

びわ湖、私も細かいところが思い出せません。
ううう。
こういう記憶力ってどうやって鍛えれば良いんでしょうねぇ。。。

投稿: 青猫 | 2010年5月20日 (木) 23:59

ふくしまpeach さん

お久しぶりです♪

フィギュアスケートの記事、読んでくださったのですね~。
コメントいただけて嬉しいです(一人で怨念を撒き散らしてる気分だったので……)。

よこすかは、座った場所も良かったのかもしれませんが、とても良かったです。

あのマナーチラシ、見た時は「マナーの悪い人は、大体こんな注意書き見ないだろうから、こんなの配ってもあまり意味無いんじゃ・・・」なんて思いましたけれど、結構効き目があったのかもしれませんね。
ツィメルマンの極小のピアニッシモが消え入る様をちゃんと聴けて、とても良かったです。

ソナタは本当に素晴らしい解釈で、楽譜を見ながらちゃんと聴いてみたい、などとも思います。ここがすごいあそこが良い等々、色々細かいことは言えると思うのですけれど、全ての部分が全体に対してきちんと機能をしていて、一つ一つ意味を持っているようで、、、さすがの説得力でした。

演奏って、ある意味水ものみたいなところがありますから、良いコンサートに当たると本当に幸せですね♪

投稿: 青猫 | 2010年5月21日 (金) 00:29

たまさん

尊敬するだなんて、、、好き放題書いててすみません。
びわ湖ホールでは、多分お近くを通りかかっているのではないかと思います。
ピアノの真下をウロウロしていましたし。

禅寺で茶道、良いですね~。
お茶、やってみたかったんですが、なかなか機会に恵まれず。。。

ツィメルマンさんは、色々考えさせてくれるピアニストで、音楽に限らず、日々勉強させてもらっているなぁって、感謝しています。

倉敷と西宮、楽しまれて下さいね。
私は行けませんので、遠くから、コンサートの成功をお祈りしています。

投稿: 青猫 | 2010年5月21日 (金) 00:39

茜さん

初めまして。
拙ブログにようこそ。

ロビーで行う、いわゆるサイン会のようなものは通常ありません。
ただ、サインが嫌い、とかそういうことは無いと思いますよ。
状況次第だと思います。

投稿: 青猫 | 2010年5月21日 (金) 00:45

青猫さん!はじめまして青森県に住んでいる中学2年生です。
私は札幌のコンサートに行ってきます。
ツィメルマンさんのピアノ早く聞きたいです。
またコメントしにきます

投稿: haru | 2010年5月21日 (金) 17:52

haru さん

こんばんは、初めまして。
コメントありがとうございます。
札幌のコンサートにいらっしゃるのですね。
中学2年生、お若いですね~。
お若いうちから、生の良い演奏にふれられるのは一生の財産になるのではないではないかと思います。どうぞ、楽しまれて下さいね。

投稿: 青猫 | 2010年5月22日 (土) 00:20

初めまして 青猫様
ツィメルマンに出会えたのはまだ半年前!
若い頃にマルタアルゲリヒを聴きに行って以来のクラシック初心者です。
きっかけは「のだめカンタービレ」ドラマを面白いからと、娘から勧められ見たDVDでした。
そこには素敵なクラシックの楽曲が沢山登場し紹介されていて
映画版でのだめが弾く、ショパンピアノ協奏曲をツィメルマン弾き振りを購入してから・・・ツィメ様にすっかり心奪われまして・・!
昨秋以来、ツィメルマンを一通り、連日!のように聴き、とうとうコンサート、30?年振り!!横須賀に参りました!
そのパワフル且つ繊細な演奏に、正直圧倒され、両腕を広げて満面の笑みで投げキスをして下さった・・・。
まさに音楽の神様ではないかと思える程、音と姿にオーラが・・・一杯で!!
ただただ感激しております。
青猫様のレビュー等で今後とも勉強してゆきたいと思います。
どうぞ よろしく。。

投稿: keito | 2010年5月22日 (土) 21:10

keito さん

はじめまして。
コメントありがとうございます。

アルゲリチを聴かれたことがあるなんて羨ましい!です。

のだめのドラマ版&映画版、良かったですね。
楽曲の挿入のし方が非常に優れていたように思います(音楽担当の方、良いお仕事をされていらっしゃいますね)。
映画版のショパンのP協奏曲は、ランランが吹き替えで、とても豪華でしたね。
ツィメルマンの演奏はランランとは全く違いますし、弾き振り盤は好みが分かれるような気もしますけれど、気に入られたとのことで、とても嬉しいです♪
ツィメルマンのショパンのP協奏曲は、どの録音も甲乙つけがたく素晴らしいですね。

ファンになりたてで行く一発目のコンサート、嬉しいような怖いような、本当にドキドキワクワクですよね。
ツィメルマンの演奏は、スケールが大きくて、繊細で、まさに巨匠の風格たっぷりでしたね。
投げキスも素敵でした。
本当に素敵なジェントルマンでいらっしゃいます♪

今後ともどうぞよろしくお願いします。


投稿: 青猫 | 2010年5月22日 (土) 23:37

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