カテゴリー「Pianist: Alexander Romanovsky」の7件の記事

2013年5月20日 (月)

[浜離宮ピアノ・セレクション]アレクサンダー・ロマノフスキー

アレクサンダー・ロマノフスキー
2013年5月14日(火)19時開演 浜離宮朝日ホール
<曲目>
J.S.バッハ:幻想曲とフーガ イ短調 BWV.904
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 第14番 嬰ハ短調「月光」op.27-2
ショパン:24の前奏曲 op.28
アンコール
①スクリャービン:12のエチュードop.8-2
②スクリャービン:エチュードop.8-12
③ショパン:ノクターン第20番嬰ハ短調
④J.S.バッハ/ユシュケヴィチ:管弦楽組曲第2番より“バディネリ”


今回、予習ゼロだったのでざっくり感想にて失礼。
浜離宮、実は初めて行きました。
小ぶりのシューボックスでした。

よく弾き込んで得意な曲ばかりなんだろうなぁと思った前のプログラムから一転し、今回のリサイタルではCDやネットラジオの中継などでも聴いたことのない曲ばかり並びました。
全体的な印象としては、ホールサイズ(552席)よりも、相当にガタイの良い演奏であったように思います。
よく響くホールということもあり、色々な意味でやや飽和気味だったかしらん。
決してサロン風の文弱な演奏ではなく、これはむしろ大ホール向きではないか、とすら思わせるスケールの大きい演奏で、かといってマッチョというわけでもなく、というくらいのバランスであったと思います。

さてバッハ。
最初の一音から音色の堂々たる輝かしさに耳を奪われます。
ホールの音響特性故か、輪郭が不明瞭に流れて聞こえる部分もあったように思われ、個人的にはちょっとインパクトに欠けたような印象も。
ロマノフスキーはプログラムの土台としてバッハを提示したい旨発言していましたが、であれば、もう少しガッツリとした構築感があっても良かったような気がします。
ただ、曲自体の持つ美しさは十二分にわってきたと思うので、一曲目としては重すぎず、良かったのかもしれません。

続く月光一楽章ではぐっと抑えた音色を繰り出し、大理石のような趣。
基本、キラキラしい音色の持ち主だと思いますが、抑制をきかせるべきところはきちんと抑制をきかせ、深い音色を聴かせてくれます。
月光二楽章はどちらかというと老成した雰囲気で、軽妙さや可憐さとは無縁の、ややウェットめな世界観。
もっと可憐な雰囲気の方が好き、という向きもありましょう(まぁこの辺は好き好きというか)。
三楽章は打って変わってスピードに乗った演奏で、二楽章との対比を明瞭に打ち出した感じでしょうか。
端正さやかっちりした構築感よりも年齢なりの若々しさを感じさせる演奏で、疾風のように駆け抜ける様にはカタルシスがありました。

後半はショパンの前奏曲全曲。
24曲もあるので、多少バラツキがあるかなぁという印象を受けました。
短調の、斬ったはった系の押せ押せの曲は総じて良かったと思いますが、曲によってはもう少し繊細さやデリカシーが欲しいというか、もう少し違った表情を見せられるんじゃないかなぁなどと思ったりもしました。
この辺は好みの範疇ですが、ショパンにしては少し骨太過ぎるようなところがあるかなぁと。
とはいえ、基本的にはエレガントさを失わない人なので、強奏しても乱暴にならないところは美点だろうと思います。
リズム感やアーティキュレーション、フレージングに不自然なところは無く、ポーランド人以外が弾くショパンとしては個人的には許容範囲かなぁ(すみません、基本的にロシア系ピアニズムのショパンが苦手なもので……)。

大盤振る舞いのアンコールを聴いていて思ったのですが、アンコールはおそらく気に入ってずっと弾き続けている曲ばかりで、おそらく完璧に手の内に入っているのだろうなと。
なので、基本的に余裕がある(もちろん難易度的なこともあるでしょうけれど)。
それはもう色々な側面が見えるというか、深みもあるし可憐さもあって、飄々としたところすら感じられる。
とにかく、表現の引き出し、音色のヴァリエーションがとても多いのですね。
翻って、ショパンの前奏曲はというと、まぁロウな状態であったのだろうなぁと思うわけです。
これはあくまでも想像ですけど、彼はきっとちゃっちゃと器用に曲を仕上げるタイプではなくて、熟成に時間を要するのではないでしょうかね。
ある意味不器用なのかもしれないけれど、私はこういう不器用さは好ましく思います。
ぱっと小奇麗にまとめてしまう人よりも、要領悪く、ある程度時間をかけてみじみじと積み上げていくタイプの方が、最終的には異次元の演奏を聞かせてくれるのではなかろうかと。
実際のところ、アンコールのショパンのノクターンは、ネトラジ、実演等で何回も聴いているけど、今日の演奏が一番しみじみした風情があって良かったと思います。

終演後は、どうしようかなと思ったのですが、結局サインをいただくことにしました。
そんなに人数が多くなかったということもあるでしょうけれど、流れ作業ではなく、しっかり目を見て丁寧に対応してくださいました。
写真よりもずっとキレイというか、姿が良いですね、本当。

今回、本編はロシア系はゼロでしたが、次はスクリャービンあたりを聴きたいものです。

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2011年10月 2日 (日)

Romanovsky opent 25-jarig jubileum Meesterpianisten

Romanovsky opent 25-jarig jubileum Meesterpianisten

Sunday, 25 September 2011 8:15 PM
Concertgebouw: Grotezaal

Alexander Romanovsky (piano)

J. Haydn Sonate in Es, Hob.XVI: 52
Brahms Variaties in a op een thema van Paganini, op. 35

Rachmaninoff Etude-tableau in c, op. 39 nr. 1
Rachmaninoff Etude-tableaux in g, op. 33 nr. 8
Rachmaninoff Etude-tableau in fis, op. 39 nr. 3
Rachmaninoff Etude-tableau in b, op. 39 nr. 4
Rachmaninoff Etude-tableau in es, op. 39 nr. 5
Rachmaninoff Etude tableau in es, op. 33 nr. 6
Rachmaninoff Etude-tableau in D, op. 39 nr. 9
Rachmaninoff Tweede sonate in bes, op. 36


このブログだけを見ている方にとっては藪から棒な話なんですが、わたくし、アムステルダムのコンセルトヘボウまで、アレクサンダー・ロマノフスキーのリサイタルを聴きに行ってきました。

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このリサイタル、ロマノフスキーのコンセルトヘボウ・デビュー・リサイタルにして、Meesterpianistenシリーズ2011/2012シーズン・Meesterpianisten25周年のオープニングという、なんだかとってもめでたい感じのコンサートだったようです。
そして、行く前は「憧れのコンセルトヘボウ(大ホール)でロマノフスキーだわ~、あ、コンセルトヘボウ・デビューよね」ってくらいの認識だったのですが、蓋を開けてみたら、このMeesterpianisten、超名ピアニストが名を連ねるシリーズのようで(プログラムに今までの登場ピアニストが列挙してあるのですが、まぁ豪華なこと。今シーズンだけでも、ブロンフマン、ポリーニ、キーシン、ヴォロドス、ソコロフ、ルプー、ペライア、ツィメルマン等が毎月かわるがわる登場する)、本当に大きな舞台へのデビューだったのね、、、とホロリとしてしまいました。

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さて、初めてコンセルトヘボウの中に入りましたが、赤絨毯に赤い椅子、オフホワイトを基調とした内装で、ゴージャスだけれどゴテゴテはしておらず、適度にモダンな雰囲気のある、とても素敵な空間でした。ステージが結構高い、というのは、行く前に写真で見て分かっていましたが、実際、やっぱり高かったです。平土間は傾斜も(多分ほとんど)無いので、1階席でピアノはどうかな~と思い、2階席をチョイスしました。

ホールに入って、2階からステージを見下ろすと、あれれれ、ステージ上にもぐるりと補助席が置かれてるじゃありませんか。

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私がチケットを買った時(7月)はガラガラで、座席も選びたい放題だったので、ちょっと心配になってしまったものですが、なんだー、席埋まってるんだ…(ほっ)。
果たして開演時間にはほぼ満席になり、ホールはむぎゅうっとした空気に満たされました。
ステージを見ると脇にドアなど無く、はて、ロマノフスキーさんはどっから現れるんだろう…と思っていたら、ステージ右後方、お客さんも使う普通のドアから入ってきて、階段をぽてりぽてりと降りてきて、ちょっと意表を突かれました。

遠目なのであまりよく見えませんでしたが、きちんとホワイトタイに燕尾服を着こんでいて、まぁそういうタイプなんだろうね(今時珍しいというか生真面目というか)と思いましたが、またそれがよく似合ってましてねー。本当、どこぞの大公か伯爵ですって言われたら信じてしまうんじゃなかろうか。

前半はチャイコン一次でも演奏したハイドンのソナタとブラームスのパガニーニの主題による28の変奏曲。
ハイドンは、チャイコンの時よりも元気がよく、のびのびしていて快活。それはもう恐ろしいくらい指が回りまくってて、とてもノって弾いているのが伝わってきます。まるで音の一つ一つに羽でも生えているかのようでした。そして、一々感心してしまうほど鮮やかな指さばきなのですが、上手さが決して嫌味に響かず、とてもエレガントで端正な印象です。

コンセルトヘボウは世界でも指折りの音響の素晴らしさをうたわれていますが、ピアノには響きが芳醇過ぎるというか、まぁ要するに豊かに響き過ぎるのではないかという印象を持ちましたが(オケで聴いたらそりゃぁ素晴らしいでしょうが)、あの響きで音がダンゴにならず、個々の音の粒が明晰に届いてくるのは、さすがの打鍵の精度の高さ。

さて、次のブラームスになると、ハイドンの典雅さとは打って変わって、豪華絢爛、きらんきらんした響きが耳を打ちます。ああ、ロマン派の音だわぁ。
それでもって、最初から全開モード、トップギアに入って、(緩やかな曲想であっても)一瞬たりともダレたり緩んだりすることがありません。変奏曲ってややもすれば聴き手を飽きさせてしまうものだと思うのですが、ロマノフスキーは聴く人を自分の音楽の世界にしっかりと引き込んで離さないのですね。見事な集中力と体力、膂力といったところでしょうか。
いやー、若いって良いなーって本気で感心してしまいました。

前髪が乱れるほどの(ってチャイコン実況をTwitterで追いかけてた人にしか分からないネタですが、彼は前髪を結構しっかり固めてるそうなんです)熱演に、前半が終わった段階で、もんのすごい拍手が沸き起こりました。ホールの音響が良い分、拍手の聴こえ方もゴージャスで、どわぁぁぁんっっって感じに響きます。
そして、なんと、会場総スタンディングオベーション。前半の段階で総スタオベなんて初めてです、私……。
コンセルトヘボウのお客さんは特別熱いのでしょうか?

後半は、十八番であろうラフマニノフ。
「音の絵」は、基本的にはCDを出しているop.39が中心ですが、間にop.33-8とop.33-6を挿入していて、少し変化をつけたという感じでしょうか。
そしてトリにソナタ第2番というがっつりプロ。

それにしても、私、今後ロマノフスキー以外の人のラフマニノフを聴けなくなるんじゃないかなぁ……。
不明瞭なところのない、大きな手で鍵盤を掴み切っているラフマニノフ。
具体な情景描写というよりも、「音の景色」ともいうべきものがぶわーっと眼前に広がり、耳(頭)の中を音の奔流が満たすこの感じ、クセになってしまいます。
ロマノフスキーの「歌」、すなわちフレージングや間の取り方に関しては、文字通り文句のつけようがない感じ。細部を云々する以前に、この曲はこういう曲なんですね、とストンと納得できてしまう。それを説得力というのだと思いますが。
非常にメロディアスで、音楽が停滞せず、見事なまでに「流れて」います。
アラベスク模様のように有機的で、緻密な流麗さの中にも、あたかも生き物のようなうねりや水面のような揺らめきがあります。

それにしても、この人こんなに上手かったんだっけ?と首をひねってしまうほどの、鬼のようなヴィルトゥオーゾっぷりでした。チャイコンの時ももちろん上手いとは思いましたけれど、ファイナリストの中で抜群にメカニックが強いというわけではなく(まー、あの時はレベルがすごく高かったんですけど)、押しても引いてもビクともしない超絶鉄壁系かというとそうではない、という印象だったのですが、いやいや、ものすごく上手いよ、この人。下手すると(?)、馬車馬・曲芸系ですよー。一見あの通りのスッとした細身の優男さんなんですが、フォルテ、一体どこまで出るのかしら...と笑ってしまうほどの豪腕っぷり。
コンセルトヘボウは大き目のホールなので、おそらくは強弱のレインジをかなりフォルテ寄りにしていたのではないか、とも思うのですが、CDやネットで聴いた時よりも大分線が太い印象でした。

そんなわけで、ソナタ2番の腰の入りようも尋常ではなく、大人のロマンチックかつ骨太ハンサム、いやハードボイルドか?と。
ラフマニノフはこうやって弾くんですよ、という演奏。本当に素晴らしかったです。

お客さんも大喜びで、万雷の拍手とはこのことか、というくらい盛り上がり、当然のように総スタオベでした。
アンコールはショパンの遺作のノクターンハ短調(涙)、ラフマニノフの前奏曲op.23-5(超カッコいい)、バッハのバディネリ(なんか可愛らしい)の3曲でした。
ロマノフスキーが弾き終って、引っ込んでまた出てくるたびに皆総立ちで、ブラヴォーに加えピューピュー口笛も飛び出る有様。
前半のスタオベの段階ですでにそういう雰囲気だったけれど、素晴らしい演奏に対する称賛というだけではなく、お客さんが皆で「ようこそ、コンセルトヘボウへ!われわれは心からあなたを受け入れますよ」と、若くて才能のあるピアニストを温かく迎え入れて、その前途を祝福しているかのようでありました。

ロマノフスキーはコンクールという「試合」には負けたかもしれないけれど(4位を負けたというのは語弊があるかもですが)、「勝負」にはこれからいくらでも勝つチャンスがある。こうやってひとつひとつコンサートを積み重ねていけば、全く心配することはないし、お客さんに愛される演奏家になっていくんだろうな、そんなことを確信をして、じんわりと温かく幸せな気持ちになりました。

私も、心からの祝福を送りたいと思います。
ロマノフスキーさん、素晴らしいコンセルトヘボウ・デビュー、本当に本当におめでとう!

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2011年8月 1日 (月)

ロマノフスキー祭り

チャイコンからこっち、ロマノフスキー祭り継続中なんですが、彼はもうすでにかなり立派にプロとして活躍していて、DECCAからもCDが出ちゃったりしています。
早速、お買い上げいたしました。

B002PW43U4Symphonic Etudes Op. 13-Variations on a Theme By P
Alexander Romanovsky
Pid 2009-11-03

by G-Tools
¥1,700

チャイコンの2次で弾いた、シューマンのシンフォニック・エチュードと、ブラームスのパガニーニの主題による変奏曲。
シューマン、スケールの大きな素晴らしい演奏です。


B002PW43TKEtudes Tableaux 33-Variations on a Theme of Corell
Alexander Romanovsky
Pid 2009-10-20

by G-Tools

¥1,700

ラフマニノフの「音の絵」。
こちらもチャイコンで弾いていましたが、このCDももんのすごく良いです。
ああ、ラフマニノフってこうやって弾くのね、「音の絵」ってこんなに魅力的な曲集だったのね、、、ともうひたすら溜息。
陰影豊かで芳醇、仄暗い哀しさも垣間見せる、夜の音楽ですね。
高貴で、どこか妖艶さも漂います。
録音当時、ロマノフスキーはたかだか23か4のはずなんですが、一体どういう苦労をすると、この若さでこういう音楽に辿り着くのでしょうか。。。
コレッリの変奏曲も収録。

個人的に激プッシュの1枚です。
間違いなく、今年のベスト5に入ることでしょう。


B004HARLC4Complete Concertos
A. Glazunov
Warner Classics 2011-04-11

by G-Tools

¥1,960

グラズノフのピアノ協奏曲他。
曲目がちょっとマイナーめでしょうかね。。。


B001UQMPYWMozart Ways Opening Night [DVD]
Domovideo 2008-12-15

by G-Tools

¥3,325

ロマノフスキーの映像もありました、ということでお買い上げ。
モーツァルトの3台ピアノのための協奏曲という珍しい曲に参加。


2011年合計:¥55,915

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2011年7月 6日 (水)

チャイコフスキー国際コンクール(ピアノ)2011 その5(宴の後)

チャイコン、結果が出まして、モスクワとサンクトペテルスブルクで行われた2回のガラコンサートも終了。

<ピアノ部門>
1st Prize, Gold Medal: Daniil Trifonov (Russia)
2nd Prize, Silver Medal: Yeol Eum Son (South Korea)

3rd Prize, Bronze Medal: Seong Jin Cho (South Korea)

4th Prize: Alexander Romanovsky (Ukraine)
5th Prize: Alexei Chernov (Russia)

1位は先のショパコン3位のダニール・トリフォノフで、総合グランプリも受賞ということで、文字通りの完全優勝でした。
セミファイナルのモーツァルト、ファイナルのチャイコフスキー、ショパンと3曲の協奏曲を全て高いレベルでそろえたのは見事。
牛車ですか?!というくらいずるずるのへっぽこオケを何とかしてしまったのも立派だった、というべきでしょう。
そういう意味では、チャイコでオケに底なし沼に引きずり込まれた感のあるロマノフスキーとは対照的でした(いやでも、あれは本当に酷かったんですよ、オケが…)。

さて、そのロマノフスキーさんですが、ラフマニノフの演奏が評価されて、先だって亡くなったピアニスト・クライネフ(スケートのタラソワさんのご夫君でもあった)の名を冠した特別賞を受賞したものの、順位自体は4位でした。
アナウンスされた時は私もびっくりして、思わず「え゛っ」と声をあげてしまったのですが、ちょっと予想外の結果。
もう一つ二つ上でも良かったのではないかな、というのは別にファンのひいき目ではなく、結構多くの方がそう感じたのではないかと思います(私の周りだけかなぁ)。
っていうか、ついつい、特別賞くれるくらいだったらむしろ順位上げて欲しいような、って思ってしまった。。。(もちろん、ラフマニノフを評価されたのはすごーく嬉しいのですが)

この順位、ファイナルのチャイコフスキーが良くなかったのが響いたか、メカニックや安定性に厳しい評価が下ったか、はたまた別の理由か……。
別の理由については、あるのかないのかも分かりませんが、確かに、チャイコンで優勝するには、押しても引いてもビクともしない堅牢さというものに欠けていたのかもしれません。
といっても、彼は別に「弾けない」わけでは全然無いですし、特にモーツァルトを隙無く、一切ごまかさず、完璧に弾きこなしてましたから、基礎のしっかりした、非常に高い技術の持ち主なんだと思うのですが(個人的には、真の意味で「上手い」人というのはモーツァルトやバッハをきちんと弾ける人のことだと思っているので、そういう意味ではロマノフスキーは文句無しの名手だと思っています)。
まぁ、鉄腕・剛腕・完ぺきな精度のヴィルトゥオーゾ、という類の演奏家ではない、と言われれば、否定できないのですが。。。
ロマノフスキーの本領は、メカニックよりも、音楽性、表現の方にあるんだろうと思います。
目を見張るような超絶技巧でみんなを圧倒するよりも、豊かな陰影と、貴族的な風格とエレガンス、そして哀しみを知る大人の抒情で、自然と聴く人の心を揺さぶる、そういう演奏をする人であるよなぁと。
彼の演奏、特に良い時の演奏については、コンクールの枠内で評価されるようなものではなくて、全然別の次元にあるように思うのですよね。

そんなわけで、4位、本人は不本意でしょうし、(私含め)不満な方も多い順位なのではないかと思いますけれど、実のところ、私はこの順位でもロマノフスキーの将来については全く心配をしていません。
大コンクールの優勝者として華々しくツアー、ということはないでしょうけれど、彼はコンサートピアニストとして着実に歩んでいくでしょうし、人柄、演奏ともに、聴衆に敬愛されるピアニストになるのではないかな。
実際、今回のコンクールでかなりのファンを獲得したんじゃないかと思いますし。

来日については、とりあえず2012年という情報もあることですし、地道に応援をしつつ、楽しみに待ちたいと思います。


相変わらず、2次の動画が公式に上がらないので、ファイナルのラフマニノフのピアノ協奏曲第3番をあげときます。


第1楽章。


第1楽章~第2楽章。


第3楽章。


それにしても、本当に、ラフマニノフらしいラフマニノフですね。
波が寄せては返すような、スケールの大きな演奏。
特に3楽章は、美しい駿馬が広大なロシアの自然の中を駆け抜けていくような風情。

それにしても、なんでこんなに胸が痛くなるんだろう……。
ああもう、切ないよう。

しばらくは、エンドレスリピートの予定です。

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2011年6月30日 (木)

チャイコフスキー国際コンクール(ピアノ)2011 その4(ロマノフスキー)

ロマノフスキーの本選2日目、昨日終了しました。

実をいえば、数日前の、本選初日のチャイコフスキーのピアノ協奏曲1番は、ちょっと本調子ではないのかな、という感じが無きにしもあらず、だったのでした。
あれれれ?というくらい細かなミスが散見されたのですよね。
長丁場のコンクールで疲労もたまっていたのだろうし、ロマノフスキーくらいの位置だとかなりプレッシャーはきつかろう、、、と、ついつい慮ってしまったような演奏。
まぁ実際、シンドかっただろうとは思うのですよね。
実力的に優勝は狙えるけれど、他を圧倒するというほどではない位置。
彼はウクライナ人だから、地元有利ということも無く(むしろ政治的には不利だろう、というのは私の完璧邪推ですが)。
そして演奏順は1番で、緊張感は半端無いだろうし、審査員の印象にも残りづらい。
しかも、オケが何ともひどくて、明らかにソリストの足を引っ張るレベルだったし。

オケに対抗したのか、はたまた全体的に力強さを優先したのか、かなり強奏気味で、ロマノフスキーならではの音の端正さや麗しさといったものが、少々損なわれていたようにも感じました。
まぁ配信の音質で判断することではないのですが。
何とか3楽章は上手く、というか強引に盛り上げて、なんとかなったかーという感じではありましたが。

正直、順位に欲目の出ている私としては、これはちょい微妙な演奏だな、と思ってしまいましたよ。。。

で、昨日のラフコン3番に至るわけですが。
チャイコン1番のできを思うと結構不安だったのですが、リハをのぞいてみたら思いのほか元気そうで、ちょっと安心。
そして、演奏はといえば、こちらの心を直に揺さぶるような、そして深い赤か紫のビロード地のようなテクスチャーの、非常に魅力的な3番だったのですよね。
おお、これは期待できるかも、とドキドキしながら迎えた本番の演奏はといえば、、、リハに輪をかけて素晴らしかったのでした。

とても落ち着いていて、スケールの大きな演奏。
リハよりも味付けはやや濃い目ながらも、重甘くなり過ぎなず、実に美麗なロマンティスズムの像を描き出していました。
古き良き時代の香気のようなものやエレガンスがあって、本当にうっとりさせられてしまいました。
豊饒さや悲哀、パッションが入れ替わり立ち代わり現れますが、深い哀しみが静かに底に横たわっていて、何かの拍子にそれが見え隠れするような、そんな風情もあり、何とも切ない、大人のラフマニノフであったなぁ、と。
あんなに涙が出そうになるラフコン3番は久々というか、初めてだったんじゃないかしら。。。

3楽章で目立つミスがあり、それが惜しかったといえば惜しかったのですが、ラストに向けてちゃんと挽回できたのではないでしょうか。

いや、本当に名演であったと思います。
コンクールでこんなに素敵なラフマニノフを聴けるなんて、何たる幸せ……。


順位については予測がつかないし、順位に拘るのもどうかと思う部分もあるのですが、やっぱり私はロマノフスキーに勝って欲しい、と切に思ってしまいました。
彼は本当に色々な意味で良いピアニストだと思うし、これからも成長できるピアニストだろうと思うのですよね。
まぁどんな結果でも、素晴らしいコンサートピアニストになれるだろうとも思うのですが。


ひとまずは、サーシャ、素晴らしい演奏をありがとう。
良い結果を、、、祈っています。

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チャイコフスキー国際コンクール2011(ピアノ) その2(ロマノフスキー)

なんか検索ワードがチャイコンばっかりになってますが、いよいよファイナルもあと1日を残すのみになりました。
なんかあっという間ですね。

さてさて、注目していたルビャンツェフですが、大方の予想に反してファイナルに進めず、私も本当にガッカリしていたんですが、えーと、あれっていつのことだったんだっけ…(遠い目)。
たかだか数日前の出来事だったはずなんですが、コンクールというのはスケジュールがタイトだし、次から次へと大量の演奏が押し寄せてくるしで、色々な物事があっという間に過去へ流れていってしまうのですが、ここいらで一息入れて落ち着こうかな、と。
というかむしろ、もう一人のサーシャ、ロマノフスキーが順当にファイナルまで残りまして、昨日、2曲の協奏曲を演奏し終えたばかりなので、なんだかすっかりチャイコン終了気分になってしまったのですよね。。。

とりあえず、あと1日残ってはいるのですが、結果が出る前に、復習を兼ねて感想をメモしておきます。


まずはロマノフスキーから。
復習、と言いつつ、ロマノフスキーの2次リサイタルはまだ公式アーカイヴにアップされていないのが難点なのですが。
彼は大変に素晴らしいシューマンのシンフォニック・エチュードと、ラフマニノフのソナタ2番を演奏したのですが、あろうことか、1次で落ちてしまったコンテスタント・ティムール・シェルバコフが、ロマノフスキーのカテコの最中にステージに飛び乗ってショパンのバラ4を弾き始める、という「事件」がありまして、、、映像の編集に難儀しているのではないかと予想しているのですが(頼むからお蔵に入れないで~~~!)。
特にラフマニノフのソナタは、非常にラフマニノフらしいラフマニノフで、クラス(格)を感じさせる名演だっただけに、何とかアップして欲しいのですが。。。
シューマンに関していえば、非常に立派な演奏で、ちょっと見通しが良過ぎるというか、シューマンである以上、少し危うさのようなものが欲しいかも?とちらと思ったりもしたのですが、非常に明晰さの光る名演でした。
ロマノフスキーって、非常に頭が良いのだと思うのですよね。
知性があって、しかも誠実に音楽を作り上げていくタイプ。
じゃぁ四角四面で地味かというと、全然そんなことはなくて、ものすごくセンスがあって、よく練られた音楽がキラっと光る瞬間があってすごく魅力的なのです。
2次の段階ですっかりファンモード入りました。

2次のリサイタルの後は、モーツァルトの協奏曲が課題になっていて、ここでもふるいにかけられるわけですが、私はロマノフスキーに関しては全然心配しておりませんでした。
あのラフマニノフで落ちるわけないじゃん、みたいな。
案の定、無事通過。

ロマノフスキーのモーツァルトの協奏曲はアーカイヴに上がっているし、Youtubeでも見られます。

落ち着いた、とても端正かつノーブルなモーツァルト。
驚きはあまりないのですが、何より音が美味しい。
珠を転がすような、綺麗な音の粒が連なっていくさまは本当に感動もの。
モーツァルトって技術的にごまかしが効かなくて、その人の基本的な技量というものを残酷なまでに映し出してしまうのですが、ロマノフスキーの演奏は一つ一つの打鍵のクオリティの高さが伝わるものでした。
溜息ものに上手かった。
カデンツァも品よく華やかでしたね。

どうでも良いですが、手の美しさにも溜息をついてしまった私・・・。

<2次プログラム>
Schumann—Symphonic Etudes, Op.13
Shchedrin—Concert Etude, “Tchaikovsky Etude”
Rachmaninoff—Piano Sonata No. 2 in B-flat minor, Op.36
Mozart—Concerto for Piano and Orchestra No. 23 in A major, K.488

まぁ落ちないだろうとは思っていましたが、彼は無事ファイナルへ。

問題はルビャンツェフだったのでした。。。

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2011年6月23日 (木)

チャイコフスキー国際コンクール2011(ピアノ) その1(2人のアレクサンダー)

ただいま、ロシアでチャイコフスキー国際コンクール(ピアノ、チェロ、声楽)が開催中です。
昨今の有名コンクールの例にもれず、予選からストリーミング中継が行われているので、私もピアノの第1次予選から(というかオープニングセレモニーから)ずーっとお付き合いをしております。
去年のショパンコンクールの時ほどではありませんが、絶賛寝不足中。
ワルシャワとモスクワだと、時差の関係でモスクワの方が若干楽ではあるのですが。

各種リンクをメモしておきます。

International Tchaikovsky Competition(公式HP)
動画配信
ラジオ(オルフェウス)
コンテスタント一覧(公式)

現在、1次(リサイタル)と2次の第1ステージ(リサイタル)が終了しており、23日(木)と24日(金)には、8人に絞られたコンテスタントによって2次第2ステージ(モーツァルトのピアノ協奏曲)の演奏が行われることになります。
スケジュールは以下の通り。

6月23日(木)
19:00 Alexander Romanovsky (Ukraine) アレクサンダー・ロマノフスキー
19:45 Sara Daneshpour (UAS) サラ・ダネシュプール
20:50 Filipp Kopachevskiy (Russia) フィリップ・コパチェフスキー
21:30 Alexander Lubyantsev (Russia) アレクサンダー・ルビャンツェフ

6月24日(金)
19:00 Seong Jin Cho (South Korea) チョ・ソンジン
19:45 Daniil Trifonov (Russia) ダニール・トリフォノフ
20:50 Yeol Eum Son (South Korea) ソン・ヨルム
21:30 Alexei Chernov (Russia)  アレクセイ・チェルノフ


今年は超ハイレベルなのか、1次を突破するだけでもかなりタフな印象がありました。
2次の第1ステージの段階で、残ったメンツはすでに相当な粒揃いというか猛者揃い。
もう技術的に上手いのは当たり前で、上手いというだけ野暮、みたいな。

そして、ロシアピアニズム強し、です。
技術が非常に堅固で、個性も強く、パワーもある。
モスクワ音楽院の学生さんが多数参加してらっしゃいましたが、こんなのがその辺にゴロゴロしてるのか~と戦慄を覚えるほど。。。

私が今回応援しているのは、アレクサンダー・ルビャンツェフとアレクサンダー・ロマノフスキーの二人。

ルビャンツェフ(プロフィール・演奏曲目(公式))は前回のチャイコンの1位無し3位なので、ご存じの方も多いでしょう(愛称ルビやん)。
マイミクさんに大のルビャンツェフファンの方がいまして、前から門前の小僧状態でチラチラ聴いてて、面白くて才能のある子だなぁとは思っていたのですが、今回、本当に脱帽することしきりです。
というか、すっかりファンになってしまいました。
鬼のように上手くて、とにかく天才肌、なのですよね。
一部では、「宇宙人」という声もあったりして。
センスがあるというか個性的というか、、、あっという間にルビャンツェフ・ワールドを生み出してしまうのですね。
万が一1次で落ちたりした日には、「あの子は天才よ!」って誰か暴れるんじゃなかろうか、、、そういうタイプだと思いますデス(あ、ちなみに、彼は2010年のショパンコンクールでなぜか予選落ちしまして、ファンを落胆というか驚愕させていましたが、その時には暴れてくれる人はいなかったのですね、きっと…)。
キャラクターも相当な不思議ちゃんで、見ててちょっとハラハラします。。。
今回、コンテスタントが自己紹介ビデオを各自作っているようなのですが、皆さん真面目にピアノの前で自己紹介、みたいなものが多い中、ルビやんのPVはナンジャコリャ、でしたよ(家族パーティー(しかも仮装有)の様子をダラダラ撮影、みたいな)。
あまりに異彩を放ち過ぎていて、私などは、審査員の先生方がポカーン→ドン引きして、これが原因で1次を突破できなかったらどーするんじゃ、と真面目に不安になってしまいました。
まぁ無事突破したから良いんですが…(映像配信のアーカイヴにあるので興味ある方はどうぞ~)。

と、変人ぶりを宣伝してばかりでもアレなんで、演奏もあげときますね。

1次で弾いたリストのメフィスト・ワルツ。
終盤、7分以降の追い込みとか、夜中に聴いててまじ大興奮でしたー。

こちらはドビュッシーの花火。
ファツィオリの響きが素晴らしいのですが、単に美しいだけではなくて、ちょっとぞっとさせるようなところもあったり無かったり。。。

まぁ、とにかく上手い、です。
指が無茶苦茶回るのはもちろんなんですが、ペダルのコントロールなんかも含めて、万遍なく上手い。
左手の強靭さなんかも特筆ものだと思うのですが、どれだけピアノを鳴らしても、ぼやけたり混濁したりしないのは本当に素晴らしい技術だと思います。


そして、もう一人のアレクサンダー君、ロマノフスキー(プロフィール・演奏曲目(公式))。
私、この人については2001年のブゾーニで優勝した時のCDというのもを持ってまして。
これがまた才気というかセンスの塊みたいな演奏で、どえらい17歳がいたもんだなぁって印象に残っていたのですよね。

コレ↓

B000076CVZBusoni Competition 2001 Winner Recital
Alexander Romanovsky
Divox 2011-02-22

by G-Tools

まぁCDの後、一生懸命追いかけるというほどではなかったのですが、今回、チャイコンで再会して、なんだか親戚のおばちゃん状態に入ってしまいました。
ロマノフスキーは現在26歳、コンテスタントの中ではベテランに近い年齢なんでしょうけれど、成熟した、そして品格のある演奏を披露しています。
知的でセンスがあって非常に明晰ながら、秀才的に小さくまとまることもなく、パワーもスケール感も十分。
音の粒の揃いっぷりは最高レベルで、音色は重すぎず軽すぎず、適度に密度があって、よく磨き上げられています。
派手すぎない輝きもあって、個人的にはもう文句のつけようがありません。。。
2次のラフマニノフのソナタ2番がすごかったなー。
高貴な紫色のラフマニノフでしたよ(早くアーカイヴに上がらないかな)。


この二人、ファイナルに行くと仮定して、両方ともラフマニノフの3番を弾くのですよ。
Wサーシャの、ラフマ3番対決。
なんか私的には、好きなピアニストがラフマ3番を競演という、鼻血が出そうに美味しいシチュエーションなんですが、気分的に、絶対に甲乙つけられない自信があります(どっちかが大コケすれば話は別ですが)。
はぁぁ、どうしたらいいんだろう。。。


あと注目が集まっているのは、先のショパコン3位のダニール・トリフォノフ、浜コン優勝のチョ・ソンジンあたりでしょうか。
というかですね、もうこの段階までくると、超ハイレベルなので、誰を聴いてもほぼハズレ無し、後はお好み次第、みたいな領域に入ってきますね。
2次の第2ステージは日本時間深夜枠なので少々きついのですが、頑張って聴きたいと思います。

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