アンデルシェフスキ in バッハ祭り
2014年9月5日(金)11:00~ ケーテン城、J.S.バッハ・ホール
<プログラム>
J. S. Bach
Englische Suite Nr. I A-Dur BWV 806
J. S. Bach
Englische Suite Nr. VI d-Moll BWV 811
Ludwig van Beethoven
Sonate für Klavier Nr. 31 As-Dur op. 110
Robert Schumann
Novellette fis-Moll op. 21/VII
Köthener Bachfesttage 公式HP
夏休みに、どうにかしてどこかでピオトルさんのリサイタルを聴けないものか、、、と検討した結果、ケーテンなる地で行われるバッハ音楽祭のリサイタルに照準をロックオンしたのが6月のこと(エディンバラ、オールドバラはお盆中にて断念。飛行機高過ぎ)。
その時は休みが取れるのかとか仕事大丈夫かとか色々不透明でしたが、無事夏休みをゲットし、行って参りました。
当初、ケーテンどこそれ美味しい?みたいな状態でしたが、まぁ何とかなるものです。
チケットはネットで取れ、交通(電車)の便もさほど悪くなく。
ただ、サイトは全部ドイツ語だし、音楽祭なので街中の教会等含め会場がいくつかあるわけですが、サイトに地図も載ってないし、詳細がよく分からん状態で現地へGo。
とりあえず会場に行けばすぐ分かるかと思っていましたが、結構分かりませんでしたヨ…。
まぁそれでも何とかかんとかホールに辿り着きました。
意外なことに日本人多数でして、どうやらツアーでいらしていたようですが、そこかしこから日本語が聞こえてきました。
小さなホールでしたが、満席ではなく。
客層は年配の人が多かったですかね、やっぱり。
前半はイギリス組曲1番、6番。
英1、以前聴いた時には可憐って思いましたが、今回は楽器のせいもあるかもですが、割と重めの印象。
冒頭からペダルの使い方がとにかく印象的でした。
長く踏んで響かせる部分と、ノンペダルの部分とのコントラストも効果的でしたが、音の質感の変化もものすごくよく考えられており、まぁとにかくペダリングの上手さが際立った演奏でした。
ペダルが結構長いところがあるんですが、(混濁してもおかしくないくらい)長く踏む必然性がきちんとある、と思わせるのですよね。
ダンパー・ペダル、ソフト・ペダルともに、ぴおとるさんのバッハ演奏におけるペダルの意味みたいなものを強く意識させる1番だったと思います。
あと、カツゼツが良い、というのはいうまでも無いのですが、アーティキュレーションが極めて明瞭で、どこでフレーズを区切るのか、どこからどこまでを塊として捉えるのか、という意思がはっきり伝わってくるし、対位法の横のラインが見事に浮き上がってくる様は、これぞバッハの醍醐味だなとしみじみ感心いたしましたよ。
そして、左手と右手という分け方ではなく、あくまでも旋律・フレーズ単位でタッチや音色が劇的に異なっているのは、本当に名人芸ではないかと思います。
楽譜をきちんと追いかけないと、左手と右手がどこでどう切り替わっているのか、よく分からないのではないかな。
続く英6がもうもう凄かった~!
鬼のような英6キターーー!!と大喜びしてしまいました。
ピアノさえ良ければ、マイベストだったかも?
2011年のサントリーの方が人を殺せそうな壮絶さがありましたが、この日の演奏も少し方向性は違えども素晴らしかったです。
集中度、緊張度が高くて、ジーグの骨身削ってます、という雰囲気は相変わらずでしたが、聴いてて辛い、あるいはシンドくなる感じではなく。
アグレッシブに畳みかける対位法の粋、という趣で押せ押せの演奏でしたが、絶妙にバランスが良くもあり、なんだか次元が違うなこれは、と思うなど。
うーん、やっぱりこれは円熟なのかなぁ(単にその日の調子という気もしますが)。
同じことをやっても本人のキャパ(器)が大きくなると、違って聞こえる、みたいな話なのかしら。
会場も盛り上がり、前半だけで3回呼び出しがありました。
あ、ピアノはフルコンではありませんでした。
音がちょっと鈍いというか、やや太めでもっさり気味だったような。
低音がぼやけている印象もあったのですが、まぁでも、最大限良い音で鳴っていたと思います。
前後半ともに、ppは相変わらずどこから鳴っているのか不可解な、異次元の響きで、ffは特に左、低音は相当強めに出していて、垂直的な鳴りでしたが、そういう弾き方をすることで音の輪郭の甘さを削ぐような感じだったように思います。
後半、シューマンのノヴェレッテop.21の8番。
前回(シンガポール)より大分好印象でした。
非常にユニークな解釈の角(かど)はキープしたまま、より洗練、精錬した感じでしょうか。
ガシャガシャした感じは落ち着きましたが、解釈自体は大胆さは失わず、でした。
曲が手の内に入って技術的にもこなれたのか、スケールの大きさも感じられ、確信的に自分の解釈を提示していて、自由でのびのびやりたい放題、といった感も。
自由で伸びやかではあるけれど、一方では、ここまで自分の解釈を模索・追究し、己にとってあるべき曲の姿を突き詰めるのは孤独だよな、とも。
スケールという点から言えば、会場とピアノのサイズに比して音楽のガラが大きい、とも感じました(そういう意味ではちょっと勿体無かったな)。
曲想のうねりや、場面転換のコントラストが強く、左手の轟音も凄まじいインパクトでした。
かなりオトコマエな演奏で、その分、軽み、洒脱といった要素はあまり無かったかな。
ぴおとるさんのピアノって基本文系だと思いますが、結構男っぽいよね実は、と改めて思いましたよ。
マッチョではない男っぽさがあるというか、頭の良いアスリートみたいな感じというか。
最近音量も増えたように思うし、繊細と剛胆が見事な対比、あるいは不思議な調和を見せながら同居してますね。
ベトソナ31は深遠な、完結した小宇宙。
文句のつけようが無い演奏、とはこのことか、と。
ひとつひとつの音に、フレーズに説得力がみなぎり、聞こえてくる音楽をただただ受け入れるのみ。
ベトソナ、またかって思った私をお許し下さい・・・・・・。
ベトソナを聴くと、いい年の取り方をしているなーとしみじみ思います。
アンコールはバガテルから3曲(シンガポールと同じ)。
もう言葉がありませんでしたよ。
今まで遠征したぴおとるさん関係のコンサートの中では(って大してしてないけど)ベスト・コンサートといって良いと思います。
もう満足仕切ってしまい、来たばかりだけれど明日日本に帰っても良いわって本気で思ってしまいました。
私の隣のご婦人(たぶんすごくぴおとるさんのことを好きなのだと思われる)は英6の後はブラヴォーを叫び、ノベレッテが終わった時には吹き出し、ベトソナの後は涙を拭っていました。
ええ、すっごいよく分かります、その気持ち。
笑うよね、あのノベレッテ。
悪い意味、馬鹿にするのではなくて、あーもうよーやるわ・・・って呆れて失笑する感じ?
あのユニークさと、我が道をとことん邁進する様、ある種の不器用さが愛おしくてついつい笑ってしまいます。
でも本当に、解釈に媚びや妥協がなくて、意志が強くて、個性的ですね、ホント。
2月の日本の2つのリサイタルがとても楽しみです。
さらにパワーアップして、元気に来日してくださることをお祈りいたします。
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コメント
はじめまして。
私は8月のエジンバラのリサイタルでノベレッテを聴いたのですが、演奏終了後、
後ろの席から拍手とともに「は、は、は」という笑い声が。。。
なんというか、やはり、悪い意味ではなく、「よくやった、あっぱれ」っていう感じでしょうか。
私自身はまったくの予習不足と、おとるさんのリサイタルが初、ということもあって
音に聴き入るだけでせいいっぱい。ノベレッテは「嵐のようだった」という印象でした。
(とっても初心者な感想ですみません)
2月のリサイタルが待ち遠しいですね。
投稿: ぴよ | 2014年10月17日 (金) 21:20
ぴよさん、初めまして。
コメントありがとうございます。
エディンバラにいらっしゃったのですね!(羨)
ノベレッテ、嵐のよう、ええ、そうですね、ゴンゴン弾く部分もあり、骨太な演奏でしたね。
ノベレッテ一曲だけでも、かなり重量級だったように思います。
エディンバラでも笑いが起きていましたかー。
単にパワーで押して観客を圧倒するのともまたちょっと違った演奏なのですよね。
ちょっと想定外なところがあるというか、予想外のモノを聴かされて、でも説得力はすごくある(説得されちゃう)という、何ともいわくいい難い面白さでしょうか。
2月、元気に来日して欲しいですね(祝、シューマン幻想曲!)。
投稿: 青猫 | 2014年10月19日 (日) 23:13