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2017年11月17日 (金)

ハンブルク・バレエ ニジンスキー 2017年10月13日(金)@バーデン・バーデン

先月、バーデン・バーデンまで、ハンブルク・バレエのニジンスキーを見に行ってきました。
(これがあったので、10月が結構ハードスケジュールでした…)

タイトル・ロールのニジンスキーは、ファーストキャストがアレクサンドル・リアブコ(サーシャ)。
サーシャさん、マイ・フェイバリット・ダンサーで、とにかくサーシャでニジンスキーを見たい!と思いつめ、バーデン・バーデン・ツアーの3公演目がけて遠征とあいなりました。
10/13(金)、10/14(土)、10/15(日)の3公演のうち、サーシャは初日と楽日に主演で、サーシャ・ニジンスキーで2回見られて幸せ~でした。
(キャストが出たのは直前で、大体2週間前だったので、大分ヤキモキさせられましたが、無事見られて良かった良かった)

いや、来年2月にハンブルク・バレエがニジンスキーをひっさげて来日するのは重々承知しているんですが、どうもその時期の仕事状況が怪しくてですね、行けるかどうか微妙な雲行きなんですよね。
まぁ、近場でやってても行けないというのはままあることなので、ナマモノは行ける時に行ける所で見る、というのが私の基本モットー。
ここは腹をくくって、えいや!と行ってきました。

会場はバーデン・バーデンの祝祭劇場(Festspielhaus)。
Festspielhaus HP

Dscf9331_r

10/13のキャスト表。
Dscf9332_r

ナマモノは、当日のキャスト表を見るまで安心できませんが、いやー、サーシャがちゃんと載っていて本当にほっとしましたよ。。。

<キャスト>
ニジンスキー:アレクサンドル・リアブコ
ロモラ・ニジンスキー:カロリーナ・アグエロ
ディアギレフ:イヴァン・ウルバン
ブロニスラヴァ・ニジンスカ:パトリシア・フリッツァ
スタニスラフ・ニジンスキー:アレイシュ・マルティネス
タマラ・カルサーヴィナ:シルヴィア・アッツォーニ

ニジンスキー(道化、薔薇の精):アレクサンドル・トルシュ
ニジンスキー(金の奴隷、牧神):Marc Jubete
ニジンスキー(ペトルーシュカ):Konstantin Tselikov


ストーリー(NBS ハンブルク・バレエ ニジンスキーより引用)---
1919年1月19日、スイス、サンモリッツのスヴレッタ・ハウス・ホテルのホールで行われた、稀代の天才ヴァスラフ・ニジンスキーの最後の公演。
舞台はニジンスキー自身が「神との結婚」と呼んだその公演から始まり、いつしか彼の記憶と幻影の中へと分け入っていきます。
20世紀のはじめ、東方ロシアからやってきて、ヨーロッパの芸術界と社交界をあっという間に魅了した伝説の〈バレエ・リュス〉。
その花形スターだったニジンスキーが人々を熱狂させた「シェエラザード」「ばらの精」、彼の革新的な創作の才能をあらわにした「牧神の午後」「遊戯」……。
第1幕は、ニジンスキーの分身たち、あるいはニジンスキー自身がこれら伝説の作品の断片を見せながら、バレエ・リュス時代の創造的で華やかで波乱に満ちた彼の人生が巧みに重ねられ、語られていきます。
第2幕は〈バレエ・リュス〉を追われたニジンスキーに、第一次世界大戦の恐怖が押し寄せるさまが描かれます。
ニジンスキーの鋭敏な神経はさまざまな幻影を生み出し、ついには兵士たちと、ニジンスキーが演じたキャラクターたち──黄金の奴隷やばらの精、ペトルーシュカらが共に踊り狂う壮絶な「戦争」のダンスに発展。混とんとして悲愴なニジンスキーの心の世界へと観る者を飲み込んでいきます。
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Img_7183_r

開演前にピアニストさんが舞台の上でずっと曲を弾いてます。
練習してますって感じの演奏(写真は開演前)。
最初はずっとシューマンで(曲は色々)、そのうちショパンになります。

ニジンスキーは、既存の曲を組み合わせて使用していますが、使用楽曲は以下の通り。
バーデンバーデンは生演奏ではなく、録音でした。

ショパンの「前奏曲ハ短調」
シューマンの「ウィーンの謝肉祭と道化」
リムスキー=コルサコフ 交響組曲「シェエラザード」
ショスタコーヴィチ 「ヴィオラとピアノのためのソナタ」第3楽章
ドミートリ・ショスタコーヴィチ 「交響曲第11番」(副題「1905年」)

細かくはもうちょっとあるんですが(開演前に弾いてる曲とか、シェエラザードやショスタコの楽章の演奏順とか)、大体こんな感じです。


序幕、ニジンスキーが最後に踊ったスプレッタ・ハウスのシーンから始まります。

物語の冒頭でショパンが入るのは(開演前もピアニストが弾いてる)、ニジンスキーがポーランド系だということを示唆しているのかなと思います。
シューマンは、ニジンスキーも狂気(統合失調症)の淵に沈んだ芸術家という共通項ゆえのチョイスなのかな、、、と。

ニジンスキーが踊るショパンの前奏曲は、世界にたった一人で立つ天才の孤独と絶望の叫びのように見えました。
シューマンの「ウィーンの謝肉祭の道化」は、一転して躁的で明るいけれど、いつ壊れるか分からない危うさが垣間見えます。
この2曲がニジンスキーのキャラクターを強烈に印象付け、これから始まる物語を暗示しています。

もうサーシャはですね、いくら褒めても褒めきれない感じで、、、上手い凄い痛々しい上手い凄い痛々しい(以下エンドレス)みたいな感じでしたよ。
天才の狂気がテーマの「ニジンスキー」、凄絶という言葉がこれほど似合う作品も無いと思いますが、サーシャは、「うわ、ここに北島マヤがいる…」と思わせる徹底した没入っぷりで、何かが憑依しているかのようでした。
もう、サーシャ以外のニジンスキーが想像できない、というか、受け入れられそうにない。。。

イヴァンのディアギレフは、さすがの存在感でした。
良いだろうと思っていましたが、期待通り!いや期待以上にダンディでカッコいい~(というか、実際のディアギレフとは似ても似つかない男前っぷりで、こんなにカッコ良くしちゃって良いのかコレ、、、とちょっと思った)。

ニジンスキー、ロモラ、ディアギレフ、三者の関係性がこの作品の一つの軸だと思いますが、そこにニジンスキーが演じた役(金の奴隷、牧神など)がさまざまに交錯していきます。
ニジンスキーとディアギレフより、ニジンスキーとロモラの方がより愛憎劇の色合いが強いような印象でした。

兄スタニスラフのアレシュ(マルティネス)はハマり役でした。
アレシュ、最近は随分顔が大人になったなーと思っていたら、ザ・少年!でした。
躍りが上手いのはもちろんなんだけれど、何かを突き刺すような鋭さとパワーがあって、無垢と狂気のコントラストが鮮烈でした。
ローザンヌ・バレエ・コンクールで課題曲にもなっているヴァリエーション、この作品の一つの見どころにもなっていました。

そして、やはり後半の「春の祭典」のシーンが圧巻でした。
ノイマイヤーのガラでも見ていますが、全幕で見ると前後の繋がりが良く分かって、兄スタニスラフからの流れも実に見事だと思わせます。
とにもかくにも、このシーンはショスタコの交響曲11番がドンピシャですね。
ハルサイの振付や衣裳は、ニジンスキーが振り付けたものとは全然違いますが、ちょっとベジャールっぽいのかな、ショスタコの音楽とも違和感がありません。
ハルサイといえばもちろんストラヴィンスキーなんですが、いやもうこっちの曲(ショスタコ)で良いんじゃないかと思ってしまうほど、完璧な「もう一つのハルサイ」になっていました。
第一次大戦と重ね合わされているのも、説得力があります。

ハルサイのシーンの、舞台袖から(本作中は舞台上の椅子の上から)カウントするニジンスキーがもう、悲痛そのもので痛々しい。
実際のハルサイ初演時の実際のエピソードをもとにしたシーンですが、ダンサー=他人に声が届かない、すなわち世界と自分のいる層がズレている、ということを暗示しているのだろうと思いました。

最後はスヴレッタ・ハウスに戻り、ニジンスキーが最後に踊った「戦争」で終わります。
壊れかかったニジンスキーが、人前で踊るために、僅かにに残る正気をかき集めて、自らの全てを出し尽くし、その結果狂気の縁に沈んでいった、とも見えなくもない終幕。
ニジンスキーの狂気に満ちた手記は、これの直後に書き始まるという事実が何とも胸に迫ります。


サーシャはじめ、ダンサーももちろん素晴らしかったんですが、作品の力に圧倒されました。
ニジンスキーは本当に名作だと思います。
ニジンスキーという人についての知識はある程度あった方が良いと思いますし、バレエ・リュスの引用が多いので、バレエ・リュスの演目をある程度見ていることが必要だろうと思いますが、予習をしっかりして挑む価値のある作品です。
とにかく楽曲の選曲が良いし(ノイマイヤーの作品では、椿姫と双璧ではないかしら)、構成、舞台美術も素晴らしいです。
人間の深部に迫る作品でもあり、演劇が好きな人なんかが見ても面白いだろうと思います。


なお、ハンブルク・バレエのニジンスキー、今年の5月のハンブルク公演がNHKプレミアムシアターで放映されます(!!!)ので、皆さま是非ご覧ください。
サーシャでニジンスキーの映像を残してくれまいかノイマイヤー先生、、、と思い続けてン年でしたが、ついに念願が叶いました。。。(感涙)

全力でお勧めします。


11月20日(月)【11月19日(日)深夜】午前1時00分~
◇本日の番組紹介
◇ハンブルク・バレエ『ニジンスキー』
【5.1サラウンド】

◇ハンブルク・バレエ「ニジンスキー」(1:02:30~3:18:00)
<演 目>
バレエ「ニジンスキー」(全2幕)
音楽:前奏曲 ハ短調 作品28 第20 ショパン 作曲
ウィーンの謝肉祭の道化 シューマン 作曲
交響組曲「シェエラザード」から リムスキー・コルサコフ 作曲
ビオラ・ソナタ 作品147から ショスタコーヴィチ 作曲
交響曲 第11番 ト短調 作品103「1905年」 ショスタコーヴィチ 作曲
振付・照明・舞台美術・衣装:ジョン・ノイマイヤー

<出 演>
ヴァーツラフ・ニジンスキー:アレクサンドル・リアブコ
ロモラ・ニジンスキー(ヴァーツラフの妻):カロリーナ・アグエロ
ブロニスラヴァ・ニジンスカ(ヴァーツラフの妹):パトリシア・フリッツァ
スタニスラフ・ニジンスキー(ヴァーツラフの兄):アレイズ・マルティネス
セルゲイ・ディアギレフ(興行師):イヴァン・ウルバン
エレオノーラ・ベレーダ(ヴァーツラフの母):アンナ・ラウデール
トーマス・ニジンスキー(ヴァーツラフの父):カーステン・ユング
タマーラ・カルサヴィナ(バレエダンサー):シルヴィア・アッツォーニ
レオニード・マシーン(若いダンサー):ヤコポ・ベルーシ ほか
ハンブルク・バレエ団

収録:2017年5月25・27日 ハンブルク国立歌劇場(ドイツ)

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