最近とみに本業が忙しくて、とにかくまとまった文章を書く(頭を使う)気力がわきませんで、ブログ放置状態で失礼いたしました。
まぁもちろん、仕事だけしてるわけでは全くないんですが、明らかにオーバーワーク気味なのに、いつもと全く同じペースで遊ぼうとするから惨いことになるんですよね。。。
それはともかく。
日中寝不足っていうのは甚だしくマズイんですが、困ったことに、現在、第16回ショパン・コンクールが佳境なんでございますよ(佳境というか、今日の深夜が最終日)。
ショパン・コンクールはネットストリーミングで中継を見られ、またアーカイヴ機能もあるので、基本的に夜中に生中継を聴いて、聴けなかったものは昼間(か夜の中継の合間に)、聴き直す、ということが可能なんですね。
おかげで、コンクール期間、ひたっすらショパンを聴き続けておりました。
本選だけだったら10人ですから、協奏曲を10回聴けばすむんですが、予選からとなると、結構耐久レースです。
さすがに、1次予選から全員聴くなんていうことはしませんでしたが。
最初は、これはっていうショパンになかなか出会えないなぁって思ってたんですよね。
ほら、何しろ私のスタンダードって、アレですから。
別にわざわざ比較するつもりは毛頭無いんですけど、やっぱり無意識的にねぇ、なんだかんだとあったりなかったりするわけですよ。
そんなわけで、始まってしばらくは、楽しみつつも、割と冷静というかシビアに見ていたんですが(私が比較的苦手とするロシア系ピアニストが多かったことも一因)、心に引っかかるピアニストが誰もいなかったかというとそんなこともなく。
2次くらいからかなぁ、オーストリアの、Ingolf Wunder(インゴルフ・ヴンダー) というピアニストがなかなか良いぞ、と思い(1次のバラ4なんかも印象は良かった)、3次はかなり一生懸命聴いたんですが、今回必須課題曲になった幻想ポロネーズで涙し、8割がたノックアウトされてしまいました。
そして、昨日(というか今朝だ・・・・・・)、ドキドキワクワクしながら聴いた本選の協奏曲で、すっかり惚れ込んでしまったのでした。
大興奮のあまり中継が終わった後も全く眠れず、頭に血が上りきったまま仕事に行ったという。
ああもう、なんだかアホすぎる。
Ingolf 君の演奏には、(オーストリア出身という先入観はあると思いますが)ウィーン宮廷を彷彿させる貴族的洗練と上手さ、シャープすぎない典雅さやまろやかさがあるのですよね。
でも軟弱、柔弱な音楽かというとそんなことはなくて、色々経験して強く、優しくなりました、という包容力と風格をたたえた演奏。一つ一つの表現がとても丁寧で、歌心たっぷりながら、変にこねくりまわさない素直さと、音楽に対する誠実さが感じられるのも好印象です。
そうだな、ベーゼンドルファーあたりでシューベルト、ベートーヴェンなんかも似合いそうですね。
VIDEO ARCHIVE
こちらのショパン・コンクール公式サイトのVideo Archiveにて、一次から本選まで全部の演奏を見ることができます(公式サイトには他のコンテスタントの演奏も網羅されています)。
今回、優秀なコンテスタントはいるけれど、圧倒的に飛びぬけた人がいなくて(某優勝候補は、ショパン弾きとしては私の好みでは全くなく)、正直、1位無しで良いんじゃね?くらいの気分でした。
それが、Ingolf 君の3次の幻想ポロネーズを聴いたら、これがまた演歌ではないのに不思議と泣かせる演奏でして、こういう(表現的な)難曲をここまで説得力をもって聴かせることのできる人に、是非とも勝って欲しいなぁなどと思い始めまして。
まぁでも、ちょっとインパクトに欠けるかなぁ無理かなぁ、もっと派手なのもいるしなぁなどと、かなりグルグルしておりました。
本選の協奏曲が超絶に素晴らしければ、あるいは可能性があるかも、、、とも思っていたのですが、こればっかりは、予選の段階では全く予測がつかないのですよね(若い人は大体オケと合わせる機会が少ないので、経験不足ゆえに大崩れする例もあったりするため、予選の印象だけでは図りがたい部分がある)。
そんなわけで、期待半分不安半分で、今朝(早朝)の本選ストリーミングに挑んだ私でしたが、Ingolf 君の協奏曲1番を聴いたら、「あ、もう、今回の(私の)ショパコンはこれでおしまいでもいいや」って思ってしまいました。
ホント清々しいくらいに。
要するに、超絶に素晴らしかった。
このタフなコンクールを予選から本選まで勝ち進むのがどれだけ過酷か、、、数々のコンクール猛者たちが容赦なく落とされて次のステージに進むことができないのを見ていれば、なんとなく想像はつくってものです。
だから、本選ともなれば、それはもう壮絶なプレッシャーがかかることでしょう。
優勝、入賞という文字が目の前にちらついて、いろいろと欲が出るかもしれない。
Ingolf 君って、前回の2005年のショパン・コンクールにも出ていたんですね。
当時は本選には進めなかったから、今回は満を持して、ということでもあったでしょう。
そういう状況で、力むな、というほうが無理だし、緊張して、固くなって当然。
だけど、このIngolf 君ときたら、、、本当に、無私というか無欲というか、目の前にある音楽だけに心を向けて、真摯に音を紡いでいたのではないかと思うのです。
胸が痛くなるような切なさいっぱいの第1楽章を経て、2楽章くらいからなにか一皮むけたような感じ。
そして、3楽章がもんのすごかった。
まるで大輪の花が開いたような、いや違うな、新たな世界に足を踏み入れたような、というべきか。
練習通りに弾けてるというよりも、練習よりもよく弾けてたんじゃないの?ってくらいすごかった(練習がどんなかを知ってるわけではないけれど、練習であれだけのハイテンションで弾かないような気がする)。
とにかく、この3楽章は、Ingolf 君、ピアノを弾くのが楽しくて楽しくて仕方がないという感じでした。
私は、このショパン・コンクールの本選という大舞台で、こんなに嬉しそうに、幸せそうにピアノを弾く人がいるのか・・・!と驚愕し、大変陳腐な表現ではありますが、心底感動し、猛烈な幸福感に包まれてしまったのでした。
Ingolf 君、協奏曲1番に対する好き好きオーラもダダ漏れ状態で、いやあの分かったからさ、そんなに幸せそうに笑み崩れるなよー、、、と思わず突っ込みを入れてしまったほど(7分58分あたりとか、どう考えてもデレデレし過ぎではないかと思う・・・)。
これでもし腕が悪かったら話になりませんが、まぁ快演も快演、ノリにのってて跳ねるは弾むは、しかも決めるべきところは気持ち良いくらいに決まるは、鮮やかなことといったらありません。
最後のしめも、文句無しのパーフェクトでしたね。
何かが憑いてた、という風にいえるかもしれないけれど、それよりはむしろ、音楽の女神の加護を受けながらも、自力で階段を上ってドアを開けた、そんな印象でしたかしら。
もうね、コンクールの演奏じゃなかったですよ。
音楽の神様に愛されて、背中に羽が生えちゃったな、という感じ。
まだ演奏の終わってないコンテスタントも3名ばかりいるし、当然、順位とか色々あるんですけど、これだけの演奏をされちゃったら、諸々のことがどうでも良くなります。
なんだか憑き物が落ちてしまったような気分です。
ライヴで聴けて、あの瞬間に立ち会えて、本当に本当に幸せでした。
Ingolf君、ありがとう!
12月と1月、日本に来てくれるのを楽しみに待ちます(まぁ12月に来るためには優勝必須なんで、そういう意味では是非とも勝っていただきたいのですが・・・)。
本日の本選はこちらからどんぞ。
Online Broadcasting
ショパン・コンクール最終日です。
私も夜更かし頑張ろう。
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