くらしきコンサート
第102回くらしきコンサート
「ピョートル・アンデルシェフスキ ピアノ・リサイタル」
2017年10月3日(火) 午後7時開演
倉敷市芸文館
プログラム
モーツァルト 幻想曲 ハ短調 K.475
モーツァルト ピアノ・ソナタ 第14番 ハ短調 K.457
ショパン ポロネーズ 第7番 変イ長調 op.61「幻想ポロネーズ」
* * * * *
ヤナーチェク 草陰の小径にて 第2集
J.S.バッハ イギリス組曲 第6番 ニ短調 BWV811
アンコール
ショパン マズルカ ハ短調 op.56 NO.3
ショパン マズルカ ロ長調 op.56 NO.1
ショパン マズルカ イ短調 op.59 NO.1
8月から10月にかけて公私ともに移動しまくりだったんですが、結構キツかったのがこの倉敷。
このすぐ後の週末の兵庫(バルトークのピアノ協奏曲3番)に行く気満々だったこともあり、倉敷は正直行かなくても良いかな、、、(どうせ来年の3月にリサイタルで来るし)と大分迷ったんですが、せっかく休みが取れたので、行ってきました。
結果的には大正解。
日頃なんだかんだと口煩いファンでごめんなさい、な私ですが、もう文句無しに良かった!!!です。
近年稀に見る素晴らしさで、個人的ぴおとるさん史では一二を争うレベル。
一番は2011年サントリーですが、方向性は全く違えどそれに匹敵するくらい素晴らしかったです。
いやー、本当に頑張って行って良かった…。
こういうことがあるものだから遠征は止められません。
別に東京公演だから演奏が良いってわけでも無いし(もちろん中央だと気合いが入る可能性は高いですが)、いつどこで大当たりコンサートに遭遇するか分からないんですよね。
あまりにも素晴らしいものだから、モーツァルトではやたら幸福感に包まれ、もうこの世にピアニストはこの人だけで良いやと思ってしまいました。
もちろん、冷静に考えればそんなことは無いんですが(あの人もこの人も好きだ)、この時は本気でそう思ったんですよね。
バッハでは、無神論者のクセに、これは神様が何かご褒美をくれたのかな?私最近何か善行おこなったっけか?などと埒もないことをツラツラ考えてしまう始末。
いやでも本当に、音楽の神様ありがとう。
モーツァルトの幻想曲。
極小のピアニッシモの凄み。
ピアニッシモも、極めると恐いということが分かる。
前に聴いた時よりドス黒さは減じていましたが、音楽が完璧に手の内に入り、表情も起伏もここまで突き詰められるのか、という演奏。
間(ま)がとても印象的で、予想よりも気持ち(一呼吸)長め。
そこに空間が生まれる妙。
2次元ではなく、3次元の音楽。
私は黒アンデルさん、白アンデルさんと言ったりするんですが、この日は白アンデルさん降臨の日でした。
ものすごく集中はしていたけれど、骨身を削るような切迫した感じではなく、どこか明るさやポジティブなオーラがあって、まったき音楽に触れている感がありました。
それにしても、モツソナ14番の手の込みようといったらなかったです。
一楽章は緊張感が漂い、二楽章では極限まで音量を絞って、薄い氷の上を歩くような繊細さ。
フレーズフレーズ、一音一音とことん考え抜かれていて空恐ろしいほど。
それでいて、音楽は、今まさに生きて、滔々と流れている。
この両者(精巧な作り込みと、その結果の即興性とでも言いましょうか)が両立してしまうのが、ぴおとるさんの稀有なところなんですよね。
ショパンの幻想ポロネーズ。
これもまた鬼のような、限界に挑戦するようなピアニッシモで、音を、旋律を細心の注意を払いながら紡いでいましたが、聴きどころはピアニシモだけではなく。
大きく取られた間(ま)は、小宇宙的な雰囲気を醸し出します。
静けさの音楽かと思いきや、明暗のコントラスト、感情の振幅はとても大きく、哀切を湛え、毅然としていて勇ましくもあります。
幻ポロは、基本的に起承転結が分かり難く、とらえどころの無い曲だと思うので、聴き手に素直にああ良い曲だなと思わせるのは結構難しいような気がします。
この日の演奏は、幻想曲風の型や枠を逸脱するような雰囲気を帯びつつも、存在の確かさというのかな、しっかりした軸を感じさせる、説得力を備えた名演だったと思います。
幻ポロに関してはおそらく滅多にないことだと思いますが、もう、単純に感動したというか、グッときたというかで、ああこりゃ名曲だなって素直に思いましたね(結構泣きそうだった)。
あと、技術面が大分ブラッシュアップされたのか、苦手なのかな?と思っていた箇所も無事にクリアされててホッとしました。
以前聴いたものとは、外見も中身もなんだか別物のようでしたね。
やっぱりワンシーズン弾きこむと、技術面、表現面ともに大分違うんだろうなぁと思いました(まぁこの両者は両輪の輪みたいなもので、技術面が上がると表現面も深まるということはあるんでしょうけれど)。
ヤナーチェクの草陰の小径にて第2集。
安定のヤナーチェク、もはや十八番の域ですね。
ぴおとるさんって絶対、まんまこういう人だよねー以上、みたいな演奏でした。
風のようで、強靭で、くるくる表情が変わって、しなやかで、時々不条理で、でも一本芯が通っている。
演奏は人なり、だと思うんですが、どうでしょう。
バッハのイギリス組曲6番。
私この曲ピョートルさんで聴くの多分6回目ですが、本当によく弾き込んであるなーとしみじみ感動。
ヤナーチェクから拍手なしでプレリュードに突入、スラヴの超インナーワールドあるいは個人的なモノローグ的世界から、厳格なバッハの小宇宙へ一変。
これは見事な切替でした。
プレリュード、ゆったり深々と進む導入も素晴らしいけれど、テンポアップしてからが白眉。
キレキレノリノリで、実に鮮やか。
対位法の縦横無尽の応酬で、壮大な大伽藍が完成するのを見るよう。
全く隙が無く、息もつかせぬ押し押しモードのあまりのカッコよさに、思わず惚れ直しました
最後のジーグまで全く緩まず、でしたが、数年前(サントリー)の人を殺せそうな壮絶な終曲とはかなり別物でした。
音楽のフォルムの甘さを排除するストイシズムや、攻めるところは攻める攻撃的な面はありつつ、終始、これは今日は機嫌が良いよね、と思わせる明るさ(本人比)がありました。
この辺の明るさは、ある種の余裕なのかもしれないし、円熟と呼ぶべきものなのかもしれません。
以前の壮絶かつギリギリな感じのバッハもインパクト大だし、ぴおとるさんしか成しえない世界だとも思うけれど、今回は今回で大変に素晴らしいと思いました。
謹厳さと伸びやかさ、ガッチリとした構築美と縦横無尽の運動性など、明と暗、プラスとマイナス、相反する要素が見事に並び立っていて、それは見事なバッハでありましたよ。
アンコールはショパンのマズルカ3曲。
大サービスですね。
どんだけ機嫌良かったんだろ。
ピョートルさんのマズルカ、私は好きですけど、アレ、普通に良いんだろうか?とも思ってしまったのは、リズム感の部分。
二曲目はリズムの取り方(アクセント)が大分珍しい感じだったような。。。
なお、ショパン・マズルカのop.56とop.59は、昨シーズンのプログラムで幻想ポロネーズと合わせて弾いていた曲です。
北九州のリサイタルは諸般の事情でパスしましたが、もう完璧に満足しきったので、全然悔いは無かったです。
むしろ上書きしたくなかったので良かったかなと。
兵庫のバルトークに続く。
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