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2013年12月14日 (土)

内田光子ピアノ・リサイタル

内田光子ピアノ・リサイタル
2013年11月3日(日・祝) 19:00 開演  サントリーホール

<プログラム>
モーツァルト: ピアノ・ソナタ ヘ長調 K332
モーツァルト: アダージョ ロ短調 K540
シューマン: ピアノ・ソナタ第2番 ト短調 op. 22
シューベルト: ピアノ・ソナタ ト長調 D894

アンコール
J.S.バッハ:フランス組曲第5番よりサラバンド

光子さんのコンサートは、いつも私が行くコンサートとはちょっと客層が違いますなぁ。
ピアノ好きが集結するというよりも、もう少し幅がある感じというか。
皆さんの身なりも総じて良くて華やかな雰囲気ですね。
この日は皇后陛下もご臨席でした。

さて、前半はモーツァルトとシューマン。
一曲目はクリスプなモーツァルト。
明晰であると同時にたおやかな印象もあり、よくコントロールされた疾走感も備えた集中度の高い演奏でした。
アダージョK540は、冒頭の極小のピアニシモに続く抑制のきいた表現には緊張感が漂い、能を連想してしまいました。
音もなく動いていく、お能のすり足のような音楽、というとちょっと変でしょうかね。
ところどころで抑制し切れない感情がこぼれ出てくるようなところもあり、昏い情感が見え隠れする様は、どこかモノローグのようでもありました。
シューマンのソナタ第2番は、作曲家の分裂気味の、何ものかに引き裂かれているかのような精神が浮き彫りに。
なんだかハリネズミの七転八倒みたいだなぁと。
ハリネズミが暴れると非常にはた迷惑であろうと思うんですけど、、自分だけじゃなくて他者も傷つけるような、そんな精神の有り様が見えるような演奏だったと思います。
あるいは、方向の定まらない乗り物に乗っているような、実に不穏な音楽。
一楽章は焦燥に満ちていて、まるで坂道を転がり落ちるかのようでもあり、はっきりいって聴いててシンドイ感じでしたが、二楽章は一転して夢のようなたゆたいや水面を静かに進むような美しさがありました。
三楽章は諧謔の中にどこか人を不安にさせるようなところも。
四楽章の急と緩の分裂っぷりと、冒頭からいきなりクライマックス状態だったのに、後半、ラストに向けてまだテンションあげるの?!という巻き具合はシューマンの真骨頂だったのではないかと思います。
シューマンの音楽は、精神が肉体という檻から離れようとして、そこにいかんともしがたい葛藤や齟齬が生まれる、あるいは軋みが生じる、そんな風にも聞こえました。
はー、シューマンはなかなかくたびれますね。
まぁ、シューマンに関しては精神的にくたびれる演奏=良い演奏なんだろうと思いますが。

後半のシューベルトの幻想ソナタD894は、ただただ至福の時間でした。
胸がいっぱいで言葉にならない。
何というシューベルトなんでしょう。
冒頭からじんわり目頭が熱くなり、うるうる状態が最後まで続きました。
永遠に終わらないで欲しい、と真剣に思ったのは久しぶり。

シューマンの音楽が、肉体に対する精神やイマジネーションの超越を感じさせるのに対し、シューベルトの音楽は、もちろんファンタジーの飛翔というのはあるのだけれど、両手を広げた範囲内に収まるような雰囲気があり、むしろ作曲家の身体性みたいなものを意識させるような気がいたしました。
シューベルトの音楽を天上的という人もいるし、もちろんそう思う瞬間は多々あるんだけど、本質的には身の丈サイズの、非常に人間的な音楽ではないかと。
それでいて、どこか悟りの世界のようでもあり。
こういう、温もりのある聖性を帯びる音楽は、内田さんにことの他合っているのだと思いました。

アンコールのバッハもそれはもう繊細を極めた演奏で素晴らしかったです。

ルプーに続き、良いシューベルトを聴けて幸せ。
年を取ったのか、最近シューベルトを聴いてしみじみすることが多くなってきました。
まぁそれも良し。

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